2023.3.2
経験と勘をデジタル化し、効率的な養殖を実現する技術とは
カメラとセンサーで、遠隔からリアルタイムに確認
株式会社五島ヤマフとKDDIとの間で進められているヒラメの陸上養殖のプロジェクトでは、「KDDI IoTクラウドStandard」が技術的なコアになっています。このサービスは、さまざまなIoT機器を簡単に接続できるのが特徴で、多様なセンサーのデータやカメラで撮影した動画を、遠隔からリアルタイムで確認したり、過去のデータを蓄積・分析することができるサービスです。
「労働力不足解消をテーマとするこのプロジェクトでは、効率化が大きなテーマとなりました。そのため養殖槽の水上と水中に監視カメラ、自動給餌機、水質センサーをクラウドにつなぎ、養殖槽から離れた事務所のPCやスマートフォンの画面上でリアルタイムにチェックできるようにしています。また、例えば魚の研究者とリモートでつないで、実際の養殖槽を見ながらより良い方法を探るためのディスカッションをするといったことも可能です」(KDDI 地域共創室 エキスパート 加藤 英夫)
また、蓄積しているデータの活用も進みつつあります。例えば、餌の食べ残しがあると水質が悪化します。餌は最もコストがかかる部分であり、無駄な餌を与えないことでコストの最適化につながります。餌の残りや、餌を食べ残す時間帯、水質・水温などのデータを収集・分析することで、利益の最大化に近づけていこうとしています。
どんな機器やセンサーを選べばよいのかという選定には、KDDIがこれまでさまざまな水産事業者と実践してきた実証実験から得られた知見が生かされています。例えば、五島ヤマフの養殖場は地下海水を使用しているため溶存酸素が低いのが特徴ですが、こうした場合には酸素が十分に供給されているかがモニタリングできるセンサーを採用するといったことです。
デジタルツインやStarlinkなどの活用も視野に
今後さらにデータが蓄積されてくれば、養殖槽や魚を「デジタルツイン」*1で再現して育成をシミュレーションするといったことも可能です。これまで勘と経験に頼ってきた養殖作業をデータに基づく産業に変革し、効率的な養殖や販売だけではなく、地域の新たな特産品にはどのような魚が最適なのかを提案することも期待できます。
齋藤と加藤のチームでは、こうしたことを新しい養殖の実践モデルとして展開するだけでなく、さらなる展開も考えています。
「陸上の養殖場では、ほぼauの電波が届きます。しかし、海面養殖へと広げていくには、海上でも通信ができなければなりません。そのときには『Starlink』が活躍します」(齋藤)
Starlinkは、米国Space Exploration Technologiesの衛星を活用したブロードバンドインターネットサービスです。KDDIは日本初の「認定Starlinkインテグレーター」として、これまで通信環境の構築が課題とされていた海上や島しょ地域をはじめ、山間部、自然災害時などにおいても、安定かつ高信頼な通信を通信できるようになります。
豊かな海に囲まれている日本。これからもKDDIは、水産業の未来を切り拓くために力を注いでまいります。
*1 デジタルツイン:現実世界から収集した膨大なデータを元に、デジタル空間上で再現することで、さまざまなシミュレーションが可能となる技術。