沖縄の離島エリアで、より快適な5G通信を—。2023年夏、離島での高速大容量通信を実現する光海底ケーブル「YUI」が完成し、7月から運用が始まりました。YUIという愛称は「Yarn Uniting Okinawa Islands」の略で、沖縄の島々を結ぶ糸(ケーブル)の意と方言の「ゆい(結い)」をかけあわせたものです。
沖縄の離島エリアは、沖縄本島と海で隔たりがあり、沖縄本島と同等のネットワークを構築するのが難しく、離島へ5Gを展開するためのネットワーク基盤をどのように整備するかが課題となっていました。
そんな離島の通信を高速化する光海底ケーブルプロジェクトが始まったのは2021年夏のこと。沖縄セルラーが中心となって、沖縄本島~石垣島の約460キロ、宮古島~久米島の約260キロの2区間に光海底ケーブル「YUI」をNTT西日本、ソフトバンクと共同で敷設しました。
.jpg)
ケーブルには、波長が異なる複数の光信号を1本の光ファイバーで伝送する「光波長多重伝送方式」を採用し、60テラビット/秒以上の大容量通信が可能になりました。
また、沖縄県とNTT西日本がそれぞれ保有する沖縄本島~久米島間、宮古島~石垣島間の既設海底ケーブルをYUIと接続することで、自然災害などでケーブルの一部が切断しても通信が途絶えないよう、ループ状のネットワークを実現します。
離島エリアでも、安定した高速通信を—。KDDIと沖縄セルラーは、快適な5G通信の提供を進めていきます。
【動画】沖縄エリア 光海底ケーブル整備プロジェクト
離島エリアの5G品質の向上で、沖縄の産業に貢献する―沖縄セルラーの思い
多くの観光客が訪れる沖縄の石垣島、宮古島、久米島で5Gの本格展開が可能に—。2023年7月、沖縄セルラーが中心となって整備した光海底ケーブル「YUI*1」の敷設が完了し、運用がスタートしました。
*1 YUI:「Yarn Uniting Okinawa Islands」の略で、沖縄の島々を結ぶ糸(ケーブル)の意と方言の「ゆい(結い)」をかけあわせた愛称
スマートフォンは、無線基地局と電波でつながり、無線基地局が有線の光回線で交換局と結ばれることで、インターネットや電話を利用できるようになっています。
5Gは、4Gと比較して高速大容量の通信を実現する必要があるため、無線基地局と交換局をつなぐ光回線についても、高速大容量の通信を行える回線が必要となります。
陸続きの場所であれば、高速大容量通信に対応した光回線の敷設はさほどむずかしくありませんが、海に囲まれた場所では海底にケーブルを敷設する必要があり、陸上と比べて多くの手間とコストがかかります。
「YUI」プロジェクトの背景について、沖縄セルラー 技術本部の設備計画グループで主任を務める崎 樹生は、こう話します。
.jpg)
「私たちは沖縄に根差した通信キャリアとして、よりよい通信環境を提供することで沖縄の産業に貢献するという使命があります。離島で5G通信環境を構築するためには課題がありますが、まずは離島の中でも人口が多く、多くの観光客が訪れる石垣島、宮古島、久米島で、快適な5G通信を実現するため、この光海底ケーブルプロジェクトがスタートしました」
海底ケーブルをループ状につないだ理由
YUIは、高品質な5G通信の提供に加え、安定的なネットワークの提供も視野に入れて構築しています。その1つがループ構成の海底ケーブルです。
光海底ケーブルを沖縄本島と石垣島、宮古島、久米島を周回する形でループ状につなぐことで、回線の一部が断線しても高速大容量の通信を継続して使えるようにしています。
「沖縄は台風が多く、地震など自然災害のリスクもあるので、光海底ケーブルをループ状につないで切断時のリスクに備えています。この形状ならば仮にケーブルが切断しても、ループの反対側のルートにより高速大容量通信を維持できます。今や日々の暮らしにモバイル通信は欠かせないので、一刻も早い復旧のための仕組みとバックアップ体制は欠かせません」
このループ構成は、沖縄県とNTT西日本がそれぞれ保有する沖縄本島~久米島間、宮古島~石垣島間の既設海底ケーブルと、沖縄セルラーが中心となって新たに敷設した沖縄本島~石垣島間、宮古島~久米島間の光海底ケーブル「YUI」を円環状につなぐことで実現しています。
.jpg)
離島に快適な通信環境を届けるために
コロナ禍が終息し、沖縄の離島に賑わいが戻る中で始まった5G通信の品質向上は、観光業を営む人や島を訪れる人、そこで暮らす人にメリットをもたらすと、崎は話します。
