2023.08.10
排熱、浸水。地中に設置するからこその開発・施工の難しさ
経験のない埋設基地局を成功させるために
埋設型基地局の設計・開発にあたっては、さまざまな工夫が必要でした。
「これまでKDDIは多数の基地局を建設してきましたが、地下に埋設するという前例はありませんでした。まさに手探り状態で埋設型基地局の開発に取り組んだという印象です」と、KDDIエンジニアリング モバイル設計本部 設備設計部 附帯設計グループ 附帯設計チームリーダーの吉岡 亨は振り返ります。
KDDIの埋設型基地局は、無線機を金属製エンクロージャー(筐体)*1に収容し、無線機とアンテナを接続して樹脂製のハンドホールに収容する二重構造になっています。そこに無線機に必要な電源と通信回線を引き込み、上面に電波透過性の高い樹脂製のトップカバー(蓋)を配置して地面に埋設します。
*1 筐体:機械を収める箱を指す
「従来の基地局は、外気に触れているため排熱についてはほとんど気にすることはありませんでした。しかし埋設型基地局では、埋設することで内部に熱がこもりやすくなるのは必然です。無線機は必ずしも熱に弱いというわけでもないのですが、熱によって電子部品の劣化が早まる可能性があります。そのため排熱の手段を確保する必要がありました」(吉岡)。
設計段階では、密閉された防水ケースの中に筐体を収納して排熱テストが重ねられ、金属製エンクロージャーによって効率良く熱を逃がせるようになりました。
また地中に埋設するため、浸水も気になります。屋外の基地局は雨に濡れることが想定されているため防水対策がなされていますが、地中の場合には、浸入した水に無線機が「浸る」ことが考えられます。
「金属製エンクロージャーには水が入らないような設計に、ハンドホール筐体からは水が抜けるような設計に工夫されています。また万が一無線機が水に浸ってしまった場合は、状態異常を検知してアラームが発報され、即時対応できるようにしています」(吉岡)
設置場所の選定や、施工方法の難しさがポイントに
埋設基地局を設置するためには、施工においてもこれまでにない苦労が伴います。
「埋設するために地表から150センチほど掘り下げますが、そのとき除去できないような大きな石の塊がでてきて、工事を一時中断することになりました。また、今回の大手町ビルは、植栽エリアだったため重機を入れることができず、すべて人力での作業となりました。こうしたことを含め、埋設型基地局では、設置場所の選定が大きなポイントになっていきそうです」(吉岡)
施工が難しく、電波範囲も半径約50メートルとあまり広範囲ではない埋設型基地局ですが、それでも設置する価値は十分にあると吉岡は言います。
「景観地区は美観の面で大きな価値があります。また、都心の繁華街の待ち合わせスポットのような人がたくさん集まる場所では、トラフィックが増えるほどスループットが低下します。そうした場所に設置することで、より通信が快適になることが期待できます」(吉岡)