2023.11.17
音楽フェスの通信改善に向けて前例のないWi-Fi環境構築へ挑戦
KDDIグループにおけるWi-Fi専門事業者として、そして同時に1人の音楽ファンとして、株式会社ワイヤ・アンド・ワイヤレス(Wi2)営業本部でSEを担当する片桐敏史さんは「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」と「JAPAN JAM」へのStarlinkを活用したフリーWi-Fiの提供プロジェクトに強い意志を持って取り組んだと語ります。
「キャリア通信の逼迫をWi-Fiが肩代わりして分散させることで、イベント会場全体の通信環境を改善することができます。しかし今回は、前例がほぼない大規模な公衆Wi-Fiの設置でした。ロッキング・オン・ジャパンさまから頂戴した情報を会場見取り図に重ね合わせながら、アクセスポイントを設置する場所や、必要な台数を割り出していきました。人の動線や滞留、電源の位置、想定される通信データ容量など、関係者の経験や情報、知見、分析に基づく予測の全てを投入した設計でした」
工事不要。野外音楽フェスの通信は宇宙から行う
Wi2が提供するアクセスポイントは2種類です。1つ目は屋内用のアクセスポイントで、オフィスや飲食店などへの設置を想定したものです。「JAPAN JAM 2023」と「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2023」では飲食店の販売用テントや、お客様が飲食されるテントに設置するなど飲食スペースで利用しました。2つ目は屋外用のアクセスポイントです。これは遠くまで電波を飛ばすことができるので、公園など広いエリアをカバーする為に用いるものです。オフィシャルグッズのテントの骨組みや、会場内のフェンス、固定できるものがない場所では、三脚などを用い、広くエリアをカバーできるように配置しました。
「固定回線の敷設工事から行うと、1カ月以上のリードタイムが必要です。しかしStarlinkならば工事不要。現地調査のあとは、StarlinkのアンテナからアクセスポイントまでのLAN配線に数日を要する程度です。圧倒的な工期短縮を実現できるのは、衛星通信ゆえのメリットといえます」(片桐さん)
エンジニアが現場に常駐。通信品質の改善をリアルタイムで実行
数日間にわたる規模の野外イベントにおいて、来場者の動きは時々刻々と変化します。片桐さんのチームは会場に常駐して電波状況をモニタリングしつつ、SNSに書き込まれるユーザーの声を随時チェックしていきました。
「お客さまの集中する時間帯や人の密集する場所など、つながりにくい状況を発見した場合はすぐにアクセスポイントの場所を移したり、持ち込んでいた予備機を追加設置したりといった臨機応変な対応を行いました。アクセスポイントは多く置けばよいのではなく、電波干渉を避けながら配置する必要があります。このイベントでも設置して終わりではなく、お客さまの通信環境をより良くするために絶えず最適化を行いました」(片桐さん)
Starlinkは100Mbpsを超えるスピードが出ます。Wi2の品質基準としては周囲に利用者のいないアクセスポイントの傍で50Mbps以上を確保できていることが、しきい値の1つです。一般論として動画視聴なら2.5Mbps、ネットのブラウジングでも1Mbps程度あれば最低限のユーザー体感品質を確保しているといえます。「JAPAN JAM 2023」と「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2023」は、およそ1〜10Mbpsを確保できていたため、ユーザー体感品質において一定の成果を出せたといえます。
「公衆Wi-Fiの提供においては、つながりやすさに加えて、セキュリティなど安心・安全な通信環境の提供もテーマになると考えています。また、フェスの公式アプリにのみ接続するWi-Fiなど用途を絞ることで大人数への対応力を高める方法もあります。こうしたアイデアも次なる一手として提案を検討中です。Starlinkを活用したフリーWi-Fiは、通信業界から音楽フェスへの1つのアンサーになると思います」(片桐さん)