「これからは石垣島、宮古島、久米島でも沖縄本島と変わらない快適な5G通信をご利用いただけるようになります」
一方で沖縄には38もの有人離島があり、こうしたエリアの品質向上が今後の課題となっています。
「光海底ケーブルは多額のコストがかかるので、そう簡単には敷設することができないのが実情です。昨今ではStarlinkなど衛星通信領域が進化しているので、期待を寄せています」
場所や環境に合った最適な方法で、高速大容量通信をお届けするために—。沖縄セルラーとKDDIは、これからも安定した5G通信の実現に取り組んでいきます。
いち早く海底ケーブルの異常を検知し、迅速な通信復旧を目指して―KDDIの技術
沖縄セルラーの光海底ケーブル「YUI」のプロジェクトに伴走し、企画から敷設、運用までを支援してきたのがKDDIです。KDDIは59年前、前身であるKDDが初の太平洋横断海底ケーブル「TPC-1」を敷設して以来、世界各地で海底ケーブルの建設を手がけてきました。この分野で長年の実績があるKDDIは、その知見をもってYUIの構築を支えてきました。
光海底ケーブルは地上での通信インフラ構築と比べて、敷設のハードルが高いと言われています。その理由について、KDDIの海底ケーブルグループでグループリーダーを務める竹島公貴は次のように説明します。
.jpg)
「地上でも海底でも、高速大容量通信をするために光ファイバーを使うところは同じですが、その先が違います。光ファイバーの中を通る光信号は、吸収や散乱によって次第に減衰していきます。そのままでは遠くまで光信号を運ぶことができないので、途中で光を増幅する必要があります。地上で増幅するための装置に電源を取るのは比較的容易ですが、海底ではそう簡単にはいきません」(竹島)
海底の光ファイバーケーブルで遠くまで光信号を運ぶためには、ケーブルの一定区間ごとに増幅のための中継器を設置して、陸上の給電装置から高い電圧をかけることで海中に設置される中継器に電力を供給し、減衰した光を増幅します。それを繰り返すことで、遠くまで光信号を送ることができるのです。
「中継器やケーブルは、できるだけ自然や災害による影響が少ない場所に敷設する必要があるので、海底の地形を精査しながら慎重にルートを検討しなければなりません。また、切断した時に迅速に復旧するための体制作りも欠かせません。こうした海底ケーブルシステムや陸上施設の設計、運用に向けた仕組みづくりなどを支援してきました」(竹島)
安定した海底ケーブルの運用を目指して
KDDIは今回のプロジェクトで、沖縄セルラーが海底ケーブルを安定的に運用していくための支援も行っています。YUIの監視システムの設計と復旧体制の構築もその一つです。
海底ではケーブルに異変が起こった時、陸上と違ってすぐに人が駆けつけることができません。そのため、可能な限り早くケーブルの異変を検知し、通知するための仕組みと、迅速なケーブル復旧のための体制づくりが重要になります。
監視システム構築の背景についてKDDI 海底ケーブルグループの高岡豊彦は次のように説明します。
.jpg)
「監視システムは多くの場合、既存のネットワークがあり、それを使うことがほとんどなのですが、YUIでは既存のネットワークがないルートもあったことから関係者と連携して離島間を結ぶ監視ネットワークを構築しました。警報を検知した後の復旧プロセスも合わせて設計することで、一貫性のある監視、復旧体制ができたと思っています」(高岡)
また、YUIプロジェクトの支援では、KDDIとして初の取り組みもあったと竹島は振り返ります。
それは「中継器なし」の海底ケーブルの敷設です。長距離の海底ケーブルには、光ファイバーの中で減衰していく光信号を増幅するための中継器が必要ですが、久米島~宮古島間は全長260キロとそれほど長い距離ではなかったことから、中継器を必要としない設計になっています。
「ケーブルの中に増幅用のファイバーが入っていますが、中継器は使わない形のシステムを採用しました。これはKDDIとしては初の取り組みです」(竹島)
海底ケーブル事業の魅力を伝えたい
今回の光海底ケーブルプロジェクトを振り返って、高岡は次のように話します。
「光海底ケーブルは敷設の完了がスタート地点で、そこからケーブルの寿命と言われる25年間、いかに安定した状態で運用できるかが重要です。今回のプロジェクトでは、監視の仕組みも含めて、高速大容量通信を安定的に提供するための支援ができたと思っています」(高岡)
