2023.08.03

サービス品質を落とさず、24時間受付可能な新しい仕組みを―八王子市 学童クラブの取り組み

  • 行政DX
  • BPR
  • 東京都市長会
  • 八王子市
  • 学童クラブ

学童クラブの入所申請のBPRとDXを実施

東京都市長会では、令和3年度(2021年)から5カ年計画で多摩地域における行政のデジタル化を推進し、「市民の利便性向上」と「市役所の業務効率化」に取り組んでいます。その具体的な取り組みとして令和3、4年度に実施した事業が「行政手続きのオンライン化」です。

東京都市長会事務局 企画政策室 主査の川田剛士さんは、次のように話します。

「私は市役所からの派遣ですが、市役所勤務の頃は業務課題をなんとか解決したいと考えても、日々の業務の中ではデジタル技術に関する学びを深める時間の確保が難しいのが実情でした。東京都市長会のDX担当となり、行政DXの取り組みを間近で見たことで、ようやく行政の業務とデジタルがどう結びつくのか、はっきりと理解できるようになり、各自治体の皆さまとDXを通じて多摩地域をより良くしていきたいという気持ちが高まりました」
その具体例の1つで、すでに大きな成果をあげているのが、令和4年度に実施した八王子市の「学童クラブ(放課後の学童保育)の入所申請オンライン化」のためのBPRです。

八王子市教育委員会 生涯学習スポーツ部 放課後児童支援課 主査の小濱英明さんと、八王子市 デジタル推進室 主任の大谷勇介さんは、この取り組みの主担当としてプロジェクト発足当時の課題をこう振り返ります。

「学童クラブを利用するのは、共働きなどで平日は留守にされているご家庭です。一方で市役所の開庁時間は基本的に平日の昼間。学童クラブは保護者の就労支援を役割の1つとしていながら、利用(入所)を申し込むには仕事を休まなければならず、兄弟姉妹がいる場合には同じ書類を複数枚書く必要があるなど、制度上の不便さを抱えていました。サービス品質水準を落とさず、24時間受付可能な新しい仕組みを実現したいと考えていたのです」(小濱さん)

「デジタル推進室は、各所管課のデジタルツール活用のサポートや市民の利便性向上を推進する部署です。八王子市のデジタル化を進めるとともに、伴走型支援として何ができるかを模索するため、このプロジェクトに参加しました」 (大谷さん)

学童クラブの全申請数のうち約35%がオンライン申請を利用

小濱さんと大谷さんは、以前同じ部署にいたこともあり旧知の間柄でした。その二人が中心となり、学童クラブ入所申請のオンライン化が進められることになりました。

「デジタル推進室は、二人三脚のように寄り添って伴走するイメージで、放課後児童支援課が主管するこのプロジェクトをサポートしました。両部署が上手く役割分担や連携ができたことが結果的に成功に寄与したと考えています」(大谷さん)

KDDIも初期段階からプロジェクトに参加し、外部の視点からさまざまな意見を交換しました。

今回のプロジェクトでポイントになったのは、申請フォームの利用マニュアルを充実させたことです。オンライン申請は閉庁時間帯に利用される想定であるため、申請者が操作に迷わず、不明点があっても自己解決できるようにするためです。

「文字での説明は最小限にし、視覚的なわかりやすさを重視しました。また、申請フォームの項目を精査して最小限の入力ですむようにしたり、兄弟姉妹がいる場合の申請では既に入力した内容を再利用できるようにするなど、使いやすさを工夫することが利用率の向上につながりました」

結果として、学童クラブの全申請数のうち約35%以上がオンライン申請を利用し、満足度4.4(5点満点)という具体的な成果を挙げました。また庁内報でも紹介され、さまざまな部署から問い合わせがあったといいます。

DX経験のある人が各課に分散することで全体を底上げ

小濱さんは、自治体におけるDXの取り組み方について、次のように話します。

「DXの取り組みでは、利用ツールについてシステムベンダーの説明や指導を受けつつも、職員自らが『こうすれば自分たちの手で実現できる』という実践経験を積んでいくことが大切だと思います。しかもDXのスキルは、異動先の部署でも活かすことができます」

一般的に、自治体職員の異動は“転職”のようなもので、1からのスタートになりがちだと言われていますが、DXやデジタルツールの経験に関しては、一度得た実践的な知識やスキルを異動先の部署で活かせるのです。

大谷さんも、「DXを進めていくには、行政業務を改革した事例を庁内で増やすと同時に、デジタルツールを使いこなす人財を育成していくことが大切だと思います。DXを経験した人財が市役所の各課に分散して所属することで、市役所全体のDXへの機運を高めていくことができるのではないでしょうか」と、DX経験者が市役所内に広がることが大切だと話します。

また、川田さんが所属する東京都市長会へは、多摩地域のデジタル化の推進について、今後に大きな期待が寄せられています。

「東京都市長会で共有された課題を討議し、解決方法や改善策の実証を経て成功事例を多摩地域で展開するのが私たちの役割です。人材育成とDXの同時進行による好循環を実現するべく、東京都市長会は多摩地域の自治体のニーズを踏まえた支援を行っていきたいと考えています。DXに関してさまざまな知見を持つKDDIのサポートに期待しています」(川田さん)