サステナビリティ
統合レポート2022

マテリアリティ 3

カーボンニュートラル
の実現

提供価値(5)
カーボンニュートラルの実現

パートナリングによる共創で、持続可能な社会に向けたカーボンニュートラルの実現と気候変動問題の解決に貢献していく

取締役執行役員専務
技術統括本部長
吉村 和幸
auエネルギーホールディングス株式会社
代表取締役社長
中桐 功一朗

気候変動という世界共通の課題に対するKDDIの課題はどのようなものでしょうか?

吉村
気候変動は、世界で取り組んでいかなければいけない人類共通の課題です。KDDIは、通信事業を行う上で台風などの自然災害の影響を受けるため、事業のリスクを減らすためにも、カーボンニュートラル(以下、CN)の重要性を実感しています。通信事業者として、社会インフラである通信をお客さまに提供していく使命がありますが、5Gの展開にあたっては、従来の3G・4Gよりもさらに多くの基地局が必要です。基地局は電波を発信するために多くの電力を使うため、5Gで新しい世界をお客さまに提供するには、使用電力が増えてしまうというジレンマがあります。提供エリア拡充と使用電力削減、CNの両方をしっかりと実現することが、KDDIにとっての大きな課題だと思っています。

エネルギー事業を行っているauエネルギーホールディングスとしての課題はどのようなものでしょうか?

中桐
国際社会では、エネルギー危機によって電源・エネルギーの取り合いが起きています。例えばヨーロッパでは、ロシアによるウクライナ侵攻の影響でエネルギー不足が起こり、CO2排出量が多い石炭への回帰が見受けられます。まずはこのエネルギー危機を乗り越えた上で、持続可能な社会の実現に向けてCNを進めていく必要があると考えています。
電気小売業の立場で脱炭素社会を実現することは、非常に難しい課題です。僅かな自前発電能力に留まるauエネルギーホールディングスでは、供給電力を低炭素・再生可能エネルギーに切り替えていくことが重要になると思っています。私たちとしては、まずお客さまに対して、そしてKDDIの通信設備に対して、脱炭素に向け再生可能エネルギーを提供することを推進していきます。さらに、エネルギーをより効果的に使用するソリューションを法人のお客さまに提供していくことが、社会のCN実現に向けた使命だと思っています。

CNの実現に向けた、各社の強みをお聞かせいただけますでしょうか。

吉村
技術面や事業面におけるパートナー企業との協働がKDDIの強みであり、CNの実現に向けてもパートナリングを重要視しています。例えば、通信用サーバの省電力化に向けたIntel Corporationとの実証実験では、国内で初めてAIを活用し、電力消費量を最大20%削減できることを実証しました。2024年頃の商用化を目指して、導入に向けた検討を進めています。他にも、三菱重工株式会社とNECネッツエスアイ株式会社と3社で、液体でIT機器を冷却する液浸冷却装置を活用した実証実験を行っています。同実験では、従来型のデータセンターに比べて、電力消費量を43%削減できるという結果が得られており、実用化に向けて検証を進めています。
基地局に関しては、ノキアソリューションズ&ネットワークス合同会社との実証試験で、AI制御により最大50%の電力消費量を削減できることを確認しました。安全性を検証した上で商用化を進め、サーバの追加やデータセンター増設の需要の高まりに応えていきます。
そして、実証できた新しい技術をKDDIグループ内でも活用できることが、パートナリングのメリットのひとつです。基地局からお客さまへのサービスといった、川上から川下までトータルのビジネスとしてCNの実現に向けて取り組めることは、非常に大きな強みだと思っています。

中桐
auでんきは、約338万(22.3期)のお客さま基盤があり、auショップなどを通じたお客さまとの接点が強みです。また、CN・脱炭素へのニーズが高い法人のお客さまに対し、傘下の株式会社エナリス(以下、エナリス)を通じて、脱炭素メニューや脱炭素ソリューションを提供しています。また、KDDIとエナリスは、2016年から経済産業省のバーチャルパワープラント(以下、VPP※1)の実証事業に取り組んでおり、VPPの技術や知識の蓄積が大きな強みと言えます。VPPをコントロールする上では、5Gの特性である通信の多接続と低遅延が重要になり、通信会社の高い技術力を活かし、VPPの高度化を実証事業で実現しました。通信事業と電力事業の技術的な融合が、大きなシナジーを生み出しています。さらに、基地局周辺の空きスペースを有効活用し太陽光パネルや蓄電池を設置するなど、VPPの技術を使ってさらなるCN化を推進できると考えています。

