全国で若い世代が減り、少子高齢化は加速の一途をたどっています。人口減少は地域社会の「担い手」を不足させ、経済や産業の停滞につながります。移住者の受け入れを計画しても、圧倒的な強みを持つ地域は多くなく、差別化が難しいのが現状です。
そうした中、総務省は地域との関わりを持つ「関係人口」に着目し、関係人口の増加が、担い手不足解消の一助になると提唱しています。例えば、福島県は「転職なき移住」を見据えた関係人口創出を進めており、高い専門性や地方貢献意欲を持つ個人と県内事業者をマッチングする「パラレルキャリア人材共創促進事業」を2020年度から実施してきました。
また、KDDIでも都市部の企業人材および自社の持つアセットを活用し、ビジネスを使った地域の担い手不足や産業活性化への課題解決に貢献するべく、「地域サポーター制度」を2021年度に発足しました。ノウハウを蓄積しながら「地域×企業人材」の取り組みを積極的に行い、関係人口の創出に力を入れています。
そして2023年8月、これまでのノウハウを活用し、KDDIと福島県の両者の思いが合致した「KDDI×ふくしまチャレンジマッチング」事業が始まりました。一度きりの関わりではなく、地域の課題解決に持続的に関わる仕組みをもつこの取り組みは、関係人口の創出に有効だとKDDIは考えます。
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今回はKDDIと福島県が「KDDI×ふくしまチャレンジマッチング」を始めた思いや、実際にプロジェクトに参加した農業生産法人のAPJ株式会社(福島県喜多方市)との取り組みについて紹介します。
福島県の担当者や地域企業の経営者から「関係人口創出と地域課題解決へ、KDDIは積極的な姿勢で貢献している」と評価され、参加した社員からも「福島県は第2の故郷になった」と好評の本プロジェクトは、どのような成果を生み出したのでしょうか。
KDDIと福島県が目指す、新たな地域共創モデル
「私が小学生だった1990年代、福島県の人口は約210万人でしたが、わずか四半世紀の間に30万人もの人口が減少しました。現在の人口は約180万人を切っており、寂しさと危機感を持っています」と話すのは、福島県 企画調整部 ふくしまぐらし推進課の藤田尚将さんです。
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首都圏で働く方には「地域貢献がしたい」「いずれは故郷で働きたい」など、首都圏で培ったスキルを地方で生かしたいと考える方々が多くいます。一方で地方においては、既存の産業領域をはじめ、デジタル技術やDX(デジタルトランスフォーメーション)関連領域での担い手不足が顕在化しています。そこで福島県では、地方単独での解決が難しい領域を外部の方にサポートしてもらえるように、専門スキルを持つ都市部の人材と、課題を抱える企業・地域をマッチングする(出会う)プラットフォームとして「福島県副業人材マッチングサイト」を2020年5月に立ち上げました。
この事業では、自分の人生を豊かにするためのもう1つのキャリアを「パラレルキャリア」(パラキャリ)と定義し、「福島県と関わりたい。福島県の事業課題を一緒に解決したい」という強い意欲や情熱を持つ人材と、企業・地域を数多くマッチングしています。
「昨今、『移住』というワードはメディアでも注目される傾向にありますが、いかに移住後のミスマッチを防ぐことができるかを考えると、はじめに福島県との『つながり』を創出し、そこで育んだ関係性を持続させることが大切です。私たち福島県にとって『移住』と『関係人口』はセットだと考えています」(藤田さん)
特に藤田さんが意識しているのは、マッチングする企業・地域・人の要望やニーズに真摯に耳を傾けることです。
「福島県副業人材マッチングサイトを利用する方々は、都市部での生活とは別のキャリアを新たに構築し、人生をより豊かにしたいと希望する方が多くいらっしゃいます。お金だけではない付加価値を求めているからこそ、一度関わっていただくと福島県のファンになっていただける。そして県内の企業や人々も刺激を受ける。これこそが地域共創のモデルだと思います」(藤田さん)
関係人口創出の手段としての「KDDI×ふくしまチャレンジマッチング」
そうした地域共創の推進を部署名に掲げているのが、KDDI 経営戦略本部 地域共創推進部です。その中でサステナビリティ推進グループに所属する福士純子は、地域共創について次のように話します。
「地域の担い手不足や産業活性化を解決するビジネスを考えるのが私たちのミッションです。そのための有効な手段として関係人口創出に力を入れています。私たちがこの取り組みを始めるより前に、福島県さんはパラキャリ事業に着手されていました。全国的にも先進的な事業です。そこでKDDI側からコンタクトをとり、私たちの思いや取り組み内容を説明させていただいた上で、共同事業をご提案しました」(福士)
