2023.12.08
屋久島の豊かな自然を傷つけずに実現した通信エリア構築
自然資本に配慮した事業計画の重要性
多くの企業は、事業運営における資源の利用や環境汚染など、生物多様性や自然資本と密接に関わっています。
KDDIの通信事業も例外ではありません。例えば、通信設備の設置では土地利用変化や陸域生態系への影響が懸念されますが、自治体や政府と協議しながら、その影響を最小限に抑えための工夫を行っています。 具体的には、海底ケーブルの敷設においては、サンゴを避けるルート設計やウミガメの産卵期を避ける施工計画を検討しています。陸域の基地局敷設においては、基地局の電源供給に水力発電を導入するなど、地域の生態系に配慮した工事を行っています。
諦めない交渉の末に確保した環境にやさしい電力供給源
日本初の世界遺産に登録された屋久島。その中でも人気の観光スポットである白谷雲水峡の登山道において、KDDIは2022年10月、他社に先駆けて通信エリア化を実現しました。
この取り組みでも、自然環境に配慮した施工が行われています。
現場施工を担当したKDDIエンジニアリング 松村京孝と行實丈夫に当時の話を聞きました。
「白谷雲水峡の基地局敷設において、環境に配慮した工夫は3つあります。それは、水力発電による電力供給源の確保、衛星通信を活用したバックホール回線、そして景観に配慮した施工です。」(松村)
この基地局への電力供給は、自治体が所有する既存の水力発電設備から行っています。通常、電力会社による供給がないエリアでは新たな工事が必要ですが、今回の場合、約10㎞の電線を新設するために、多くの木を伐採する必要がありました。
エリア化の検討を開始したのは2014年。登山道の入り口に町が設置した水力発電があったため、まずそれを利用できないかと町へ交渉を試みました。
しかし、公益性の点から一社だけに電力を供給することに関するハードルが立ちはだかり交渉は難航。自前で水力発電をすることも検討しましたが、水利権の問題などで実現は難しい状況でした。
約6年後。多くの人が訪れる場所で通信が届かない状況を放置するわけにはいかないと考え、再度交渉に臨みました。結果、町の水力発電から電力を得られることとなりました。
「最終的には、私たちの思いに共感いただき、電力を使わせていただくことができました。あきらめずに交渉を続けて、本当に良かったです」(行實)
バックホール回線の構築についても、通常は光ファイバーを基地局まで引くのですが、電力供給と同様に大規模な工事が避けられず、環境への影響が懸念されました。
そのため、auがカバーしている島内のエリアの電波を拾い、レピータ*1を使って増幅するなどの方法も試しましたが、鹿児島本土や種子島などの基地局が発している電波と干渉してしまい、難航しました。
そこで地上からのアプローチをあきらめ、衛星通信を活用して空から接続することに挑戦しました。これにより、新たな建造物を建てず、環境への影響を最小限に抑えた通信エリアの拡大を実現したのです。
*1 レピータ:電気信号をより高いレベルや出力・再送信する装置
「通信がつながらないと、緊急時に連絡を取ることができないなど、命の危険にもつながります。そのため、日本のどこでも快適な通信環境を構築することは非常に重要です。しかし、人間の都合で自然環境を破壊してはいけません。
これからも、快適な通信環境と自然環境保護の両立を目指し、再生可能エネルギーの活用など自然環境に寄り添った技術進化を推進していきたいです」(行實)