日本の水道インフラを守れ!デジタルの力で老朽化・人手不足の課題に挑む

日本では水道環境が整っており、蛇口をひねれば安全な水が出ることは、あたりまえの光景になっています。こうした快適で安心な環境は、水道管や設備の点検・整備など、水道事業者の日々の努力によって成り立っているものです。ところが今、水道事業は、水道管の老朽化や人口減少による労働力不足などにより、さまざまな課題に直面しています。

水道管の漏水に、いかに迅速に対応するか

漏水した水道管の多くは、昭和40年代から50年代の高度成長期に整備されました。水道管の耐用年数は約40年といわれていますが、すでに50年以上経過している水道管も少なくありません。生活に不可欠な水道インフラは、老朽化対策が喫緊の課題となっているのです。

「水道管の亀裂などによる漏水は予測することが困難で、路上への水漏れが生じたり、本格的な調査を行ったりして、初めて発見されることも少なくありません。私たちが担当する地域では、年間約60件の漏水対応が発生しています」と話すのは、山梨県大月市と上野原市の上水道を管理する東部地域広域水道企業団で施設担当リーダーを務める小俣 貴士さんです。

東部地域広域水道企業団 小俣 貴士さん
東部地域広域水道企業団 小俣 貴士さん

漏水がわかると、施設担当の職員はただちに現場へ急行し、周辺にある弁栓(水流を調整するバルブなど)を閉じなくてはなりません。施設担当の職員数は限られているため、場合によっては、対応に不慣れな事務職員が応援に駆けつける必要もでてきます。

「弁栓があるのは道路だけではありません。山林にある場合には、秋になると弁栓が落ち葉に埋もれて、どこにあるのか分からなくなってしまいます。街中にあったとしても、複数の種類の弁栓が密集している場所では、どの弁栓が開閉の対象なのか、判断が難しいこともあります。また冬季には積雪により、弁栓を見つけることに2時間程度かかったこともありました。漏水が発生した時に、いかにして目的の弁栓を迅速に特定し対応するのかが、悩みの種でした」(小俣さん)

落ち葉に埋もれて、弁栓の場所がわからない
落ち葉に埋もれて、弁栓の場所がわからない
冬期には弁栓が雪に埋もれてしまうこともある
冬季には弁栓が雪に埋もれてしまうこともある

衛星と補正情報を活用して、高精度で位置を特定

こうした東部地域広域水道企業団の苦労を解決する糸口となったのが、「KDDI 高精度位置測位サービス」です。通常、屋外の位置測位では衛星から受信するGNSS信号(全地球測位衛星システム)を利用しますが、このGNSS信号単独での方法では、測位精度が低くなります。これに位置の補正情報を突合させることで、“数センチ”という高精度で位置を特定できるようにしたのが、このサービスの特徴です。

高精度位置測位の仕組み
高精度位置測位の仕組み

本サービスの実証実験を牽引した、KDDI LXビジネス企画部の竹田 龍之介は、「高精度位置測位技術を活用し、あらかじめ弁栓の位置情報である緯度・経度情報をデジタルマップ(スマートフォン等)に登録しておくことで、弁栓が隠れていても探し出せると考えました。現場で高精度位置の実用性を検証するため、東部地域広域水道企業団さまにご提案を行い、実証実験の機会をいただくことができました」と話します。

KDDI 事業創造本部 LXビジネス企画部 竹田 龍之介
KDDI 事業創造本部 LXビジネス企画部 竹田 龍之介

より効果的なメンテナンスには水道設備の位置把握が重要ですが、従来の正確な位置測定には高価で大掛かりな機器が必要となるため、実現が難しい状況であることが課題でした。そこで、竹田のチームでは、作業員一人でも計測ができるよう、小型軽量で扱いやすく、視覚的に分かりやすい構成を準備しました。機材は小型のGNSS受信機を取り付けたポール状のスタンドとスマートフォンだけとコンパクトです。

小型のGNSS受信機を取り付けたポール状のスタンドにスマートフォンを装着
小型のGNSS受信機を取り付けたポール状のスタンドにスマートフォンを装着

実証の舞台の一つとなったのは、大月市を流れる桂川の支流にかかる真渡橋付近です。「山林にも近い川沿いの谷間で、複数の弁栓が密集する場所でも、KDDI 高精度位置測位サービスを活用することで、簡易かつ正確に位置情報を取得できる。さらに、取得した位置情報を活用することで、たとえ落ち葉に隠れていても弁栓を発見できる」というストーリーに基づいて実証を行いました。

KDDI LXビジネス企画部の伊藤 真は、「実運用を想定し、東部地域広域水道企業団さまが過去に発見が困難となった経験がある弁栓を複数選定して、実証を行いました。その中には、林道や川沿いの谷間、山間部など、衛星信号の受信が困難な環境も含まれます」と話します。

