2024年9月、KDDIは三菱商事、ローソンと共に、AIやDX技術を活用した「Real×Tech LAWSON」の拡大に向けた取り組みを発表。その構想を実現した1号店が、2025年6月23日、KDDIの新本社が位置する東京・高輪の「TAKANAWA GATEWAY CITY」内にオープンしました。
本記事では、テクノロジーによる業務効率化と、人が人にしかできない“温かい接客”の融合を目指す、ローソンクルー（従業員）の働き方について舞台裏に迫ります。
品出しも調理もロボットがアシスト。テクノロジーでクルーの負担を軽減
ローソン高輪ゲートウェイシティ店では、お客さまのお買い物体験を向上させる最先端の仕組みだけでなく、その裏側で働くクルーの業務を効率化するためのテクノロジーも数多く導入されています。この「クルーをアシストする」という観点から、まず取り組んだのが、日々の店舗オペレーションの改善でした。
店舗業務の中でも、特にクルーの大きな負担となっているのが、重量のあるドリンク類の品出しです。この課題を解決するため、提案したのが「陳列ロボット」だったと、KDDI LXビジネス企画部の奥谷 千尋は話します。
「ドリンク補充の身体的負担を大幅に軽減するロボットの導入を、KDDIからご提案しました。ロボットは人間よりもこまめに品出しを行えるため、ドリンクが常によく冷えた状態となり、お客さまにもメリットがあります。さらに、何を陳列してどれだけ減ったのかが分かるため、仕入れの最適化にも貢献します」（奥谷）
こうしたバックヤードの業務効率化に加え、ローソンの“顔”ともいえる商品の調理もロボットが担います。それが、人気商品「からあげクン」の調理ロボットです。これまで人間がつきっきりで行っていた作業を自動化しています。ローソン オープン・イノベーションセンター センター長の佐久間 大輔さんが、その仕組みを説明してくれました。
「からあげクンどうしがくっつかないように、油に入れてしばらくカゴを揺らす作業が必要です。今回のロボットは揺らすところと、揚げてバットに移すところのみを担当しますが、それでもクルーの負担は軽減されます。将来的には、からあげクンが冷蔵庫から自動で転がってきてカゴに入り、揚げて、箱に詰めて商品になるところまで、一連の工程を自動化できればと考えています」（佐久間さん）
こうした複数のロボット導入の効果は総合的な視点で捉えることが重要です。ドリンク補充のみをロボット化するのではなく、清掃や揚げ物といった複数の作業をロボットが支援することで、初めて人の作業量の減少を実感できます。そうして生まれた時間で、本来注力すべき接客に集中したり、売り場づくりなどに専念することが可能になります。
データが導く店舗改善と、アバターが生む新たな働き方
ローソン高輪ゲートウェイシティ店では、防犯カメラの映像やクルーが持つセンサーを活用して店舗内を可視化するシステムも導入しています。
奥谷はこのシステムの活用方法について、「特定の場所での人の滞留や、商品棚が空になりがちな時間帯など、より良い店舗運営のための課題とその改善策の提案をAIが分析してダッシュボードに表示するというものです。感覚ではなくデータに基づいた議論ができるため、スピーディーに改善を進めることができます。さらに、クルーの店舗内での業務量も、身に着けているセンサーから取得していきます。負担が重い業務などが可視化されていくので、業務最適化に向けた課題をただしく抽出することができます」と述べます。
このように、これまでクルーが現場で培ってきた経験や知見に、客観的なデータという裏付けが加わることで、店舗運営はさらに的確でスピーディーなものへと進化していきます。
もう1つの重要な取り組みが、一部の接客を遠隔から行う新しい仕組みです。セルフレジのサポートでは、遠隔地にいるクルーが、ディスプレイに映し出された3Dアバターの姿で対応。リモートでありながらも温かみや親しみやすさを感じられる接客を目指しています。
「アバターを介して行うのは、セルフレジのサポートです。接客はロボットよりも人が担うべき領域だと考え、アバターの中身はAIではなく、他の場所からリモートで人が対応しています。特に効果的なのが、酒やタバコの年齢確認です。セルフレジの場合でも、通常は、店員が年齢確認のために作業中の仕事を中断する必要があります。しかし、この確認をアバターが対応することで、クルーは他の業務に集中できるようになります」（佐久間さん）
この仕組みは店舗以外の場所からも対応できるため、外出が困難な方の雇用機会創出にもつながります。また、地域を超えた雇用創出により、都市部の人材が地方店舗をサポートしたり、逆に地方の人材が都市部店舗を支援したりといった、新しい働き方の可能性も広がります。深刻な人手不足の中での持続可能な店舗運営という観点からも重要な取り組みです。
常識を越えたコンビニの実現に向けた共創
こうしたテクノロジー導入の背景にあった思いについて、KDDI パートナーグロース本部の笠原 成樹は「お客さまの暮らしの中に溶け込んで、お困りごとをどう解決するかが重要なテーマでした。そのためには作業をテクノロジーで代替することによって負担を減らし、空いた時間を温かみのある接客に充てられるようにする必要があるのです。また、結果として集客や売り上げのアップにつながるという、経営目線での効果も期待できます」と熱く語ります。
その実現に向けた店舗設計では、課題もありました。例えば、陳列ロボットの導入では、コンビニの常識との調整も必要だったと笠原は振り返ります。
「多くの商品はある程度、どこに何を置くべきかが決められています。2リットルのドリンクは通常、下段に置くことが多いのですが、ロボットの仕様上、低い位置には対応できないという課題があり、ローソンの皆さんと一緒に対策を考えて柔軟に対応していきました。できないことを諦めるのではなく、どうしたら実現できるかをともに考えた結果、現在の形が実現しています」（笠原）
高輪から全国へ。未来の「働きやすい店舗」を目指す挑戦
ローソン高輪ゲートウェイシティ店で始まった、クルーをアシストする「リテールテック」の取り組み。これは、未来の「働きやすい店舗」を実現するための、大きな第一歩です。
今後、KDDIとローソンはこの高輪での挑戦で得られた知見やデータを基に、全国の店舗への展開を目指しています。しかし、それは開発した仕組みを画一的に導入するということではありません。都心の店舗と地方の店舗、それぞれの立地や環境によって、クルーが抱える課題や求める働き方は多様だからです。
この挑戦の根底にある「責務」について、ローソンの佐久間さんは、お客さまとクルー双方の視点が不可欠だと強調します。
「コンビニは当たり前にあって、便利で、おいしいものを買える場所として認識されています。しかし、人手不足や人件費の高騰、原材料の値上がりなど、この当たり前を維持できない社会に近づいています。お客さまが期待する“当然の便利さ”を維持しながら、同時にそこで働く人にとっても理想的な環境を作らなければなりません」（佐久間さん）
KDDIとローソンは、品出しロボットやAI分析、アバター接客を皮切りに、人手不足など店舗運営の課題をデジタル技術で解決する「リテールテック」の取り組みをさらに推進します。テクノロジーでクルーの負担を軽減し、一人ひとりが働きがいを感じられる店舗環境を整えることで、お客さまへのより良いサービスを支えていきます。