CNの実現に向けた具体的な取り組みをお聞かせください

吉村
KDDIは、自社の事業活動におけるCO2排出量実質ゼロの実現を2050年度から2030年度に大幅に前倒ししました。CNを実現するためには年間109万トンのCO2削減に取り組む必要があります。その109万トンの98%が基地局・データセンターなどの通信設備からの排出で、基地局だけでも6割を占めています。2022年3月末に実施した3G停波により、3G設備による電力使用量を削減したことはひとつの成果です。また、既存のデータセンターにおいては、再生可能エネルギー由来の電力への切り替えを進めており、欧州のデータセンターではすでに再生可能エネルギー100%を達成しました。新規のデータセンターを建設する際には、再生可能エネルギー利用率100%をベースに設計しています。さらに、基地局の電力使用量の削減に向け、ソフトバンク株式会社との基地局の共有、AIを使った通信用サーバの省電力化、液浸技術によるIT 機器の冷却の他、気候変動問題に取り組む企業を支援するCVCファンド「KDDI Green Partners Fund※2」による、薄くて軽く折り曲げられるペロブスカイト太陽電池※3を開発するスタートアップ企業への出資など、あらゆる分野でCNの実現に向けて取り組んでいます。
中桐
個人のお客さまには、再生可能エネルギー比率実質100%でCO2排出量実質ゼロの電力をご利用いただけるauでんき「ecoプラン」を提供しています。法人のお客さまにおいても、ESGの潮流を受けてCN実現に向けた動きが加速しており、さらに多くの再生可能エネルギーを提供することが求められています。また、KDDIグループ全体のCNを達成するためにも、電力小売事業者としての役割を果たしていくことが重要だと思っています。

CN実現に向けての想いや、CNが実現した社会への期待について、コメントをお願いいたします

吉村
KDDIは、KDDI VISION 2030で『つなぐチカラを進化させ、誰もが思いを実現できる社会をつくる。』というメッセージを掲げています。目指す社会のベースにあるのは通信事業です。通信を進化させるには電力が必要で、通信の進化とCNを同時に実現することは、大きなチャレンジであり、非常に夢のある仕事でもあります。
志を高く持って、社会や地球環境にも貢献していきたいですし、その実現は不可能ではないと思っています。新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大の影響でリモートワークが普及したことにより、通勤などの人の移動が減っています。これにも通信の活用が寄与しており、さらに再生可能エネルギーを使って通信を提供できれば、より良い地球環境に貢献できます。省エネを推進することにより、通信が電力を大量に消費する時代を変革し、地球環境にとって好循環を構築できればと思っています。
中桐
未来を見据えた時、CNは非常に大きなビジネスチャンスです。
火力・原子力・水力発電において整備された従来の重厚長大な電力提供のサプライチェーンが、CNになると大きく変わると思っています。各家庭にソーラーパネルやEVのような蓄電池が普及していくことで、昼間に発電した電気を家庭で使う、余ったら売るというライフスタイルが一般的になるでしょう。電力の取引市場がより身近になれば、個人が電力の売買でマネタイズできる可能性もあります。再生可能エネルギーがもっと普及すれば、エネルギーを取り巻くビジネスにパラダイムシフトが起き、そこに大きなビジネスチャンスがあると思っています。エネルギー危機を乗り越えた上で、分散電源や再生可能エネルギーへのシフトが進めば、住みやすく、クリーンな世界が実現できるのではないかと期待しています。それは私たちだけでは実現できません。KDDIグループやパートナー企業の皆さまのお力をお借りしながら、ともにCNの実現と気候変動問題の解決に貢献していきたいと思っています。

  • ※1小規模な発電所や、電力の需要抑制システムをIoTなどで1つの発電所のようにまとめて制御を行う「仮想発電所」
  • ※2,3KDDI Green Partners Fund

提供価値(5)

カーボンニュートラルの実現

[ サステナビリティ中期目標(23.3期-25.3期) ]

カーボンニュートラルの実現
  • 2026年度(データセンター)
  • 2030年度(単体)
  • 2050年度(グループ)
法人契約に占める再エネメニュー率
60%強
次世代再エネソリューションの提供
  • EVステーションの設置
  • 仮想発電所(VPP)
  • IoTを活用した再エネインフラメンテナンス 等
  • Scope1+2

[ 具体的な取り組み ]

  • データセンターの再生可能エネルギー由来電力への切り替え
  • 他通信事業者との基地局の共有
  • AIを使った通信用サーバの省電力化
  • 液浸技術によるIT機器の冷却
  • 「KDDI Green Partners Fund」による、気候変動問題に取り組むスタートアップ企業への支援
  • 再生可能エネルギー比率実質100%でCO2排出量実質ゼロの電力をご利用いただけるauでんき「ecoプラン」の提供(個人のお客さま
  • 脱炭素メニューや脱炭素ソリューションの提供(法人のお客さま)

