2023.5.30

リチウムイオン電池のリサイクル——エマルションフローテクノロジーズの挑戦

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「2025年、リチウムイオン電池に含まれるレアメタルが供給不足に陥る可能性があります」こう話すのは、レアメタルのリサイクルに取り組むベンチャー企業、エマルションフローテクノロジーズ(以下、EFT)の代表取締役社長を務める鈴木裕士さんです。

株式会社エマルションフローテクノロジーズ 代表取締役社長 鈴木裕士さん株式会社エマルションフローテクノロジーズ 代表取締役社長 鈴木裕士さん

リチウムイオン電池は、携帯電話や電気自動車の充電池として使われており、今後、2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量が差し引きゼロの状態を作ること)の実現や、パリ協定に基づくCO2排出量削減目標の達成を目指すために需要が拡大すると予想されています。

一方で、リチウムイオン電池をつくるのに欠かせないコバルトやニッケル、リチウムは他の国々でも需要が高まることから、確保が困難になるとみられています。

そもそもレアメタルの採掘にはさまざまな問題があると鈴木さんは指摘します。「採掘に伴う環境破壊やCO2排出問題、児童就労の問題、そして資源が原因で紛争が起こることも少なくありません」

劣化した使用済み充電池が「新品の充電池」に生まれ変わる

こうした中、EFTが提案するのが「リチウムイオン電池のリサイクル」です。何度も充電しているうちに劣化して使えなくなった使用済み電池から、希少な資源であるコバルトやニッケル、リチウムを取り出し、再び電池の材料として使おうというのです。

使用済みリチウムイオン電池に含まれるレアメタルを、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構が開発した「エマルションフロー」という溶媒抽出技術を使って抽出します。

「使用済みの充電池をこなごなに粉砕し、粉になったものを硫酸や塩酸に溶かします。その液にイオンとして溶け込んでいるレアメタルを抽出剤を使って取り出していきます」

エマルションフローのイメージエマルションフローのイメージ

これまで金属の精錬には大規模な装置を使う必要があり、多大なコストや人手が必要でした。エマルションフローは装置を小型化することで、レアメタルリサイクルのハードルを下げ、レアメタルリサイクルの裾野を広げることを目指しています。

装置の小型化イメージ装置の小型化イメージ

「私たちの目標は、車や携帯電話など、製品にリチウムイオン電池を使う企業の生産工程の中に、レアメタルリサイクルが組み込まれる“水平リサイクル”を増やしていくことです」

KDDIは2022年9月、EFTに出資したことを発表しました。鈴木さんはKDDIに期待することとして、「使用済み携帯電話リサイクルの啓蒙」を挙げています。

というのも、レアメタルのリサイクルは、携帯電話ユーザーの方々のご協力なしには実現が難しいのです。

「家に眠っている使用済み携帯電話やスマートフォンの回収が進まないと、この事業は成り立ちません。そのためにも、使用済み携帯電話を持ち込むことで、どれだけ環境保護に貢献できるのか、持ち込んだ携帯電話がどんなふうに生まれ変わるのか、ということを消費者のみなさんにお伝えすることがとても重要です。こうした取り組みをする上では、携帯電話の販売を通じて消費者とつながっている、KDDIさんの協力が欠かせません」

いつか充電池のリサイクルがペットボトルと同じくらい、あたりまえになるように——。KDDIはエマルションフローテクノロジーズと手を携えて、レアメタルリサイクルに取り組んでいきます。