2023.3.2

養殖魚の価値を高め、水産業のさらなる振興を目指す五島市と五島ヤマフ

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労働力不足と担い手不足が課題

長崎県西部に位置する五島列島にある五島市は、一本釣りや定置網などの漁業、養殖、水産加工などが重要な産業となっています。

「日本の水産業の共通の課題である労働力不足、担い手不足は、五島でも同様です。五島の漁業就労者は、この10年で36%減少し、今後も減っていくと予想しています」と話すのは、五島市役所の川村 梨紗さんです。また、養殖、水産加工を手掛ける株式会社五島ヤマフの久保 聖徳さんも、「慢性的問題は従業員の高齢化と人手不足です」と口を揃えます。

五島市産業振興部 水産課水産振興班 川村梨紗さん五島市産業振興部 水産課水産振興班 川村梨紗さん

こうした課題の一助となるべく、五島市役所の仲介により、五島ヤマフのヒラメの養殖の効率化に、KDDIのIoTやクラウド技術を活用した取り組みが進行しています。

「水産資源の減少が課題となっている状況下で、安定して漁獲量を維持できるのは養殖の強みです。市としては海面漁業も支援していきますが、養殖にも力を入れ始めています。これは五島に限らず、長崎県全体の取り組みでもあります」(川村さん)

「わたしたち養殖業者は『どうすれば良い魚を、たくさん生産できるか。養殖の歩留りを改善し利益をあげられるか』を考えて事業展開しています。魚という生き物を扱っていますが、他業種における商品開発と同じ発想です。生育が早くて出荷までの回転が早いことと高利益を両立しやすい魚種として、今回ヒラメを試しています」(久保さん)

五島ヤマフのヒラメの養殖槽五島ヤマフのヒラメの養殖槽

養殖業の働き方改革にも貢献

人手不足の解消を技術で解決することをテーマとした今回のプロジェクトでは、養殖槽に行かなくても事務所から魚の状態を確認したり、給餌できることが求められました。それを実現するために、養殖槽にカメラやセンサー、自動給餌機を設置。KDDI IoTクラウドStandardを利用して、離れた場所からでも確認できるようにしています。

自動給餌機自動給餌機

ヒラメの養殖槽の様子を事務所のPCやスマートフォンに表示させ、リアルタイムに観察しながら同時に事務処理などを行っています。水中カメラの映像もあるので、水の上から覗くだけでは分からないヒラメの様子も把握できるようになりました。給餌のときには、餌の食いつき状況をチェックし、食いつきに違和感や不自然な点があれば、過去の映像をチェックして比較することも可能です。

PCやスマートフォンに映しだされた養殖槽の様子PCやスマートフォンに映しだされた養殖槽の様子

「事務所と現場を往復し続ける旧来の働き方ではない新しい働き方が実現でき、スマートなワークスタイル、養殖業の働き方改革につながっています。ヒラメの養殖は今年スタートしたばかりですが、来年以降は過去との比較検証もしやすくなり、魚の付加価値向上につながると期待しています」(久保さん)

株式会社五島ヤマフ 場長 久保聖徳さん株式会社五島ヤマフ 場長 久保聖徳さん

今回のプロジェクトで、1つのモデルが確立しつつあります。これを別の魚種や拠点にも拡大したり、地域産業全体の盛り上げに貢献したいと久保さんは意気込みます。

「このプロジェクトの進捗を注視しつつ、漁業関係者の経営基盤強化や生産形態の整理を推進していきます。KDDIさんには本音を率直にお話しして、課題を共有したり、解決策を相談できたりしています。たがいに勉強しあう姿勢で、今後も積極的に関与していきたいと考えています」(川村さん)