2023.6.15

アプリによる正確な行動記録や分析で診療時間以外のケアも可能に

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未解明といわれるスマホ依存とは

スマートフォン依存の診療を行う東京医科歯科大学病院 精神科 ネット依存外来の治徳先生、小林先生にお話を伺いました。
ネット依存外来を受診する患者さんは、おおよそ6割が中高生だと言います。性別としては男性が約7割で、ゲームへの依存が非常に多いとのこと。スマホを使い過ぎることにより、睡眠障害や抑うつ、食事が取れないなどの健康状態に影響が出る人や、家族への暴力、課金の問題なども起きていると言います。ですが、その原因はまだ解明されていません。

東京医科歯科大学病院 精神科 ネット依存外来 講師 治徳大介先生<br>東京医科歯科大学病院 精神科 ネット依存外来 助教 小林七彩先生東京医科歯科大学病院 精神科 ネット依存外来 講師 治徳大介先生
東京医科歯科大学病院 精神科 ネット依存外来 助教 小林七彩先生

「スマホ依存は脳神経科学による分析で他の依存症と比較すると、共通している部分もありますが、研究ごとに一致しない結果が出ることもありまだわかっていないところが多い症状です。そこで今、スマホ依存に至る行動分析をメインに取り組んでいます」(治徳先生)

KDDI総合研究所との連携で患者さんへの行動分析を開始

現在、スマホ依存の実態解明およびDTxの実現に向けて共同で取り組みを進めています。KDDI総合研究所が提供するスマホの利用状況を詳細に記録できるアプリを患者さんにダウンロードしてもらいデータ分析や治療効果について検証を行っています。

東京医科歯科大学病院 精神科 ネット依存外来 講師 治徳大介先生東京医科歯科大学病院 精神科 ネット依存外来 講師 治徳大介先生

「KDDI総合研究所から提供されたアプリによって、患者さんのスマホ利用の把握が容易になりました。スマホ依存の人は基本的にスマホを常に持っているため、アプリによる行動解析に信頼性が高いという特徴があります。“監視されている気がする”と言ってアプリを使いたがらない患者さんもいるのですが、治療が進むとアプリにも抵抗を感じなくなるようです。その点も含めて参考になります」(治徳先生)

患者さんの多くは、自分がスマホ依存であるという自覚症状がありません。そのため診療のきっかけは保護者が心配して一緒に病院に来られるケースがほとんどです。その患者さんたちに対して治療を進めていく上で、アプリで使用状況を可視化すると「自分はこんなに長時間もスマホを使っているんだ」と意識できるようになります。

東京医科歯科大学病院 精神科 ネット依存外来 助教 小林七彩先生東京医科歯科大学病院 精神科 ネット依存外来 助教 小林七彩先生

「時系列でデータを取っているため、最初は夜の使用時間が長かったけど最近は減ってきたなど、患者さんに治療の経過を視覚で伝えられます。患者さんも治療のモチベーションになるのではと考えています」(小林先生)

現在、ほぼすべての患者さんに提供しています。自分がスマホ依存であるという認識が進んできた段階で、この時間帯は少し減らしてみようかなどの指導をしているそうです。

「治療に前向きに取り組んでいる人ほど積極的に使ってくれているため、助言がしやすくなり、治療のアプローチも立てやすくなっています。具体的な行動により、患者さん自身が治療していると認識できることも大きいです。自分の結果に興味をもって今回はどうでしたかと聞いてくる患者さんもいます」(小林先生)

DTxで進む迅速な治療と予防医療

治徳先生は「DTx(Digital Therapeutics:デジタルセラピューティクス)*1」の実現に向けて、いまは時間をかけてデータを集めている段階だと話します。

*1 DTx(Digital Therapeutics:デジタルセラピューティクス):疾病の診断や治療、予防等の医療行為を支援するデジタル技術で、患者が医師の指導の下、治療目的で使用するものを指します。

「このアプリは、患者さんのスマホにダウンロードしているので診療以外の時間帯も自動的にデータ収集を行っています。今後はリアルタイムに近い状況で治療方針を決めていけるようになるのではないでしょうか」(治徳先生)

スマホ依存の治療はとても時間が掛かります。患者さんやご家族の話をじっくりと聞くため、診察時間も長くなります。しかし、客観的なデータを示せることで治療時間を短縮でき、患者さんも医療者も負担が軽くなると言います。
最終的にはスマホ依存をスマホで予防する、予防医療まで持っていきたいと今後の展望を話してくれました。