2023.5.30

ネパールの教育の質の向上にICTの力を活用する

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ネパールでプログラミング教育

KDDI財団 中山善博KDDI財団 中山善博

ネパールの教育支援は2017年から始まり、プログラミング教育、視聴覚障害のある子どもたちのためのデジタル教材活用、そして、もう1つが学校へのコンピュータ導入という3つの柱で活動を進めています。ネパールではカンボジアのような学習機会の提供というより、教育の質に絞った支援を行うという形です。
なぜ、ネパールでプログラミング教育なのか。これは、現地の教育NPO(Open Learning Exchange Nepal)のメンバーとの交流を通じて、ネパールにおけるプログラミング教育への親和性の高さを感じたことがきっかけとなりました。彼らが進めていたのはデジタル教材で、当然、コンピュータを用いることになります。必要なハードとしてコンピュータがあれば、プログラミングの教育を提供することができます。また、ICT分野に力を入れるという教育方針を、国としてネパールが打ち出しています。そうしたネパールの事情ともマッチしたということになります。

プログラミング教育の様子プログラミング教育の様子

「ネパールでは、公立学校と私立学校の教育の質の格差がはっきりしています。私たちは公立の学校を支援していますが、公立の中でも都市部と田舎の地域差が存在します。そのため、プログラミング教育を学校のアピール材料として使ってくれるようになりました。プログラミング教育の支援を始めたことで、公立の学校に生徒が集まるようになったのです。以前は50人くらいしか生徒が集まらなかった学校に今は200人の生徒が通学しています、これは1つの成果ではないかと思っています。

まだ支援を始めて数年ということもあり、プログラミング教育による子どもたちの変化を具体的に示すのは難しいところですが、クラブ活動として続けている学校もあります。地域によっては、学校対抗のプログラミング競技会をしようという話も出ています」(中山)

デジタル教材の導入と視聴覚障がいの子どもたちの教育支援

ネパールにおいてもモバイル通信はかなり普及しており、スマートフォンを持っている人も多いのですが、授業では安定して利用できるようにインターネット回線は使わず、サーバを学校に設置し、子どもたちのコンピュータからアクセスしています。
また、耳が聞こえない、目が見えないという子どもたちの教育を支援できないかということで始まったのが、視聴覚に障がいを抱える子どもたちのためのデジタル教材の制作です。ネパールには視覚・聴覚の障がいを持つ人が多いと言われます。ここにきてコロナ・パンデミックにより、教育格差がより拡大することが懸念されていました。
そこで、手話の動画を教材の中に埋め込んだり、音声読み上げ機能を盛り込むなどデジタル教材を工夫して、障がいのある子どもたちに学ぶ機会を提供しています。

「この取り組みは、非常に意味が大きいと考えています。より深刻なのは、視覚・聴覚に障がいのある人が孤立してしまいかねない状況です。たとえば、聴覚に障がいのある子どもは家族の中でのコミュニケーションも困難です。両親や兄弟も手話ができるわけではありません。でも、学校に行けば手話のできる先生と話すことができるし、デジタル教材で学習ができるのです」(中山)

ICTが社会に与えるベネフィットをどう捉えるのか。1つ言えるのは、誰もが公平にチャンスを得られる可能性が広がるということです。
ただ、ICTの活用でいろいろなことができるようになる一方で、そこに流れから外れてしまう人も出てきます。たとえば高齢者、高齢者全員がICTを使いこなすことは難しいかもしれません。そういう人たちに無理強いせず、見放すこともなく、一緒に進んでいくことが必要なのではないかと中山は話します。

「5年、10年後には、ICTを使うという感じではなく、知らないうちにICTを使っているという未来になるはずです。意識しなくても知らず知らずのうちにICTが社会に普及し、生活に溶け込んだ社会になるのだと思います」(中山)