2023.5.22

水上ドローンによる海洋DXの可能性 ―三重県鳥羽市

  • カーボンニュートラル
  • 藻場
  • 水上ドローン

技術×現場×研究ノウハウが一緒になって進んでいく

鳥羽市はこれまで潜水目視による方法で藻場の実態把握を行ってきました。2011年、鳥羽市水産研究所に入った岩尾豊紀さんは磯焼けと藻場の減少に関する実態解明、鳥羽市沿岸の海がどんな状態かを知るために調査を始めました。
当時は岩尾さんが自ら潜り一人で調査を進めていたと言います。そのため、広範囲を定量的に調査することは極めて難しい状況でした。

こうした課題解決の一助とすべく、鳥羽市とKDDI総合研究所の水上ドローンを活用した藻場の実態調査プロジェクトが始まりました。KDDI総合研究所との取り組みをつないだのは、鳥羽市農水商工課の榊原友喜さんです。

鳥羽市農林水産課 水産係 係長 榊原友喜さん鳥羽市農林水産課 水産係 係長 榊原友喜さん

「当時は定量的に測定を行っていきたいという我々の課題感に対して水上ドローンをご提案いただいたのですが、話を聞いていくとKDDIグループも藻場の調査を始めていると。そこから、どんどんプロジェクトが拡大していき、今では一緒にブルーカーボン*¹量の算定、クレジット*²化に向けて取り組んでいます」(榊原さん)

ブルーカーボン:海藻や海草、プランクトン等の海洋生態系に取り込まれた炭素のこと。CO2吸収源の新たな選択肢とされている。
クレジット: CO2吸収量をクレジットとして発行し、CO2削減を図る企業・団体等とクレジット取引(購入)を行う。地域にとっては収益となりこれまでボランティアベースだった保全活動の活性化、持続性の確保が可能となる資金創出メカニズム。

鳥羽市水産研究所 岩尾豊紀さん鳥羽市水産研究所 岩尾豊紀さん

「僕は、待っていましたという感じでした。鳥羽市水産研究所に入ったときから、こういう体制にならないとダメだと考えていましたから。特に藻場のことに関しては、やらなければいけないことがいくらでもある。でも、一人で予算内にできることは非常に限られます。はじめは、観光地としてニーズを高めることで周囲の人を動かそうと考えていました、もう20、30年のプランです。それがダイレクトに研究を進められるとなったわけです。僕的にはむちゃくちゃガッツポーズな展開でした」(岩尾さん)

産官学連携の取り組みについて岩尾さんはいまの時代、企業には技術力だけではなく、立場の異なるステークホルダーをリードする力も求められているといいます。
「産官学連携の難しさはよく知られていますが、今回のプロジェクトがうまくいっている理由は広く多様な価値観、考え方を許容することに慣れたKDDIの企業文化が大きな要因ではないかと思う。ブルーカーボンに関して他の企業さんから話をもらうこともあったが、気にしたのは"一緒にやれるかどうか"ですね」(岩尾さん)

水上ドローンによる藻場調査の可能性

水上ドローンを活用した調査について、広範囲を定量的に測定できるようになること以外にも利点があると言います。

「通常の潜水調査では、潜っている人は誰にも相談できません。一番鮮度のいい情報は潜っている本人しか見ることができない。しかし水上ドローンであれば、みんなでリアルタイムに水中のカメラの映像を見ることができます。予め専門家を集めておけば、その場に様々な頭脳が結集することになります。広範囲を見ることができるというのも水上ドローンによる調査の価値ですが、それよりも、僕は頭脳を結集できることに大きな可能性を感じています」(岩尾さん)

鳥羽市としても今後継続的に取り組んでいきたいと榊原さんは言います。
「水上ドローン活用による藻場調査は漁協関係の方にも少しずつ理解を深めてもらっている段階です。鳥羽市の強みは市に水産研究所があるということなので、今後もさらに取り組みを進めていきたいと考えています」(榊原さん)