今回の実証では、実運用におけるコンパクトな構成による測位でも“本当に精度の高い位置測定ができているのか”についても検証しました。衛星による測位は、周辺環境の影響を受けやすく、測位結果が実運用に使える精度かどうかを見極める必要があったからです。そのため、サービスの技術担当社員である久永 駿馬、川松 大輝も現地に同行し、測量用の専用機材を使って精度の評価を実施しました。

「実証現場のように、岩壁などの地形が遮蔽物となり、上空の視界が十分にとれない環境などでは、測位精度の劣化や不安定化が生じやすくなります。このような場所でも高精度の測位ができるのかを確認するため、測量専用機材の受信強度フィルタや仰角フィルタなどの設定を最適化し、衛星データ解析を行いました」(久永)

「衛星データ解析では、受信ログ解析で衛星ごとの受信強度や仰角を確認し、可視衛星解析で観測時刻の衛星配置を把握しました。さらに、測地系に合わせた変換や補正も行いました」(川松)

こうした検証の結果、コンパクトな構成かつ測位精度が不安定になりやすい現場でも、正確な位置測定ができていることが証明され、実運用においても問題なく活用できる精度であることを確認できました。

KDDI 事業創造本部 LXビジネス企画部 伊藤 真
KDDI 事業創造本部 LXビジネス企画部 伊藤 真

●小型のGNSS受信機とスマートフォンで弁栓の位置情報を記録

位置測定の事前準備として、弁栓の位置情報を登録します。そうすることで、たとえ弁栓が落ち葉や雪で見つけづらくなっても、簡単かつ確実に捜索できるようになります。

事前に弁栓の位置情報を記録する
事前に弁栓の位置情報を記録する
弁栓にスタンドを立て、スマートフォンに位置を記録する
弁栓にスタンドを立て、スマートフォンに位置を記録する

●落ち葉に隠れた弁栓を、実際に捜索

実証では、落ち葉に埋もれて弁栓の位置がわからない様子を再現
実証では、落ち葉に埋もれて弁栓の位置がわからない様子を再現
目的の弁栓に近づくと、地図上に目的地と現在地が表示される
目的の弁栓に近づくと、地図上に目的地と現在地が表示される
目的の弁栓の位置から、1メートル以内に入るとレーダー式へと表示が変化
目的の弁栓の位置から、1メートル以内に入るとレーダー式へと表示が変化
目的の弁栓の位置を特定し、金属製の棒でつついて弁栓があることを確認
目的の弁栓の位置を特定し、金属製の棒でつついて弁栓があることを確認
埋もれた弁栓を掘り起こす
埋もれた弁栓を掘り起こす

小俣さんは実証実験の感想について、「実際に現場で使ってみて精度の高さに驚きました。操作も簡単で、これなら応援の事務職員でも使えそうです。私たちが担当するエリアには約1万6,000カ所のメーターと約5,500個のバルブがありますが、あらかじめこれらすべての緯度・経度情報を登録しておけば、漏水時の対応が格段に早くなると期待できます」と話します。

KDDIでは、弁栓の位置特定のほか、東部地域広域水道企業団が長年の課題としていた「報告書の作成業務」をアプリ上で完結できる仕組みの実証実験も実施しました。これは、水道管の修繕作業時に、事務所に戻ってから記載していた紙ベースの報告書をデジタル化し、現場での入力を可能にするものです。

「漏水発見から報告まで、2時間程度要していたそうですが、アプリ化することで数分に短縮できることを確認しました。これにより、現場の情報がリアルタイムで共有されるため、すぐに対応の検討と指示を開始できることが期待されます」(伊藤)

水道施設の点検は、現場に足を運び、目視点検にて、紙の地図と台帳で管理していたアナログ時代が長く続きました。そして、2006年ごろから浄水場中央監視装置と各所水道施設間の通信方式にパケット通信を使用するなど通信化・情報化を迎えました。小俣さんは、東部地域広域水道企業団とKDDIは、そのころから水道事業の効率化に取り組んできたパートナーであったと振り返ります。

「水道料金は使った分を利用者が支払うことで成り立っており、地域人口の減少は水道事業の収入減に直結します。しかし、インフラの維持コストは変わりません。さまざまな業務をデジタル化することでコストを抑制したり、漏水調査等保全業務に費やす時間を増やしたりして、住民の皆さまが安心して水道を使い続けられることが重要です。水道DXを進めていくためにも、KDDIさんにはこれからも期待しています」(小俣さん)

身近な水道事業を守り続けるために、通信の力が現場を支えています。これからもKDDIはつなぐチカラを進化させながら、自治体やパートナーの皆さまと共創し、社会や地域が抱えるさまざまな課題の解決に取り組んでいきます。

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