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地域共創の取り組みを単発で終わらせることなく、より本質的な課題の解決まで昇華させるには、持続的に取り組むことが重要です。KDDIで同じサステナビリティ推進グループに所属する森脇悠登は、「継続性のある事業にするには、課題解決に持続的に関わる仕組みづくりが不可欠です。福島県さんへ私たちの構想をご説明したところ、福島県さんの『地方だけで解決が難しいところを外部の方にサポートして欲しい』という思いと、KDDIの『地域が抱える課題をビジネスで解決する』との思いが見事に一致していました」と話します。
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藤田さんもKDDIから連絡があった時のことを鮮明に記憶しています。「私たちは地域と企業をマッチングしようと、福島県側から100を超える企業にコンタクトしてきましたが、企業側から連絡をくださったのはKDDIさんが初めてです。県として副業人材マッチングサイトを立ち上げて約3年が経過していましたが、KDDIの方に『このようなサイトを探していた』と言われて、それまでの地道な活動が評価されたようで嬉しかったですね。KDDIさんはすでに青森県や長野県でサポート事業の実績をお持ちでしたので、それぞれの知見を出し合い、対話を重ねながら、新規事業として『KDDI×ふくしまチャレンジマッチング』を具体化していきました」と振り返ります。
スキルとアイデアで地域課題の解決に挑む
KDDI×ふくしまチャレンジマッチングは、社内公募で集まったKDDI社員が複数名で地域課題と向き合う「チームプロジェクト型」と、KDDI社員が有するスキルを福島県内の事業者に公開してマッチングすることで課題解決に取り組む「スキルマッチング型」があります。
そして、チームプロジェクト型の取り組みである、あいづピーナッツを手がけるAPJ株式会社(以下、APJ)さまとのプロジェクトについて森脇は、「募集人数に対して5倍の応募がありました。応募者の所属部署や経験、スキルも千差万別で、KDDI社員の多様性に私たち自身が驚いたほどです。DXやマーケティングなど、様々な領域のスキルや経歴を持つメンバー同士でコミュニケーションしたことで新たな発想が生まれ、地域産業の可能性が膨らんでいくのをリアルタイムに体験しました。地域貢献への意欲をメンバー全員が持っていたので、具体的なアイデアがどんどん出てきました」と話します。
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プロジェクトに立ち会った藤田さんは、何よりも嬉しかったこととしてプロジェクトに関わったKDDI社員の皆さんの生活サイクルに福島県が確かに存在していると実感できたことだと言います。
「メンバーの方々から『福島県のニュースがあると必ず見るようになりました』『家族に福島県の桃を贈りました』などの嬉しい言葉をいただきました。KDDIの皆さんのスキルに加え、地域社会のことを心から真剣に考えてくださるパーソナリティが、価値ある交流を実現できた成功ポイントだと思います」(藤田さん)
最後に福士は、この取り組みについて、「福島県さんとの共創プロジェクトによって、関係人口を創出し、地域課題解決に関するナレッジが培われました。福島県さんとはこの取り組みを継続して深化させていきつつ、さらに他の自治体へ横展開していくことで、地域共創を加速・拡大していきます」と語りました。
ベンチャー農業法人とKDDIがマッチング―100年後も豊かな豆畑を残すために
松﨑健太郎さんが率いるAPJ株式会社(以下、APJ)は、福島県喜多方市でピーナッツ(落花生)の栽培、自社運営の加工センターでの商品製造、さらに直売所とカフェや、ネットショップを運営して小売を手がけるなど、ピーナッツを軸とする6次産業化に取り組んでいる企業です。約70軒の地域の生産者と提携してピーナッツを育てることで、地域の農家さんにとって安定した収益源となっているほか、農福連携(農業と社会福祉の連携)も行っているなど地域社会への貢献を重視する経営を実践しています。
会津地域でのピーナッツ栽培における課題は、大きく分けて2つあると松﨑さんは話します。
「1つ目は高齢化です。ご高齢になった農家さんが仕事を続けにくくなる理由として、収穫後の処理(一次加工)が重労働である点が挙げられます。2つ目は耕作放棄地の問題です。使われていない田んぼや畑は荒れた土地になってしまいます。前者の問題に対し、私たちは『あいづピーナッツセンター』という一次加工場を設立しました。収穫されたピーナッツをここに集めて作業することで、農家さんが栽培に集中していただけるよう工夫しました。また空き農地には、ピーナッツ栽培を提案させていただいております」(松﨑さん)
