CO2をはじめとする温室効果ガスの排出をいかに抑制して気候変動を食い止めるかが世界共通の課題となり、多くの企業がグリーントランスフォーメーション(GX)の実現に向けた取り組みを推進しています。
KDDIにとっても脱炭素化は社会的責任を果たすうえで不可避のテーマです。携帯電話基地局や通信局舎、データセンター等で使用する電力に起因するCO2は年間約100万トンにのぼり、5Gの普及によりさらに増加すると想定されています。これを削減していくことは、KDDIのサービスを利用する皆さまのCO2削減にも貢献することであると認識し、KDDI単体では2030年度までに排出量実質ゼロを、KDDIグループ全体では2050年までに排出量実質ゼロを目指しています。
CO2排出量の削減に大きな役割を果たすのが、再生可能エネルギーです。しかし、再生可能エネルギーは季節や天候に左右されやすいという課題もあります。そこで注目されているのが蓄電池をはじめとする分散型電源です。
散在する分散型電源を体系的に管理・制御することで仮想の発電所をつくりだし、需要と供給の調整に役立てる技術、それが「仮想発電所(VPP:バーチャルパワープラント)」です。KDDIのグループ会社であるauエネルギーホールディングス株式会社の傘下にある株式会社エナリスでは、このVPPの実証にいち早く取り組んできました。5G通信を活用した「5G +MEC(Multi-access Edge Computing)」によるリアルタイムな制御にも道筋をつけました。
KDDIでは、auエネルギーホールディングスや、その傘下のエナリス、auエネルギー&ライフ株式会社、auリニューアブルエナジー株式会社、さらにはパートナー企業とともに、再生可能エネルギーの安定供給とカーボンニュートラル実現に貢献するエネルギープラットフォームの構築に取り組み、自社のCO2削減、そして社会全体のGX推進をリードしていきます。
分散型電源とエネルギーマネジメントの必要性を実感した東日本大震災
2004年に設立されたエナリスは、「人とエネルギーの新しい関係を創造し、豊かな未来社会を実現する」というビジョンのもと、再生可能エネルギー供給をはじめとする企業の脱炭素化を支援するサービスや新電力や再エネ発電事業者の業務支援サービスなどを展開し、お客さまとともに脱炭素を推進しています。
そんなエナリスが分散型電源やエネルギーマネジメントを考えるきっかけとなったのが2011年の東日本大震災です。電源の供給自体が滞り計画停電も行われるようになり、エネルギー事業に携わるエナリスができることは何かを改めて自問自答しました。
株式会社エナリス 代表取締役社長の都築実宏は、次のように話します。
「1つは需要側の電源を制御することで、エナリスでは電力を見える化するシステム『FALCON SYSTEM』というサービスを立ち上げました。そしてもう1つの着目点が、分散型電源です」
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分散型電源を束ねる「仮想発電所」が生み出す価値
分散型電源とは、その名のとおり、分散している小規模な電源のことです。例えば、蓄電池や自家発電機、電気自動車などを指します。分散型電源を束ねて利用することで、電力供給が滞ったときにも役立つほか、地方創生や脱炭素社会へも貢献します。
これまでは所有者のためだけに利用されてきた分散型電源ですが、これらを集めて遠隔で制御し、あたかも1つの大型発電所と同じような機能を持たせる高度なマネジメント技術を「仮想発電所(VPP:バーチャルパワープラント)」といいます。
再生可能エネルギーが増える中で生じる電力供給の不安定さをうめる技術にエナリスはいち早く注目して取り組んできました。
脱炭素に向け再生可能エネルギーの主力電源化に取り組む
東日本大震災を契機に取り組みが始まった仮想発電所は、グリーントランスフォーメーションが社会や企業の課題になる中で、「脱炭素」という側面からも大きな注目を集めるようになりました。
「いま企業とエネルギーとの関わりは、大きな転換点を迎えています。エネルギー使用の合理化や非化石エネルギーへの転換を明示した2023年の『改正省エネ法』では、電気の需要の最適化が求められています。2026年に本格稼働するCO2の排出量取引や、2033年度に開始予定の発電事業者向け有償オークション導入など、エネルギーと経営の関わり方は大きく変わりつつあります。脱炭素は、これまでのように単に『環境への貢献』ではなく、避けて通ることのできない経営課題となっています。その解決の一助となるのが、仮想発電所です」
