2023.4.28
進化する通信復旧と人命救助―KDDIの技術
「東日本大震災が起こった時、あまりの被害の大きさから、通信が途絶えた現場にたどり着けないことがありました。そこから自衛隊や海上保安庁、自治体などの外部パートナーとの連携や、通信を簡易的に復旧させるための基地局を運びやすくするための小型・軽量化の取り組みが加速しました」こう話すのは、KDDIネットワーク強靭化推進室 エキスパートの川瀬俊哉。
KDDIが2023年3月2日に行った災害対策訓練では、新たな技術的成果を公開しました。その1つが、これまでより大幅に小さく、軽くなった移動基地局です。
移動基地局は、災害によって機能しなくなった基地局の代わりに設置することで、止まってしまったモバイル通信を簡易的に使えるようにするものです。新たに低軌道衛星によるインターネット通信サービス「Starlink」を使うことで、機材の大幅な小型軽量化を実現。これまでの衛星通信機材と比べて、大きさ約5分の2、重さ約7分の1までサイズダウンしました。
「Starlinkを使った可搬型基地局は、軽くて運びやすいだけではなく、これまでのものと比べて簡単に組み立てられます。これにより、現地で設置・運用する際の手順がシンプルになるので、少ない人員でより迅速な通信エリアの復旧が見込めます。被災地の方々にとっても、高速な通信が可能になるので、これまでよりも快適にお使いいただけるようになります」(川瀬)
また、車載型基地局の大幅な小型化も実現し、新たに軽自動車タイプが登場。これはKDDIが既に3G携帯電話サービスを終了しており、少ない機材で運用できることから実現しました。
「これまで被災地で車載型基地局を運用してきましたが、さらなる小型化が必要とされていました。トラックや大型車両では行けなかった場所にも、届けられるようになるはずです」(川瀬)
人命救助に通信の技術を活かす
災害時に通信キャリアができることは、今や通信の復旧だけにとどまりません。KDDIは、携帯電話サービスで培った技術を人命救助に役立てようとしています。
その一例が、スマートフォンが常に発している電波を基地局が捕捉するという、モバイルネットワークを使う上で欠かせない技術を使った人命救助の取り組みです。KDDIはこの技術を応用して、助けを求める人が取り残されている場所を見つける仕組みを開発しています。
今回の訓練では、この仕組みをベースに新たに試作をした「携帯電話電波捕捉システム」を使った要救助者捜索のデモンストレーションを横浜市消防局と共同で実施。災害により通信が途絶してしまった地域において、動けない状態で家屋に取り残された人をKDDIが捜索し、その情報をもとに横浜市消防局が救出するという訓練を行いました。
被災地の上空からヘリコプターやドローンを使ってスマートフォンの電波をキャッチすることで、倒壊した家屋の中に取り残されたスマートフォンの位置を推定します。
今回、このシステムには2つの機能が加わりました。1つはauに限らず国内のどの通信事業者の電波もキャッチできるようにする機能です。
このシステムを開発したネットワーク強靭化推進室 エキスパートの鈴木崇之は、「これは総務省などの関係省庁や他通信事業者の理解と協力がないとできないこと。普段はビジネスで競合していても、人命救助の現場では一致団結して取り組もうという気持ちの表れです」と話します。
もう1つは、捜索範囲を絞り込むための機能。まずはヘリコプターを使って半径数キロレベルの広い範囲にスマートフォンの電波を捉えるための電波を照射します。これであたりをつけたあとに、同システムともう少し狭い照射範囲のアンテナを積んだドローンで捜索範囲を絞っていきます。さらに、地上での捜索のため、同システムとアンテナを携帯できる、ハンドヘルドタイプも用意しました。
「人命救助の現場においては、迅速に、かつ、できるだけ精度の高い推定位置情報が求められます。電波発射の高度や強度、照射幅などを細かく調整することで様々な場面において活用ができるように目指しています」(鈴木)
DXとデータ活用が今後の災害対策のポイントに
日々進化する技術は、災害対策にどのような変化をもたらすのでしょうか。鈴木は「DX*1とデータ活用がポイントになる」といいます。
*1 デジタルトランスフォーメーション:技術を使ってビジネスのあり方を根本から変える取り組み
例えば今回の防災訓練では、災害時に影響を受けている基地局の数やその周辺情報をリアルタイムで集約し、一元的に表示するマップを使い、現場の状況把握や迅速な復旧判断に役立てています。ここにドローンを使った災害地域の3D化データや、基地局と端末の通信から把握できる人流データ、自治体のオープンデータを加えることで、さらに高度な災害対策につなげられます。
「これからは技術の進化が、災害対策のあり方を大きく変えていきます。私たちは新たな技術を常にキャッチアップし、みんなでそれを使いこなしながら防災対策をより良いものにしていきたいと思っています」(鈴木)