2023.5.30

カンボジアの子どもたちに"学ぶ"喜びを

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カンボジアに学校を作る

KDDI財団で長くカンボジアの教育事業に従事してきた小島理代子(取材当時・2023年3月退職)KDDI財団で長くカンボジアの教育事業に従事してきた小島理代子(取材当時・2023年3月退職)

カンボジアに学校を作るというプロジェクトは、KDDI財団の前身である(財)KDDIエンジニアリング・アンド・コンサルティング(以下KEC)が2005年に行った創立30周年記念のチャリティーコンサートから始まりました。その収益でカンボジアに小学校を1つ建てることになったのです。

2005年に建設されたKDDIスクール2005年に建設されたKDDIスクール

なぜ、カンボジアだったのか。クメール・ルージュ政権と冷戦の長期化がカンボジアという国に残した傷跡はとても深く、社会に必要な様々なインフラが破壊され、当時まだ教育システムもうまく機能していないという状況でした。学校の校舎も教員も教材も足りない、とても十分な教育を与えられる環境ではなかったのです。学校から離れた場所に住んでいたり、仕事の担い手として米作りや牛の世話、あるいは家事や幼い兄弟の世話などに忙しかったり、なかなか学校に通えないという子どもたちがたくさんいました。
KECでは創立30周年記念の一貫としてカンボジアで教育支援を行うWorld Assistance for Cambodia(以下WAfC/現在活動停止中)代表のバーナード・クリッシャー氏の講演を依頼したことから、このカンボジアの問題に向き合うことになったのです。

"学ぶ"喜びが連鎖していく

どこに小学校を建てるかは、最初の頃はカンボジアの教育・青年・スポーツ省が要望する候補から選定していましたが、取り組みを続ける中で教育の必要性が認知されるようになると、次第に現地の村やNPOから依頼が来るようになりました。また現地パートナーも積極的に候補地を探してくるようになり、そうした候補地からどこに学校を建設するのがよいか相談しながら、現在までに13校の小中学校を建設しています。
小島は担当者として、2007年、3校目の学校の視察からカンボジアを訪れるようになりました。まだその頃は親の世代が教育の必要性をあまり認識していない時代で農作業の繁忙期などは子どもたちを学校に行かせない親も多かったそうです。財団担当者は、多ければ年に2、3回、カンボジアに行きますが、普段のやり取りは主にメールで行います。
学校の課外授業として英語・パソコン教室を実施するとともに、いくつかのKDDIスクールでは、音楽や美術、運動会など、様々な取り組みを行っています。音楽や美術など、いわゆる実学とは少し異なる情操教育の導入は、手に職が付く実用的なことを学ばせたいと願う現地パートナーには当初、理解しがたいようでした。しかし、いざ音楽の授業が始まると、大きな声を張り上げて楽しそうに歌う子どもたちの姿に、英語やパソコンの授業とはまた違った教育のあり方を感じたようです。

現地のショッピングモールで演奏を披露する子どもたち現地のショッピングモールで演奏を披露する子どもたち

「鍵盤ハーモニカや楽器を持っていったときも、子どもたちは興味津々で、配られるのを待ちきれないほどでした。最初はトライアルということで、2人で1台を交代で使うようにしたのですが、それでもお互いに教えあったりしてとても楽しそうなのです。すぐに楽譜を読むのは難しいので、鍵盤のひとつひとつに色の違うシールを貼り、黒板には大きな五線紙に色付きの音符を書き込んだ紙を貼って、青の次は赤、次は黄色というように指で示し、それを見ながら演奏するというところから始めて、プノンペンのイオンモールでお披露目できるくらいにまで上達しました」(小島)

美術教室の様子美術教室の様子

そういう子どもたちの変化は周囲の大人にも影響します。美術教室にしても、子どもたちが描いた絵を家に持って帰ってもらい、「今日、これを描いたんだよ」と親に見せて、できたら部屋に飾ってもらいたい。親や周囲の大人をこの取り組みに巻き込みたいと考えたからです。それが少しずつ変化を起こしていきました。いまでは運動会も彼らが自分たちのやり方で行っています。親の世代の認識が変わってきているのです。

教育支援の本質は「自分たちでやるようにする」

学校があることの良さ、子どもたちが学校に通うことに関して、この十何年で理解が広がってきているのではないかと小島は捉えています。ただ、いくらその必要性が理解されたとしても、教員の給料や教室運営にかかる費用など、どんなに「自分たちで」と考えてもお金がなければ何をすることもできません。
そのため、今はまだ支援を続けないと難しいとした上で、必要性を理解してもらって自分たちでできるようにする、自分たちがやりたいと思うようにすることが本来の支援の形なのではないかと話します。

「国の義務教育の制度も整わないといけないのでなかなか難しいところですが、カンボジアも最近は政府を中心として教育にとても力を入れています。地域によっては先生のレベルもいろいろではありますが、たとえば、英語教室ではこんな教材を使って、もっとこのような授業をしたいと積極的な取り組みも見られるようになりました。現地パートナーからも、先月、先生のレベルを上げるために合同研修を開催したいという提案がありました。子どもたちが英語やパソコンができるようになったというところも非常に重要ですが、周りの環境が変わってきているということがある意味、教育支援になっていると思います」(小島)