[ 強み ]

  • 技術面や事業面におけるパートナー企業との協働
  • 実証できた新技術のKDDIグループ内での活用
  • 豊富な顧客基盤とauショップなどを通じたお客さま接点

[ リスク ]

  • 5G提供エリアの拡充に伴う電力使用量の増加
  • 気候変動を起因とした台風などの自然災害による通信事業への悪影響

[ 機会 ]

  • 環境に配慮した基地局の建設や、ICTを活用して省エネや社会の環境負荷低減につながるサービスを各国・地域で提供することによる事業成長

[ 社会課題 ]

  • 地球温暖化の進行、気候変動に伴うさまざまなリスクの発生
  • 国際紛争等によるエネルギー危機

2030年度までに自社の事業活動におけるCO2排出量実質ゼロを目指す

KDDIは、2030年度までに自社の事業活動におけるCO2排出量実質ゼロ実現を目指します。また、KDDIグループ全体では2050年度までにCO2排出量実質ゼロを目指します。


CO2排出量削減に向けた取り組み

  • 携帯電話基地局や通信局舎で使用する電気の再生可能エネルギー電気への切り替え(非化石証書の活用を含む)
  • 自社オフィスへの再生可能エネルギー導入
  • 携帯電話基地局への太陽光発電設備の導入
  • 携帯電話基地局や通信局舎における省電力技術の導入※1
  • 携帯電話基地局設備の他社との共用※2
  • エネルギー効率が高い通信局舎の新設
  • データセンター利用状況に応じた空調効率の最適化
  • 災害時など非常時の電源車への水素発電の導入※3
  • KDDI Green Partners Fundを通じた環境取り組みへの投資

CO2排出量実質ゼロに向けたロードマップ

2026年度までに全世界のデータセンターのカーボンニュートラル実現を目指す

KDDIは通信事業者として、通信サービスを提供することで業務の効率化や社会の活性化に取り組み、社会全体のCO2排出削減に貢献できると考えています。
自社の電力消費による負荷低減については、省エネ施策と再生可能エネルギーの技術革新を通じて、従来の目標を大幅に前倒しします。「TELEHOUSE」のブランド名でグローバル展開するデータセンターは、いち早く2026年度のカーボンニュートラルを目指しています。

  • KDDIグループが建物・設備を保有するデータセンターを指し、他社のデータセンター施設や設備の一部を借り受けてサービス提供する形態を除きます。

国際的な気候変動イニシアチブのSBT認定を取得

KDDIグループは、2022年2月に国際的イニシアチブ「SBTi(Science Based Targetsinitiative)」によるSBT認定を取得しました。KDDI単体(国内)で掲げているCO2排出量削減目標に加え、KDDIグループ全体で目標を新たに掲げることで、気候変動対策をより一層推進していきます。
CO2排出量削減にむけ、携帯電話基地局や通信設備などでの省電力化や、再生可能エネルギーへのシフトを推進していきます。


本目標について

対象項目 目標(グループ)
Scope1 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出 2030年度までにCO2排出量を2019年度比50%削減
Scope2 他者から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
Scope3 Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他者の排出) 2030年度までにCO2排出量を2019年度比14%削減

国際的な気候変動イニシアチブのSBT認定を取得

KDDI Green Partners Fund

2021年11月、気候変動問題に取り組むスタートアップ企業を支援するため、5年間で50億円を投資する「KDDI Green Partners Fund」を設立しました。KDDI Green Partners Fundのスローガンには、「豊かな地球を未来へつなぐ」を掲げています。
カーボンニュートラル実現に向けた大きな原動力となるのが、企業や組織の枠組みを超えた共創によるイノベーションだとKDDIは考えています。このファンドの活動を通じて気候変動問題に取り組むスタートアップ企業に資金を提供するとともに、KDDIの有するさまざまなアセットを出資先企業の成長機会として活用していただくことで、環境分野における技術革新や新技術の普及拡大に、共に取り組んでまいります。
2022年3月に、第1号案件として次世代太陽電池開発のエネコートテクノロジーズへ出資しました。カーボンニュートラル実現に向け、太陽光発電設備のさらなる導入が求められていますが、平地の少ない日本では、太陽光発電設備の適地不足が予想され、この解決策として、既存の技術では発電設備を設置できない場所にも導入できる次世代太陽電池の開発が期待されています。

