KDDI、医用工学研究所、ロート製薬によるデータ分析が切り拓く医療の未来

少子高齢化が進む日本では、医療従事者の不足や医療費の適性化といった課題から、医療ビッグデータの利活用が注目されています。また、医薬品開発においては、欧米では承認されているが、日本では開発がされていない、または承認が遅れているドラッグ・ロス、ドラッグ・ラグと呼ばれる課題も抱えています。

KDDIは、こうした課題の解決に向けて、2023年に医用工学研究所(以下、MEI)と資本業務提携を締結し、2025年春に同社を連結子会社化しました。KDDIとMEIはKDDIグループとして一体となり、医療分野におけるデータ利活用をサポートする事業に取り組んでいます。

本記事では、KDDIとMEIが、ロート製薬とともに取り組んでいる医療ビックデータ利活用の最前線をお伝えします。

医療ビッグデータを活用した、新たな治療薬開発への取り組みへ

製薬業界では、新薬開発の長期化やコスト増大といった課題に直面しています。こうした製薬業界の課題を解決するために、データに基づくアプローチが期待されています。

こうした状況の中、KDDI、MEI、ロート製薬という異なる領域の3社が協力した新たなデータ活用のプロジェクトが始まっています。

KDDI、MEI、ロート製薬のプロジェクト内容

KDDIは2015年に輸送型血液検査サービス「スマホ de ドック」を提供して以降、日々の健康管理からオンライン診療、オンライン服薬指導、薬局連携などの医療体験までスマートフォンアプリでトータルに提供する「auウェルネス」、「au薬局」など、さまざまなヘルスケア・医療領域における事業開発を進めてきました。

スマホdeドッグ
auウェルネス

また、グループ会社であるARISE analytics において350名を超えるデータサイエンティスト集団を有し、データアナリティクス領域に関するアセットの強化に取り組んできました。

さらに2023年4月には、医療ビッグデータプラットフォームの開発・提供などの医療データ関連サービスを展開するMEIと資本業務提携を締結し、医療分野のデータ利活用促進をサポートする事業を開始しました。

この業務提携について、MEI データサイエンス事業本部の杉浦 夏樹は、次のように話します。

「私たちは電子カルテデータや医事会計データの活用による病院経営の課題解決に取り組んできました。MEIが進めている医療機関のデジタル化の支援に、KDDIが通信事業で培ってきたセキュアなデータ環境の構築やAI活用といった技術・実績が組み合わさることで大きな付加価値を創出できると考えています」(杉浦)

株式会社医用工学研究所 データサイエンス事業本部 RWD推進部 担当部長 杉浦 夏樹

MEIは医療機関が使用するさまざまなシステムに散在しているデータを集約させる医療用データウェアハウスシステム「CLISTA!」を提供しており、病院内データの横断検索や統計処理を実現してきました。 KDDIの持つデータ分析技術と、こうした医療データを扱ってきたMEIの実績を掛け合わせることで、医療分野に貢献できるシナジー効果が生まれます。例えば、プライバシー保護を徹底して匿名化した医療ビッグデータをAIに分析させることで、医療のさらなる高度化や効率化に役立つと期待されています。

医療用データウェアハウスシステム「CLISTA!」の利用画面

希少疾患研究におけるデータ活用の重要性

医療ビッグデータ活用の動きは、製薬会社でも進んでいます。ロート製薬は、目薬、胃腸薬などの一般用医薬品やスキンケア事業だけではなく、ヘルス&ビューティ事業の研究開発、再生医療を含む幅広い分野での創薬事業も展開しています。

ロート製薬 再生医療事業開発部の近藤 光さんは近年、希少疾患の臨床研究にデータベースを活用していると説明します。

「近年、医療ビッグデータを使って仕事を進める機会が増えました。従来は見えにくかったメディカルニーズを発見できたり、副作用の早期発見につながったりするなど、データ分析は創薬プロセスを効率化できます。特に希少疾患では、データによって可視化される情報が特に有益です」(近藤さん)

ロート製薬株式会社 再生医療事業開発部 臨床研究グループ 東京臨床チーム リーダー 近藤 光さん

また、KDDIからMEIに出向し、データ分析を担当している永田 雅俊は、「治療薬の研究開発においては、医療ビッグデータを分析することで、顕在化している課題解決に役立つこともあれば、潜在的な課題の発見につながることもあると思います」と強調します。

「一方で医療現場に向けては、通院する個人の患者さん一人ひとりの治療や健康増進のために何が必要か、データ分析を通じて見つけてフィードバックする仕組みの実現が可能です。こうした取り組みが、個々人の生活の質の向上を支えするサービスの実現に寄与すると考えています」(永田)

株式会社医用工学研究所 データサイエンス事業本部 RWDプラットフォーム部 データプラットフォーム課 担当課長 永田 雅俊(KDDIより出向)

永田はKDDI総合研究所で、ヘルスケア領域のデータ分析に携わっていた経歴を持ちます。そこでの経験を生かし、MEIでは主に電子カルテ由来のデータの分析を担当。今回のプロジェクトに、データ活用の経験と技術を注ぎ込んでいます。

