2023.11.17

音楽フェス環境の革命。常識を打ち破る「通信の快適性」の提供へ

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8月の「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」、5月の「JAPAN JAM」、年末の「COUNTDOWN JAPAN」の3つの大規模音楽フェスを手がける株式会社ロッキング・オン・ジャパン(以下、ROJ)イベント部の渡邊 魁さんは、学生時代から音楽フェスに通い、ROJへの入社後も一貫してイベント開催の最前線に居続けてきた運営チーフです。

2022年、コロナ禍で中止になっていた音楽フェスが徐々に再開される中で渡邊さんは、今後のイベント運営そのものを根幹から崩壊させかねない課題に直面しました。

「通信環境の問題は突然出てきたものではなく、コロナ禍の前から指摘されていました。参加者に不便な思いこそさせたものの、当時はそこまで運営に深刻な支障をきたすわけでもなく、業界全体としても『音楽フェスとはそういうものだ』といった共通認識がありました。しかし、通信環境の問題を放置できなくなったのは、会場内でのグッズや飲食物購入時のキャッシュレス決済の普及、電子チケットの導入、公式アプリでの情報発信の強化、参加者のSNS利用シーンの拡大などにより、フェスの運営全てが通信環境を土台として成り立つものに変容してきたからです」(渡邊さん)

株式会社ロッキング・オン・ジャパン イベント部 渡邊 魁さん株式会社ロッキング・オン・ジャパン イベント部 渡邊 魁さん

デジタル時代到来で、音楽フェスは「つながる」が求められる

公式スマホアプリを提供し、アプリ経由でチケットを販売しているROJにとっても会場でスマートフォンが機能しないことは大きな問題です。

渡邊さんは「『つながりにくい』の意味が、コロナ禍を境に大きく変化しました」と強調します。2022年の「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」でその問題は表面化。場所と時間帯によってはキャッシュレス決済が使いづらく、グッズ・飲食販売ブースでは結局現金専用レーンを作って対処するアナログ回帰も一部で発生しました。スタッフ同士も4G LTE回線を使うトランシーバーを用いていたため、運営上のやりとりにも支障が生じました。

「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」の会場(千葉市蘇我スポーツ公園)には、より多くの来場者を動員することが面積的には可能です。渡邊さんは「2023年のROCK IN JAPAN FESTIVALに向けて、動員を増やす方針が決まっていました。しかし、通信環境問題を解決しないままでは、参加者にサービスを行き渡らせることは不可能です。通信環境の整備は、動員を増やすための前提条件になるのだと、社内に危機感を訴えました」と話します。

「常設の基地局はキャリアさんの意向次第ですから、こちらからはお願いするほかありません。もちろん各キャリアさんに相談しましたが、簡単に建設できるものではなく、長いスパンでの計画になるため、即効性がありませんでした。各社はすでに車載型基地局で対応してくださっていましたが、弊社としても抜本的対策に取り組まなければなりません。その際にStarlinkの存在をニュースで知り、この衛星ブロードバンドならばこの課題を解決できるのではと期待しました」(渡邊さん)

音楽フェスに快適性を。ロッキンの思想を支援するKDDIのソリューション

当時はまだ最適なソリューションが整っていなかったものの、その後KDDIが検討を重ねる中でStarlinkと公衆Wi-Fiを組み合わせる案がまとめられていきました。

「海外の音楽フェスではVIPエリアなど、特定の場所にだけWi-Fiを整備しているケースがあります。しかし広域のフリーWi-Fiの整備の前例はありませんでした。その実現のためには、技術的にも、コスト的にも大きな壁がありますが、通信環境改善のためのコストは、必要な投資だと考えました。一般的に不便な条件が多い野外会場での音楽フェスにおいて、可能な限りの快適性を追求し、参加者にストレスなく一日を楽しんでいただきたい。その意味でも、安定した通信環境の構築には大きな価値があると考えています」(渡邊さん)

KDDIのStarlinkによる確かな接続と、Wi2による臨機応変な現場対応で、「JAPAN JAM」の通信問題はクリアしました。そこで得た教訓を生かしてさらに「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」では一歩進んだ通信環境を用意したと渡邊さんは説明します。

「通信環境の整備を進めても、参加者から感謝されることはそれほど多くありません。マイナスをゼロにする取り組みだからです。しかし、その効果は参加者のアンケート結果で明確に現れました。2022年に最多割合を占めていた通信環境に関する苦情は激減し、ゼロにはなっていないものの、全体に占める割合がかなり下がりました」

渡邊さんのチームが取り組みたい課題は、まだまだあるようで、「ROCK IN JAPAN FSTIVALには若い方が多く参加してくださいますが、彼らにとってスマホは『繋がって当然』のものであり、そういった価値観に合わせていくべきだと考えています。数万人を動員する野外音楽イベントで日常生活レベルの通信環境を確保することは困難ですが、そこを目指していきたい」と話します。

「音楽業界は、常に新しいことをやっているようで、旧態依然とした部分も意外と多く残されていると感じています。弊社が世界の音楽業界に先駆けて通信環境改善に取り組んでいることには自負があります。だからこそDXに強みを持つKDDIやWi2のようなパートナーと共に、世界一のインフラを備えた、新しい音楽フェスの姿を追求していきたいです」(渡邊さん)