5Gのエリアは、都市部の鉄道、駅施設を中心に着実に拡大しています。
KDDIでは2021年6月に、JR東日本の山手線全30駅およびJR西日本の大阪環状線全19駅ホームの5G通信ネットワーク構築を完了。2023年2月現在、JR南武線、阪神本線などを含む鉄道47路線の主要区間のホームおよび駅間でも5G通信が可能になりました。
通勤や通学中の電車や、駅のホームやコンコースで、スマートフォンを使いさまざまなコンテンツを利用することが、当たり前の時代になりました。最近では駅ナカ施設も充実し、駅は商業施設としても賑わいをみせています。ショッピングや飲食を目的に駅ビル施設を利用する方も少なくありません。
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そういったお客さまが快適に5Gをご利用いただけるよう、鉄道や駅施設での5Gエリア拡大はKDDIの大きな目標です。「ずっと、もっと、つなぐぞ。au」をスローガンに、これからもお客さまの生活動線となる主要路線の駅、駅間を中心に5Gエリアの拡大に努めてまいります。
数多くの基地局を必要とする5G通信
5Gで利用する高周波数帯の電波は減衰しやすく、回り込みにくい性質があるため、駅施設周辺では4Gよりも基地局の場所と数を確保する必要があります。
5Gの通信で使われているのは「NR化」「Sub6」「ミリ波」といった周波数帯の電波です。「NR化」は4G LTEでも使われている周波数帯で、既存の基地局を活用してより早く5Gエリア化できます。「Sub6」と「ミリ波」は、5Gで新たに総務省から割り当てられた周波数帯で、高速・大容量通信ができるという特徴がある一方、周波数帯が高いほど直進性が高く、減衰しやすい、透過しにくいという性質もあります。
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低周波数帯の電波は、ある程度の障害物を回り込むことができるため、壁の向こう側にも届きやすい特性があります。一方、高周波数帯の電波は障害物があるとその向こう側に届きにくい特性があります。このような電波特性のため、駅での5Gエリアの設計では、基地局から5G化したいエリアまでの見通しを確保することが重要になります。
もう一つの課題は電波干渉です。5Gの周波数帯は携帯電話専用のものではなく、他の事業者も使っている周波数帯です。そのため既存の衛星通信事業者との事前協議および干渉対策が必要です。駅施設内の5G対策にあたっては、電波の出力や方向、角度を調整することで、既存事業者と干渉しないアンテナ設置が進められています。
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さらに5Gの通信速度は、1つの基地局だけでなく複数の基地局でエリアをカバーすることで確保されています。通信量が多い場所では5G向けの新周波数帯を、より広く電波を届けたい場所では既存の周波数帯を活用するなど、複数の周波数帯を組み合わせることでお客さまに快適な通信環境を提供しています。
駅の外からも基地局を設置
駅ホームの5Gエリア化では、駅周辺の施設にアンテナを設置していることもあります。
例えばJR神田駅では、駅の近くにあるビルの屋上にホームに向けて電波を飛ばす基地局が設置されています。ビルが高すぎると電波が飛びにくくなるため、適切な高さでホームまでの見通しがよいビルが設置場所に選ばれています。
また5Gの電波は指向性が強いため、アンテナを向ける方向や角度がわずかでもずれてしまうと電波の届く場所が変わってしまいます。絶妙なアンテナの設置が、快適な5G通信を可能にしているのです。
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電車が走行中でも5G通信ができる理由
電車が走行中は、沿線の少し離れたところにある基地局から電波を受けてデータや音声のやりとりをします。
左から右へ走行しているとき、始めは左側にある基地局と電波のやりとりをしていますが、進行していくにつれて徐々に電波が弱くなっていきます。その後、より強い電波を受信できる右側の基地局と電波をやりとりするようになります。これを「ハンドオーバー」と呼んでいます。

電車の走行中も途切れることなく5G通信ができるのは、ハンドオーバーを繰り返しているからです。JR山手線のように5G通信が可能とされている路線では、電車の速度に合わせて基地局が最適な間隔で沿線に配置されており、確実にハンドオーバーができる設計を行っています。
5Gエリア化、駅施設ならではの工夫
鉄道の駅施設をはじめ、イベントホールやスタジアムなどの屋内における5Gエリア設計、システム構成などを検討し、鉄道会社などのパートナー企業への実施依頼を行っているのがKDDIエンジニアリングの屋内センターチームです。
「駅施設の場合、必ずしも理想的な場所に無線機やアンテナが設置できるわけではありません。列車運行の安全性を第一に考える必要があるからです。また柱や天井といった構造物による制限も多いのです」と話すのは、KDDIエンジニアリング モバイルプロセス本部 屋内センター長 永田栄二です。
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屋内センターで設計を担当する嶋田直樹も、駅での5Gエリア化の難しさを次のように話します。
「駅構内の5G化では、限定された場所での最適な設計が必要になるため、アンテナの全体配置、無線機からのケーブル長、電波の強さ、方向、角度など、さまざまな要素について検討しなければなりません。逆に言えば、こうしたことを総合的に判断するためにはインドア設計のノウハウや経験が生きてくるので、設計者としては一番おもしろく、腕の見せどころでもあります。設計にあたっては、設置する駅に何度も足を運んで屋内の構造を観察し、人の流れや滞留の様子も確認して最良の設計ができるよう努力しています」
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東京駅のように利用客数が非常に多い駅の場合には、お客さまにストレスのない通信サービスを提供するため、数多くの基地局やアンテナをホームやコンコースに設置する必要があります。
「しかし、単純に数多く設置すればよいというわけではありません。数多くの基地局の電波が飛び交うことで、電波干渉が生じ、品質が劣化する要因となるからです。また5Gでは、衛星通信事業者の地球局への干渉量を協議する必要もあるため、免許申請前のステップで時間を要してしまうこともあります」(嶋田)
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駅を何度も訪れ最新の状況を確認
利用客の多いターミナル駅ならではの苦労もあります。
「5G通信のパフォーマンスを可能な限り発揮するために、アンテナからの出力レベルが最適となるように設計、配置していますが、なにぶん改修が多いのが駅施設です。いつの間にか把握していなかった構造物ができていたり、ほかの工事のためにアンテナが外されていたりするといった想定外のことが起こることもあります」(永田)
「鉄道や駅施設を利用するお客さまの数は、時間帯や曜日、近隣施設でのイベントの有無などでも大きく変化します。お客さまの数が少ないときでも多いときでも、快適な通信を行うような設計の工夫も必要になります」(嶋田)
そうしたことのないよう永田や嶋田は、駅の利用状況を確認するために5G化を進めている駅へ何度も足を運び、どんな変化が起きているか、どんな問題が生じているのかを自身の目で観察して修正を施していきます。ある種の職人的スキルが駅における5Gエリア化を支えているのです。
「今後お客さまは、『5G通信できることが当然』という感覚になっていくはずです。そのためにもより良い品質の5Gエリア構築ができるよう、お客さまに寄り添ったエリアづくりを進めていきたいと思っています」(嶋田)
「『○○駅で5Gがつながった!』といったお客さまの声をSNSで見つけると、自分たちの努力が実ったという気持ちになります。自分自身が駅で5G通信しているときも達成感を感じますね」(永田)