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今日エナリスでは、膨大な数の分散型電源を制御する技術を結集したエネルギープラットフォームを運用しており、その実績は業界随一です。エナリスはこれからも、KDDIグループの各企業と連携しながら、エネルギープラットフォームのリーディング企業として、再生可能エネルギーの主力電源化に取り組んでいきます。
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仮想発電所の技術を実ビジネスのレベルで運用
エナリスの事業の研究開発や事業戦略の立案を担っているのが「みらい研究所」です。会社の先頭に立ってビジネスの進む道を示し、サービスに関するシステム開発を自ら行う実行部隊でもあります。
株式会社エナリス 執行役員 事業企画本部 本部長 兼 みらい研究所 所長の小林輝夫は、「3~5年先の社会がどのように変化しているかを予測してビジネスモデルを検討し、プラットフォーム構築や具体的なサービス開発を手掛けています。プロトタイプを作って実証実験やパイロット事業を展開し、新規ビジネスを軌道に乗せていきます」と話し、こう続けます。
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「電力の業界はこの10年間で大きく変容しました。発電量が不安定な再生可能エネルギーを適切にコントロールする技術として仮想発電所(VPP:バーチャルパワープラント)が考え出されたことも、重要トピックの1つです」
再生可能エネルギーである太陽光や風力、地熱などは、自然環境によって発電量が増減することが大きな課題です。電力は、発電量と需要量のバランスをとることが重要で、バランスが崩れると停電が起きてしまうからです。
「東日本大震災を契機に、再生可能エネルギーによって安全な電気を皆さんに届けて、安全な社会を作ろうという機運が盛り上がっているなか、発電量と需要量のバランスをとるという課題を解決できるのが仮想発電所の技術でした」
そこでエナリスは、経済産業省が2016年度から実施してきたVPP実証事業に継続的に参加しています。発電側と需要側の両方の技術実証に参加している唯一の企業であり、制御された電力を束ねて送配電事業者や小売電気事業者と電力取引を行うプラットフォームビジネスを展開しています。
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エナリスの強みは低圧リソースなどの分散型電源を千や万の単位で束ねて、まるで1つの大規模発電所として運用するVPP技術を実ビジネスのレベルで運用できる点です。
「家庭用蓄電池やEVといった低圧リソースは1つ1つの出力規模が小さいために、継続する出力時間が短いことや需要変動の影響を受けやすいなどの特徴があります。そのため、安定供給に向けては、リソースを束ねて群として管理/制御したりリソース同士をリレーのようにつなぐなどの工夫が必要となります。それは、簡単なことではありません。8年にわたる実証事業の中で失敗と成功を繰り返し、KDDIの通信技術などパートナーと連携しながら技術を構築することで成しえた結果であると考えています」
先進デジタル技術の活用でグリーントランスフォーメーションに挑む
こうした分散型電源をアグリゲーション(電力を束ねること)して制御・取引するためのプラットフォームが、エナリスが開発した「DERMS(Distributed Energy Resource Management System:分散型エネルギーリソース管理システム)」です。
DERMSを活用してアグリゲーションすることで生まれた“電気の価値”は、出力が天候に左右されやすい再生可能エネルギーを普及させるカギとなる調整力や調整力として活用します。このDERMSの中心にはAI予測技術、ブロックチェーン、IoT、DXといった先進デジタル技術が駆使されており、再生可能エネルギーが持つ“環境価値”としても活かすことが可能です。
「“環境価値”をブロックチェーンでトラッキングして顕在化することで、トークンやデジタル通貨に価値変換して取引できる環境を作ることができれば、1つの大きな経済圏になります。エナリスは先進デジタル技術を組み合わせたDERMSを武器にVPPを実現させながら、分散型電源の有効活用や再エネ主力電源化の推進を図り、脱炭素とビジネスが両立するGXな社会を実現させたいと考えています」
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分散型電源をリアルタイム・低コストで制御する「5G+MEC」