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米に限らず農作物の取引価格は変動的です。毎年同じように手間をかけて栽培しても、収入は市場価格の相場に左右されてしまうことが農業経営者にとって悩みの種でした。ピーナッツを作ってもらい、APJが決まった値段で買い取る仕組みにすることで、ある程度収入の見込みが出来るため、他の農作物の価格が下落した年や不作の年でも収入の補填が可能になります。また「自ら加工して商品を作れば、値付けも自分で行えます。これなら相場の変動に悩まずに、サステナブルな商売が可能になります」と松﨑さんは話します。
そうした取り組みをさらに発展させたプランとして、松﨑さんは「あいづピーナッツ村構想」を掲げています。地域全域を「あいづピーナッツ村」と称して、畑での収穫体験や加工場の見学、カフェでの楽しいひとときなどの体験を提供したいという願いが込められています。
豆畑を100年先へ。APJ 松﨑さんとKDDI社員が交わした熱論。
2022年にAPJは、福島県 郡山駅の駅ビルでポップアップショップの開催を企画し、福島県の人材マッチングを活用しました。
「大勢の人が東京から来てくださいました。県の取り組みを通じて縁ができ、多くの方々と今もつながりが続いています。これがきっかけとなって、2023年の春に『KDDI×ふくしまチャレンジマッチング』の構想を紹介いただきました」(松﨑さん)
実際にこのプロジェクトに参画したKDDI グループ経営基盤サポート部の松田洋輝は、毎年のように福島県を旅行している「福島県ファン」です。
「KDDIには、お客さまに一番身近に感じてもらえる会社の実践として就業時間の1%をお客さまと接することや、お客さま目線が理解できる業務体験をすることに使う『業務の1%活動』というプログラムがあります。今回業務の1%活動でAPJさんのピーナッツ村構想をお手伝いするフィールドワークのメンバー募集を知り、地域の活性化に貢献したいという想いから、喜んで手を挙げました」(松田)
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今回のプロジェクトにおいて、KDDIからは10名の社員が参加しました。畑や加工センター、販売所を訪問しながらピーナッツ村構想を松﨑さんからヒアリングした上で、メンバーは「どうやったら村人を増やせるか?」「魅力の伝え方は?」「PRには何が効果的か?」といったことをAPJの方々と熱く議論しました。
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「最終成果物のようなプレゼン資料が初日からどんどん出てきて驚きました。KDDI社員の方々の地域貢献への熱い思い、そしてそれを実行していく多種多様なスキルや知識に、私たちも刺激されました。例えば、『検索したお店によって、どのような人がどのくらい滞在したのかなど、データを活用した地図を作るのはどうか』というように、地域活性化に大きく貢献できそうな事業展開など、新しい気付きも得ることができました。私の掲げるピーナッツ村構想は100年事業を目指しています。ここがまさに最初のフェーズです」(松﨑さん)
プロジェクトにおける具体的な成果のうちの1つが、SNSを使った宣伝です。キャンペーンを展開したところ、100人にも満たなかったフォロワーはあっという間に2,500人にまで増加。さらに都内で実施した物産展では松田も販売をお手伝いし、あいづピーナッツの魅力を力強く説明して完売に尽力しました。
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「私も福島県の関係人口の1人であり、今回のプロジェクトで地元の方々とつながりをもつことができ、福島県は第2の故郷になりました。KDDIの『つなぐ力』で何ができるかを考え、具体的なプロジェクトに取り組みながら地域の課題解決に貢献することは、社会とKDDI、自分自身のつながりを見直すいい機会になります」(松田)
今回のプロジェクトを通して松﨑さんはKDDIに対する思いを、次のように話します。
「親しい知り合いが東京にいるというのは心強いことです。豪雪地帯の会津の冬はじっと過ごすしかありません。この時期に物産展を行ったことにより、冬は東京で営業したらいいというアイデアも出てきました。100年後も豊かな豆畑を地域に残したいと思っています。私たちは地方のベンチャー企業ですが、福島県とKDDIのおかげで、KDDI社員の方々と『つながり』を持つことができました。引き続きこの取り組みを続けていただけたら嬉しいです」(松﨑さん)
今回のプロジェクトでKDDIは、関係人口創出による、地域課題の解決に向けた事業を福島県さまやAPJさまと一緒に展開しました。KDDIは、このプロジェクトにより得られたノウハウやナレッジと地域の方との「つながり」、そして自社の持つアセットを活用し、都市部の企業人材が地域の課題解決と地域産業の活性化に貢献できる仕組みづくりを目指していきます。