医療データ分析が創薬の推進力に

ロート製薬の再生医療等製品の開発では、重篤な希少疾患を扱うことが多いため疾患の全容が見えにくく、臨床研究で必要な長期的データを取得するには何年もかかることがあります。しかし、医療データを有効に活用できれば、創薬の計画立案や調査のフェーズにかかる時間を短縮できる可能性が高まります。そこで、ロート製薬ではKDDIとMEIの医療ビッグデータを活用し、創薬の取り組みに導入しています。

「ロート製薬では現在、腎疾患領域でデータ活用を試行錯誤しています。疫学データが少なく、文献調査でもデータのほとんどない領域では、医療ビッグデータ分析が創薬の推進力になってくれます。データ分析によって、患者さんが病気を認識し、診断・治療を受け、回復やフォローアップに至るまでの一連のプロセス(ペイシェントジャーニー)を把握するには、データの質が担保されている事が重要です。患者さんが必要としている医療や治療を確認し、どの患者さんに、どの製品が適しているのか、治療満足度をどう高めるのか。そういった推測の精度向上は、データの質に左右されます」(近藤さん)

さらに、製薬会社が医療ビッグデータを活用する上で、近藤さんはデータ分析の依頼の仕方に工夫のポイントがあると説明します。

「医療データは複雑なので元となるデータをきちんと理解している人による分析が重要になります。製薬会社が必要とするデータを理解し、目的にあったデータを取得できるかを確認できることが大切です。だからこそ製薬会社側は、データ分析を依頼する際に意図を正確に伝え、どのようなデータが欲しいのかを明確化しておくことが重要といえます」(近藤さん)

近藤さんはそうした観点でも、KDDIとMEIには医療データに精通したプロフェッショナルが在籍して分析していることを評価しています。

一方で、時間の流れに沿って記録された経時的データを取得したくても、患者さんの通院ペースが一定でないこともあります。医療データに知見がある杉浦は、こうした点にも医療ビッグデータ活用のポイントがあると語ります。

「製薬会社さまとのディスカッションを通じてデータ分析を通じて実現したい課題を理解した上で、データ活用の効果を生み出せるよう取り組んでいます。当社としてもデータサイエンス事業は、まだまだ工夫の余地と伸びしろがあります」(杉浦)

そのため、MEIではデータサイエンティストに限らず、部署や立場を超えたディスカッションを重視しています。意外なデータが後から価値あるものとして発見されることもあるからです。

「例えば、これまで広く利用されている医療データベースには記載されていない情報が、当社の電子カルテ由来のデータには含まれています。後期高齢者を含む全世代をカバーしていますし、検査結果の数値、処方のオーダー情報もわかります。オーダーというのはつまり、医師からの指示情報です。薬が処方されたという結果だけでは何に対してどういう状況で処方されたのかが曖昧ですが、検査結果の数値がこうだったからこの薬が処方された、という患者の診療プロセスを追うことができます。これは当社の強みなので、課題解決のためのディスカッションを通じて、データから新たな価値に気づけること、AIなどの最新技術を活用することで、データを活用した課題解決につなげていけることにやりがいを感じます」(杉浦)

データ分析とプラットフォームで実現する健康寿命延伸への取り組み

医療業界、製薬業界は専門性の高い業界です。KDDIは、これまでも各業界や領域に強みを持つ企業や、斬新なアイデアを具現化するスタートアップ企業などとの協業を積極的に進めてきました。

「KDDIとMEIは共同で医療ビッグデータプラットフォームの構築に取り組んでいます。医療機関の皆さまのご協力のもと、取り組みにご参画いただく医療施設は約50施設に達しました。電子カルテ由来のデータの蓄積は拡大しています。今後は1,000万人へと規模を拡大していく予定です」(杉浦)

こうしたデータを分析・活用することで、創薬プロセスの効率化だけでなく、再発リスクの予兆発見や再発予防、重症化予防など、患者さん個人の健康につながる新しい体験価値を提供できると期待されています。こうした取り組みが進めば、医療機関にとっても、患者データの一元管理や診断・治療における意思決定の迅速化や、医療の質向上に貢献できると期待されます。

「将来的には、KDDIグループのデータ分析のスペシャリストであるARISE Analyticsや、生成AIのLLM(大規模言語モデル)の技術を持っているELYZAなどを含めながら、さまざまな価値を届けていきたいと考えています」(永田)

KDDIグループは、KDDI VISION 2030「『つなぐチカラ』を進化させ、誰もが思いを実現できる社会をつくる。」を掲げ、人生100年時代における健康的な生活の実現を支援しています。
先端テクノロジーを活用した健康・予防から医療までを支えるトータルヘルスケアアプリ「auウェルネス」の提供に加え、メディカル領域におけるデータ利活用の促進による、医療機関、製薬企業、個人の患者さんへの価値提供など、幅広いサービスを展開することで、誰もが安心して健康的に暮らせる社会(健康寿命の延伸)を目指していきます。

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