エネコートテクノロジーズが開発するペロブスカイト太陽電池は「薄い」「軽い」「曲がる」といった性質と高い発電効率を両立し、建物の壁面や耐荷重の小さい屋根などへの適用が見込まれています。

また、既存の太陽光発電では十分な発電効率が得られなかった、曇り空や室内光などの中・低照度領域においても高い発電効率を有しています。面積・照度の2つの観点において、既存技術の設置制約の解消が期待されています。
エネコートテクノロジーズとは携帯電話基地局の再生可能エネルギー発電の実証実験を予定しており、将来的には基地局に導入したいと考えています。

エネルギービジネスによる社会のカーボンニュートラルへの貢献

KDDIグループでは個人のお客さまに向けに再生可能エネルギー比率実質100%の環境に配慮した電気サービス「auでんきecoプラン」を2021年9月1日から開始しました。本プランは電気料金の一部が環境保全活動に寄付される仕組みで、ご加入いただくことで環境保全に貢献することができます。
寄付は、主にアジア・太平洋地域で環境保全活動や農村開発を展開する国際協力NGOの公益財団法人オイスカを通じて、植林活動や森林整備等の環境保全活動に活用されます。
また、KDDIグループでは、17.3期から21.3期の5ヵ年は経済産業省の「バーチャルパワープラント構築実証事業」に、22.3期から23.3期は経済産業省の「分散型エネルギーリソースの更なる活用に向けた実証事業」に参画し、家庭用蓄電池などの制御に関する技術的課題や精度向上、また5G通信とMulti-access Edge Computing(MEC)の技術を活用し、高速・高精度化を実証を通じて積み重ねてきました。
今後、実証で培ったと制御技術と、制御に不可欠な5G等のモバイル通信技術を活用し、電力の需給バランス維持に寄与することを通じて、国内の再生可能エネルギーの導入の課題解決に貢献していきたいと考えています。


液浸冷却装置の活用および小型データセンターの実現に向けた実証実験

KDDI、三菱重工業株式会社(以下 三菱重工)、NECネッツエスアイ株式会社(以下 NECネッツエスアイ)は、2021年6月21日から、地球環境保全を目的とした消費電力削減および脱炭素化の取り組みとして、液体でサーバを冷却する液浸冷却装置を活用し、それらをコンテナに収容した小型データセンターの実現および、国内における23.3期の社会実装を目指し、実証実験(以下 本実証)を開始しました。
本実証では、KDDI、三菱重工、NECネッツエスアイが、業界の枠を超えてそれぞれの強みを持ち寄り、50kVA相当のサーバと液浸冷却装置を12ftのコンテナに収容し、十分な冷却性能を発揮しながらも、業界最小水準であるPUE1.1以下のエネルギー効率を目指します。これにより、データセンターとしての消費電力は約35%の削減が見込まれ、電力を大量に消費するというデータセンターの課題に応えると同時に、二酸化炭素の排出抑制が期待できます。
また、データセンターの置き場所の選択肢が増え、設置環境や条件を大きく緩和し、設置が容易なデータセンターを実現することで、既存のデータセンターの処理を補完し、高速かつ遅延の少ないデータ処理を可能にします。さらに、高性能で高密度に実装された冷却機構は、より大型のデータセンターにもサーバ実装数の増加やエネルギー消費量の低減といったソリューションを提供できると考えています。
3社は今後も、本実証を通じて、国内のデジタルトランスフォーメンション (DX)の発展とともに、脱炭素化および地球環境保全に貢献していきます。


基地局AI制御技術と基地局液体冷却技術による電力使用量削減

KDDIとノキアソリューションズ&ネットワークス合同会社(以下ノキア)は2021年6月18日に、携帯電話基地局の電力使用を抑えることでCO2排出量の削減を目指す実証試験 (以下 本実証試験)の実施に合意しました。本実証試験では、ノキアの基地局AI制御技術と基地局液体冷却技術の2つの技術を日本で初めて商用の携帯電話基地局へ導入します。
基地局AI制御技術では基地局ごとのトラフィック量変化を分析し動的に電波を停波・発射することで電力使用量の最大50%削減、基地局液体冷却技術では基地局設備が収容されている室内にある空調の電力使用量の70%以上削減を目指します。
KDDIは各技術の効果検証とお客さまへのサービス影響の確認結果から、必要な追加開発や対象基地局の抽出を行い、2023年頃の本格導入を目指します。
両社は本実証試験の結果も踏まえ、今後もCO2排出量の削減を可能にするシステムの研究開発を実施していきます。


基地局AI制御と基地局液体冷却導入イメージ