2023.9.28

サーバー排熱の効率を劇的に変える「液浸冷却システム」が生まれるまで

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データセンターの増加とサーバーの高性能化でCO2削減が困難に

クラウドの普及や、やりとりされる通信データ量の増加に伴ってデータセンターの需要は増え続けています。

さらに、データセンター内に格納されるサーバーは、日々高性能化が進み処理能力が向上。高い処理能力を持つサーバーのCPUは高温になりやすいため、熱で故障しないよう排熱する必要があります。
KDDIではこれまで、空冷技術を使ってサーバールームの室温を下げることで排熱を行っていました。これには非常に多くの空調電力が必要となります。

データセンターの需要増と、サーバーの高性能化。これによってデータセンターに関わる消費電力は増え続けていました。日本の電力の多くが化石燃料に由来していることから、電力消費が大きいとCO2の排出量が増えてしまうのです。

現状でできる取り組みについて、KDDI プラットフォーム技術部の加藤真人は次のように説明します。

KDDI株式会社 ソリューション事業本部 DX推進本部 プラットフォーム技術部 エキスパート 加藤真人KDDI株式会社 ソリューション事業本部 DX推進本部 プラットフォーム技術部 エキスパート 加藤真人

「1つはサーバールームの空調をこまめに調節したり、サーバー上で動くプログラムの省電力化を図ったりといった施策で冷却のための電力を減らすこと。もう一つは、太陽光などの再生可能エネルギーを使うことが挙げられます。私たちは、データセンターの需要に応えながら、電力消費を抑えるという、一見矛盾している非常に難しい課題に挑戦する必要があるのです」(加藤)

排熱効率を激変させる新技術「液浸冷却システム」

こうした中、消費電力の大幅な削減を可能にする技術として注目されているのが「液浸冷却システム」です。

空気に比べて熱を奪う能力が高い液体の性質を利用した冷却の仕組みで、絶縁性の冷却オイルが入った液槽にサーバーを浸して冷却します。

冷却用の液槽に浸かるサーバー冷却用の液槽に浸かるサーバー

この技術に注目したKDDIは、2020年に台湾で基礎検証を実施。技術の有効性とサーバーへの影響を検証したところ、結果が良好だったことから2021年に日本国内での検証を開始しました。

国内の実証実験では三菱重工とNECネッツエスアイとパートナリングを組み、コンテナを使った液浸スモールデータセンターで検証を実施。データセンターの省エネ指数として知られるPUE値を目安に検証。PUE値は1に近づくほど省エネ効果が高く、1.1を切ると驚異的といわれるなか、1.07という数値を達成しました。

そして2022年4月にスタートした実証実験は、データセンターでの実稼働を想定してKDDIの小山ネットワークセンターで実施。データセンター内に液浸装置と冷却オイル熱交換器、屋外にフリークーリング(外気空冷)装置を設置して1年間実際に運用・保守を行う検証を行いました。

冷却オイル熱交換器とフリークーリング(外気冷却)装置冷却オイル熱交換器とフリークーリング(外気冷却)装置

その結果、PUE値は目標としていた値を大きく改善し1.05を達成し、空冷による冷却に比べて94%の電力を削減できることが実証されました。

「1年間の検証を通して1.05という驚異的なPUE値が出たことから、さまざまな企業から問合せや見学のオファーをいただいています。」(加藤)

2023年度中の液浸データセンター提供を目指して

じつは、液浸冷却装置による冷却システムの歴史は古く、スーパーコンピュータの中にはこの仕組みを使っていたものもあると加藤は説明します。これまでは特別なマシンのための排熱システムという位置付けでしたが、技術やシステム、冷却の仕組みが進化し、汎用IT機の排熱にも使えるタイミングになったことから、開発に着手しました。

今回の実証実験を機に、KDDIはサーバーを開発している企業に液浸検証への参加を呼びかけ、国内外の名だたるメーカーさまが参加しています。

液浸検証に参加いただいているメーカーさま液浸検証に参加いただいているメーカーさま

「従来の冷却方式では限界が来ているので、液浸冷却システムをもっと社会全体に広めたいと思っています。そのためには、多くのメーカーさまに検証に参加してデータを持ち帰って頂き、次のサーバー開発に生かしていただきたいですね。既に検証に参加いただいた複数のメーカーさまが液浸冷却対応サーバーをリリースしています」

液浸冷却システムの商用サービスについては三菱重工とNECネッツエスアイが体制づくりに取り組み、2023年度中の提供を目指しています。

データセンターのCO2削減を劇的に変える液浸冷却システムの実用化は、すぐそこに迫っています。