竹島は、このプロジェクトを通じて、改めて海底ケーブル事業の魅力を再確認したと話します。
「海底ケーブル事業は高速通信を支える重要なミッションを担っており、多くの企業の多くの方々が関わっています。関係各社のみなさんと実現に向けた調整をする中で、自分たちが策定した仕様が形になり、具現化されていくのは、責任を感じると同時にとてもやりがいを感じます。光海底ケーブル事業を知っていただくことで、この仕事に就きたい、と思う人が増えるとうれしいですね」(竹島)
長年培った光海底ケーブルの技術で、離島の方々に快適な高速通信環境を—。KDDIは沖縄セルラーとともに安定した運用に務めます。
高速通信を待ち望む離島の方々の声が励みに—YUIにかけるNECの思い
沖縄の離島で快適な5G通信を実現するために敷設された光海底ケーブル「YUI」。このプロジェクトで、ケーブルの製造や海底の敷設工事を手がけたのが日本電気株式会社(NEC)です。
光海底ケーブルは、太平洋間や大西洋間、離島といった離れた場所をつなぎ、安定した高速大容量通信を提供するためのインフラとして長年、重要な役割を担っています。
そんな海底ケーブルの伝送容量は、この20年で大きな進化を遂げ、ケーブル1本あたりの伝送容量は今や100倍になっています。これは東京とロサンゼルス間をつなぐ1本の光海底ケーブルで、2時間の映画を1秒間に1万回送信できるほどの伝送容量です。
1964年に海底ケーブル事業に参入し、世界トップ3の一角を占めるシェアを誇るNECは、YUIプロジェクトの心強いパートナーとして、光海底ケーブルの敷設を担当しました。
珊瑚礁の海に海底ケーブルを引くために
光海底ケーブルは、海底の環境や地形によって敷設の方法が異なります。漁業活動が盛んな沿岸部では、船のアンカーや底引網の影響を受けても切れないよう頑丈な外装のケーブルを使い、深海部にいくほど軽量でしなりやすい無外装の細いケーブルを使います。
.jpg)
ケーブルは浮遊物の影響を受けないよう海底を這わせる形で設置するため、傾斜のある場所は避けるなど、工夫が必要だとNEC 海洋システム事業部門のマネージャーを務める村上 求さんは話します。
「海底ケーブルには、光ファイバーの中で減衰した光信号を増幅して送るための中継器が必要で、これがケーブルの一定間隔ごとに設置されています。中継器は平坦な場所に置くようにするなど、敷設の際には工夫しています」(村上さん)
海洋システム事業部門のマネージャーを務める江崎 圭さんは、沿岸部ではさらに海底にケーブルを埋めることで切断のリスクに備えていると説明します。ただ、YUIのルートには珊瑚礁が多く、ケーブルを埋めることができないエリアもありました。そのため、ケーブルを保護する鋳鉄防護管を被せて保護したといいます。
.jpg)
「岩礁でケーブルが傷つかないように、陸地に近いところから一定の距離のところまで、長さ30センチの鉄製の防護管を被せてそれをボルトで留めながらつなぎあわせてケーブルを保護しています」(江崎さん)
YUIプロジェクトが離島の方々の思いを知るきっかけに
村上さんは、このプロジェクトを通じて離島の方々のインターネットに期待する強い思いを実感できたと振り返ります。
それは、ケーブルを敷設するエリアのとある漁協の方々が、漁業に影響するのではと心配しており、説明に立ち会った時のことでした。
漁協の方々の話を聞いていてわかったのは、海底ケーブルの影響を不安に思いながらも、島の人々にとってインターネットがどれだけ大事な存在なのか、ビジネスに欠かせない存在なのかを理解してくれている、ということでした。
.jpg)
「コロナ禍の影響で外食産業が落ち込み、魚が売れなくなってしまった時にWeb販売を開始し、たまたま島に来ていたインフルエンサーが紹介してくれたおかげで、サーバがパンクするくらい注文が殺到したという話や、快適なリモートワーク環境があれば、子供たちが進学のために島を出ていかないかもしれないと思っている、という話をお聞きしました。この時、自分たちの仕事の重要性を改めて実感できました」(村上さん)
お互いに腹を割って話すことで、海底ケーブル敷設の交渉も成立し、現地の方々の通信に対する思いをじかに聞くことができたのは、とても印象深いできごとだったと村上さんは話します。
「ふだんは現地の方々の声を直接、お聞きする機会がないのですが、今回のプロジェクトを通じてリアルな声をお聞きしたことが、仕事をする上でとても励みになりました。これからも、使う人の気持ちに寄り添った仕事をしていきたいですね」(村上さん)