お客さまのお問い合わせ、スマホのボタン操作から「声」に。ストレスのないカスタマーサポートを目指して

スマートフォンが進化し、さまざまなサービスが登場している今、お客さまからのお問い合わせは多様化しています。

請求金額を確認したい、新機種へのデータ移行がうまくいかない、料金プランの変更をしたい、Pontaポイントの付与タイミングを確認したい、スマホ決済を使ってみたい、アプリの使い方がわからない―。
こうしたお客さまのお困りごとを解決する「お客さまセンター」では、よりスムーズに担当窓口におつなぎするための取り組みを行っております。

その1つが、2023年4月に導入した音声認識機能を活用した取り組みです。

これまで、電話によるお問い合わせでは、音声ガイダンスの案内に従って、問い合わせ内容に該当するボタンを押していただくことで担当窓口におつなぎしていました。

しかし、お客さまから「音声ガイダンスが長い」「どれを選んだらいいのか分かりづらい」というご意見が寄せられていたため、お客さまにお問い合わせの内容をお話ししていただき、システムがその内容を判別し、適切な窓口につなげる「音声認識IVRシステム」という仕組みを導入しました。

お客さまへスムーズにご案内ができるように。KDDIは新たな技術でチャレンジを続けます。

スムーズなご案内を目指して。進化するお客さまセンターの姿

「1 to 1 Communication」という方針のもと、お客さまの一人ひとりに寄り添い、最適な解決方法を提供することをミッションとしています。

昨今では、Webやチャットなど、新たなお問い合わせの手段もご提供していますが、音声ガイダンスに従ってボタンを押して問い合わせたい内容を選ぶ「IVRシステム」(自動音声応答システム)は、現在も多くのお客さまにご利用いただいている手段です。

この長年使われてきたIVRシステムですが、「ボタン式のメニュー選択」には課題がありました。

「ボタン式のIVRシステムは設定できるメニューの数に限りがあります。お客さまはあらかじめ分類されたメニューの中から選ぶことになるので、お問い合わせしたい内容をメニューから見つけられない、どのボタンを選べばいいのかわからない、といったことも起こってしまいます」―KDDI カスタマーサービス推進統括部の中井勇気は、課題についてこう説明します。

KDDI株式会社 パーソナル事業本部 パーソナル企画統括本部 カスタマーサービス推進統括部 中井勇気

さらに間違ったボタンを選んでしまうと戻ってやり直すことになり、問題を解決するまでに時間がかかってしまうことも課題の1つでした。

お客さまの「音声」を聞き取って担当窓口につなぐ

この「自分の問い合わせがどのメニューに当てはまるのかわからない」「担当窓口にたどりつくまでに時間がかかる」という課題を解決するためにKDDIが導入したのが、お問い合わせ内容をお客さまに音声で話してもらい、窓口につなげる「音声認識IVRシステム」という仕組みです。

今回の取り組みの背景について、KDDI カスタマーサービス企画部の伊東達也はこう話します。

KDDI株式会社 パーソナル事業本部 パーソナル企画統括本部 カスタマーサービス企画部 伊東達也 

「音声でお問い合わせの用件を話していただいて、それを適切なコミュニケーターに振り分けることができれば、お客さまが何度もボタンを押すことなく、スムーズにお問い合わせができるのではないかと考えました」(伊東)

この仕組みが実現した背景には、音声認識技術の急速な進化があります。音声認識技術についてKDDIでは、2018年頃からお客さまのお問い合わせ内容を分析し、サービスの改善や品質向上に活用してきました。

「当時から認識精度を上げるためにauの各種サービス名称を音声認識システムに学習させてきたことと、自然言語の発話に対する認識精度が上がってきたことから、お客さまからのリアルタイムなお問い合わせでも、音声を認識できるのではないかと考えたのです」(伊東)

お問い合わせのストレスを軽減するために

今回の仕組みを開発するにあたって難しかったのは、いかにお客さまに「ストレスなくスムーズに音声でお問い合わせをしていただけるか」というところでした。

お問い合わせの認識精度を高めるには、普通の通話のように「もしもし」から話すのではなく、お問い合わせしたいことのキーワードをピンポイントで話していただく必要があります。

この点については、本サービスの提供前に社内で、本番とほぼ同じ環境でテストを行い、音声ガイダンスを細かくチューニングしています。

「音声ガイダンスでただ『話してください』とお伝えしても、これまでのボタン式に慣れたお客さまはとまどってしまいます。ガイダンスで発話の例をご案内することや、発話例の数が適切か、どの切り口のお問い合わせを発話例に入れるのがわかりやすいかなど試行錯誤しながら、お客さまが話しやすいと感じていただけるガイダンスを作成しました」(中井)

