2023.10.31
DXで日本のイカ釣り漁業を未来へつなぐ―国立研究開発法人水産研究・教育機構
KDDIは、水産全般の研究・教育機関として世界でも最大級の規模を誇る国立研究開発法人水産研究・教育機構の開発調査センター(以下、JAMARC)と共同で、Starlinkマリタイムを使った漁船における衛星ブロードバンド通信の実証実験を2023年7月から始動しています。その一環としてJAMARCでは、自動イカ釣り機や集魚灯などの製造・販売を手がける東和電機製作所の試験船「濵出丸」にStarlinkマリタイムの「Flat High Performanceアンテナ」を設置し、各種の実験を行っています。
イカ釣り漁船におけるStarlinkマリタイムの実証実験を推進しているJAMARCの加藤慶樹さんは、KDDIと協業した経緯についてこう振り返ります。
「これまで海上でのデータ通信は性能が低く、沖合の漁船や調査船と、陸上とで大容量データをやり取りするのはほぼ不可能で、そのことがJAMARCによる調査研究の効率化や漁船の効率的で安全な操業の阻害要因となってきました。ゆえに、Starlinkマリタイムにはかねてから注目していました。そのサービスをKDDIが国内でいち早く始動させると聞き、調査研究への協力を要請しました」
データをリアルタイムに収集し漁場予測の高精度化に取り組む
濵出丸を使用したStarlinkマリタイムの実証実験には2つのミッションがあるといいます。その1つは、燃油代の高騰や地球環境保護(CO2排出量削減)などの観点からイカ釣り漁船への導入が急務になっているLED集魚灯の新たな使用法や有効な活用法を見出すことです。
ミッションの2つ目は、海洋モデル(海洋環境をデジタルに再現したモデル)を使った新たな漁場予測システムの開発です。こちらは、濵出丸が観測した海洋環境データ(水温、塩分濃度など)や漁獲情報を、Starlinkマリタイムを通じてリアルタイムに収集して海洋モデルに即座に反映し、漁場予測の精度を上げていく試みです。
「これまで漁場の発見には、僚船*1と無線で情報を共有したり、漁労長の過去の経験から漁場を見つけたりといった方法がとられていました。ただし、人手不足などによるイカ釣り漁船数の減少や温暖化による海洋環境の変化によって、そうした方法で漁場を発見することがきわめて困難になっています。その問題をStarlinkマリタイムと海洋モデルを使った精緻な漁場予測によって解決したいと考えています」(加藤さん)
*1 僚船:仲間の船。同時におなじ仕事に従事する別の船。
Starlinkマリタイム活用によりさまざまに広がる漁業の可能性
Starlinkマリタイムの活用には、漁場予測の精緻化のほかにも、イカ釣り漁を含む漁業のあり方を変革するさまざまな可能性があります。
ひとつは、Starlinkマリタイムを通じてエンジンや冷凍機などの漁船の機器類を陸上から遠隔監視し、故障予知や遠隔修理などを行う仕組みの実現です。また、Starlinkマリタイムの活用は、漁船の安全な航行・操業に欠かせない気象状況の的確な把握にも有効です。さらに船上での通信環境が整うことは若い働き手の確保にもつながりうると、加藤さんは期待します。
StarlinkマリタイムによるDXで日本のイカ釣り漁業をより快適で先進的に
日本におけるイカの漁獲量は過去長期にわたって減少傾向をたどっています。
*2 (外部サイト)農林水産省「令和4年漁業・養殖業生産統計」
「こうした状況を打開するためには、デジタル技術とデータを使った船上業務の効率化や働き方改革、漁場予測の精緻化といったデジタルトランスフォーメーション(DX)を急がねばなりません。そのためのカギとなるのがStarlinkマリタイムの普及であり、有効活用です。その実証実験に今後も力を注ぎ、衛星ブロードバンド通信の力でイカ釣り漁業をより快適で先進的な産業へと発展させ、未来へとつなぐことに貢献したいと願っています」(加藤さん)
KDDIは、そうしたJAMARCの取り組みを、これからも全力を挙げて支援してまいります。