KDDIは、医薬品輸送における課題の対策として、ドローン配送の実証実験を、参画企業5社と共に、2022年から積み重ねてきました。3年に渡る「ドローンによる医薬品配送」の取り組みと、その可能性をひも解きます。
医薬品の備蓄の廃棄ロスが病院や医療機関の負担に
病院や医療機関には、緊急時や予期せぬ状況にも対応できるよう、さまざまな種類の医薬品が備蓄されています。しかし、備蓄された医薬品が全て、予定通り使用されるわけではないと、医療用医薬品を扱うメディセオの河野 絢平さんは明かします。
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「稀用医薬品は使用頻度が少なく高価な医薬品を指しています。そんな稀用医薬品が、病院や医療機関にて投与の中止などで未使用のまま使用期限を迎えた場合の廃棄ロスによるコストが病院や医療機関にとっての大きな課題となっています」(河野さん)
このような医療の課題を解決するために、今、新たな仕組みや技術が必要とされています。KDDIを含む6社、KDDIスマートドローン、日本航空(以下JAL)、メディセオ、東日本旅客鉄道、ウェザーニューズは、2022年にコンソーシアムを構築し、ドローン物流による医療物資輸送の社会実装に向けたプロジェクトを展開してきました。
プロジェクト発足の経緯について、KDDIのビジネス事業本部の保澤 辰至は次のように説明します。
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「2022年に施行された改正航空法により、ドローンのレベル4飛行が解禁され、制度上は民家の上空など有人地帯の飛行が可能になりました。それを見越して公募された東京都の『ドローン物流サービスの社会実装促進に係る実証プロジェクト』に応募したことが、本プロジェクト発足のきっかけでした」(保澤)
これまで、日本でのドローンの使用は、「無人地帯における目視外飛行」または「無人地帯と有人地帯における目視内飛行」に限られていました。しかし、レベル4飛行によって、人が住んでいる地域や、人の立ち入りがある有人地域でも目視外での飛行が可能になり、物流や配送、インフラ点検、災害対応など、さまざまな分野での実用化が期待されています。
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日本初のレベル4飛行による医薬品ドローン輸送を実証実施
本プロジェクトの実証実験が本格的にスタートしたのは2023年2月。第1弾として、ドローンで輸送する際の安全性を確認するための実証実験を、1カ月にわたり東京都あきる野市で実施しました。
さらに、2023年12月には、東京都西多摩郡檜原村にて、日本で初めて医薬品をレベル4飛行で輸送する実証実験を実施。檜原診療所と特別養護老人ホーム 桧原サナホームを結ぶ有人地帯の上空を含む飛行ルートを設定し、1週間にわたって、物流用ドローンの自動飛行を行いました。
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2024年10月には人口密集地である都市部でのサービス実装に向けて、檜原村で2回目の実証実験を実施し、都市部でのサービス実装に向けて、医薬品配送の発注から荷物の受領まで、ドローンによる配送業務フローのプロセス構築を行いました。
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レベル4飛行が可能になり、ドローン操縦に求められるスキルレベルは、以前に比べて格段に高まっています。これを受け、本実証実験では、JALが航空機運航の際に操縦者をはじめとした運航従事者に対して行うCRM(Crew Resource Management)の訓練をドローンの運航に導入し、より高い安全性を確保したオペレーション体制の検証を行ったと、JALの村上康司さんは話します。
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「CRMとは、JALが航空運送事業にて培ってきた有人機の安全運航のノウハウであり、『安全運航のため、利用可能な全てのリソースを有効活用する』という考え方のことです。KDDIが開発した複数のドローン事業者の運航管理を行うシステムに、JALが培ってきた安全管理や運航管理といった航空運送事業の技術・知見を組み合わせることで、ドローンの運航管理業務を行う体制の構築を目指しています」(村上さん)
ドローンの高度化に伴い増していく「通信」の重要性
ドローンの運用には、リアルタイムでデータやコマンドを送受信するための通信技術が欠かせません。特に、ドローンを遠隔操作する際は、操作ミスや通信の途絶が重大な事故を引き起こす恐れがあるため、通信の安定性が極めて重要です。このような背景の中、本プロジェクトを通信事業者であるKDDIが取りまとめた意義について、村上さんと河野さんは次のように語ります。
「JALは2020年ごろからドローン事業に取り組みはじめましたが、自社の知見だけでは実現できないところがあると感じていました。ドローンの高度化に伴い、今後ますます通信が重要なウェイトを占めると予想されます。2023年12月には、KDDI、KDDIスマートドローンと資本業務提携の上、私たちの航空事業で培った安全運航管理の知見・ノウハウも活かしながら、協力して実証実験を重ねてきました。こうした協働によって、KDDIと協力して実証実験を繰り返すことで、知見が深まることはもちろん、都市部でのサービス実装に向けた運航体制の安全性向上も見込めるのではないかと考えています」(村上さん)
「医薬品のドローン配送には、医薬品を配送する車両ドライバー不足の深刻化や、有事の際の道路寸断や通行止めによる配送への影響などの課題を打開する解決策となる可能性を感じています。当社はドローンや通信に関して未知の部分が多く、KDDIがプロジェクトの取りまとめ役として関わってくださったことは非常に心強かったです。また、各社が専門的な役割を担う中、KDDIに全体を俯瞰して調整いただくことで、実証実験を広い視野で進められたと感じています」(河野さん)
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パートナー企業と共に医薬品ドローン輸送の社会実装を目指す
実証実験を重ねたことにより、医薬品輸送のプロセスを精微化でき、都市部での医薬品配送ビジネスの実現性が高まりました。その一方で、課題も見えてきたと保澤は話します。
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「医薬品ドローンをビジネスとして成立させるためには、都市部で運航するための法制度や機体開発、人口高密度地域での検証が必要となってきます。また、運航体制の少人数化などドローン1機の運航体制の効率化も欠かせません。これまで誰もやっていないことに挑戦しているため、課題が次々に浮上するのは当然のこと。安全性や効率性を十分に検討した上で、ビジネスモデルを作っていきたいと考えています。本プロジェクトが、今後のドローン活用に向けた制度設計に貢献していればと思います」(保澤)
医薬品ドローン輸送ビジネスが実現すると、医療機関のコスト削減やリソースの再配置が可能となります。結果として、地域住民へのより良い医療サービスの提供や、在宅医療の合理化にもつながっていくはずです。
KDDIグループは、地域の課題解決や発展に貢献するために、パートナーと協力し、ドローンを活用した物流をはじめとする多様なサービスの展開を目指します。