仮想発電所(バーチャルパワープラント/VPP)は、デジタル時代の今だからこそ実現した技術です。auエネルギーホールディングス傘下のauエネルギー&ライフ株式会社 浜口智洋は、「auエネルギー&ライフはお客さまに家庭用蓄電池等住宅機器に関連したエネルギー関連のマネジメントサービスを提供していきます。そのお客さまは、エナリスが運用するプラットフォーム(DERMS)を通してVPPに参画することになります」と両者の役割分担を説明します。
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しかしVPPの効率化や合理化の実現には、解決すべき大きな課題が残されています。
「従来のVPPのボトルネックは、端末コストと通信遅延の2つです。つまり、1. 端末側でデータ処理をできるよう高性能IoT機器(ゲートウェイ)を使用するため、機材コストが高価になる。2. 端末とクラウド(データセンター)の通信および処理にLTE回線などの通信網を経由するため、遅延しやすい。具体的にはLTEは60秒周期、DERMS(分散型電源マネジメントシステム)の制御遅延に0.1秒を要していました」と、株式会社エナリス みらい研究所 所長 小林輝夫は説明します。
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機器の高性能化だけが解決策なのかと日々思案していた小林は、KDDIがAmazon Web Services (以下、AWS)と5Gネットワークエッジで超低遅延を実現する「AWS Wavelength」の提供を開始するとのニュースを見て閃きます。
「『これだ!』と思いました。ゲートウェイとDERMSの一部機能をMEC(Multi-access Edge Computing)であるAWS Wavelengthへ移行させることで、平均0.05秒以下のリアルタイム制御が可能になります。さらにリソース(発電機や蓄電池など)につながる機器も安価な汎用5Gルーターに置き換えができます。スピードとコスト、両方の課題の一挙に解決できると期待しました。しかもAWSのこのサービスを提供するのは世界でたった4社のみ。そのうちの1社がKDDIであることにも驚き、すぐにKDDIへ検証協力を依頼しました」(小林)
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そもそも、なぜこの仕組みが不可欠だったのでしょうか。浜口は次のように説明します。
「電力取引市場へ参加するには1メガワット(1,000キロワット)以上の発電が必要です。一方で、実際の家庭用蓄電池等の機器は数キロワット程度しかないため、数千、場合によっては数万世帯の電力を束ねる必要があります。また、電力の需要と供給のバランスをとるために必要な需給調整力として使うには、各ご家庭で電気の使い方が異なる中で、その束ねた電力を電力会社からの指示に対して±10%以内に抑え、制御し続けなければなりません。分散型電源をどのようにして制御して要件に合致させるかが技術的な難題でした。5G+MECの活用という解決策は、まさにエナリスとKDDIの相乗効果の結晶だと思います」(浜口)
ご家庭が電気を「つくる・使う・つなぐ」時代へ
小林は、重要な課題であった電力の周波数測定も、5G+MECが解決の糸口になったと話します。
「電力会社は発電所に周波数測定装置を設置しています。しかし高価な機器であり、例えば太陽光発電パネルを屋根に設置している家庭のすべてに周波数測定装置を置くわけにはいきません。ですが『代表点』を決めて測定し、その結果をMEC経由で他の拠点も制御する仕組みならばビジネスモデルとして成立します。発明と言っても良いこの仕組みを経済産業省や関係省庁へ提言しているところです」(小林)
この仕組みは太陽光発電だけでなく、電気自動車にも有効です。発電・蓄電の設備を持つすべての場所が発電所となって社会とつながる未来もそう遠くありません。
「これまでご家庭にとって電気は使うもの・消費するものでした。ご家庭が発電所になる近い将来は、自宅で発電した電気を自らマネジメントする時代へと変化します。そのとき、エナリスとauエネルギー&ライフが提供するプラットフォームに接続しておくだけで、お客さまは日常的な手間が何もかからず、最適な管理運用に加え、電気料金削減などのメリットを得られます」(浜口)
日本での太陽光や風力等再生可能エネルギーの発電割合は1割弱です。しかし、5G+MECを利用することで、電力の消費者が、電力需給の安定化に貢献できる時代が拓けてきます。ご家庭自らが「電気をつくる・使う・つなぐ」ことが社会の脱炭素化の一助となる―そんな社会を実現するために、KDDIグループはチャレンジを続けていきます。
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