この音声認識機能を使ったシステムはお客さまから好評を博しているだけでなく、適切な担当者への接続率も向上し、お客さまとのコミュニケーションに使う時間が増えています。

現時点では一部のお問い合わせ項目が音声認識機能の対象となります。今後、改善を図りながら対象範囲を拡大し、お問い合わせ内容の解決にかかる時間を少しでも短くしたい。KDDIは新たな技術を使ってお客さまの満足度向上を追求します。

声でお問い合わせを受けてから迅速に回答するために—音声認識IVRシステム開発の舞台裏

お客さまが声で伝えた困りごとを、お客さまセンターのシステムがリアルタイムで聞き取り、内容を判断して担当のコミュニケーターにつなぐ—。

このお客さまからのお問い合わせを、よりスムーズに解決するための仕組み「音声認識IVRシステム」は、お客さまが話し終わってから数秒で回答することを目指して設計されました。

「実はこの数秒の間に、裏にあるさまざまなシステムの間をデータが行ったり来たりして正しい答えを返しているんです」—。こう話すのは、KDDI DXシステム2部の内部利明です。

声のお問い合わせを受けてから迅速に回答するために

声でお問い合わせをしてから返事が戻ってくるまでの数秒の間、システムが行っている作業について、内部はこう説明します。

KDDI株式会社 技術統括本部 情報システム本部 DXシステム2部 内部利明

「お客さまが声でお問い合わせをすると、まずシステム側で音声をテキストデータに変換します。次にこのテキストデータをマスクサーバに送ってお客さまの個人情報を削除し、お問い合わせの内容の判別と分類を行うシステムに送ります。ここで、『お問い合わせがどのカテゴリーに分類されるのか』という意図を分析し、解釈した上で適切なコミュニケーターつなぎます」(内部)

このプロセスを数秒で実行するためには、複数のシステムをいかにスムーズにつなぐのかがポイントだったとKDDI DXシステム2部の長谷川国広は振り返ります。

KDDI株式会社 技術統括本部 情報システム本部 DXシステム2部 長谷川国広

「この仕組みは、お客さまの音声をリアルタイムで認識する仕組みも含めて全部で5つのシステムで構成され、そこにはSaaS(インターネットを通じて利用するサービス)も含まれています。このシステムとネットワークが一気通貫でスムーズに稼働するシステムを構築する必要がありました」(長谷川)

声によるお問い合わせは話し始めるまでの時間が人それぞれであったり、想定外の発話があったりすることから、いかに「システムが理解しやすい形で話してもらうようにするか」のチューニングも重要なポイントだったと内部は話します。

「ガイダンスで『⚪︎⚪︎とお話しください』とお伝えした時に、お客さまがどのようにお話になるかはある程度、想定していたのですが、PoC(サービスの実現可能性を探る実験)で試してみると、話す前に考える時間が長い人がいたり、話がなかなか終わらない人がいたりと想定外のことも少なくなかったんです」(内部)

発話周りのパラメーターを細かく調整したり、ガイダンスに発話の例を入れたりすることで、お客さまにとって違和感のない「声のお問い合わせ」が可能になりました。

一気通貫のシステム開発を支えたチームワーク

このプロジェクトは、全体の構成企画したNRIをはじめ、音声認識、IVR、自然言語解析といった各技術を提供する複数のパートナー企業の方々と協力して進めてきました。

KDDI DXシステム2部の金本広子は、コロナ禍で対面の打ち合わせが難しい中、各社のリーダー層の方々とは毎週、オンラインミーティングを行って意識合わせをしていたと振り返ります。

KDDI株式会社 技術統括本部 情報システム本部 DXシステム2部 金本広子

「週2回、プロジェクト系と管理系のミーティングで進捗や課題を共有するとともに、実際にシステムを使うCS部門や開発部門のスタッフ、パートナー企業の方々を集めたミーティングも定期的に行っていました」(金本)

今回のシステムは、音声認識のテキスト化から顧客情報のマスク化、お問い合わせ内容の識別、コミュニケーターへの接続などを一気通貫で行う必要があったので、それぞれが担当する領域で認識のズレが起こらないよう、意識して密にコミュニケーションを図るようにしていたといいます。

「開発したものをすぐ、実際に使う部門に渡して試してもらい、そのフィードバックをもとに問題を解決していく、という形でプロジェクトを回していました。みんなが打ち合わせに参加していたからこそ、早く課題を発見でき、素早く対応できたと思っています」(金本)

その結果、社内で実利用を想定した問い合わせのテストでも、特に大きな問題が起こることなく、スムーズに本サービスに移行することができました。

新たな技術とチームワークで、お客さまの困りごとを素早く解決する。KDDIの挑戦は続きます。

最新技術でお客さまもスタッフも笑顔にする—AIで進化するお客さまセンターの未来

お客さまからのお問い合わせに、より迅速にお答えするには、どうすればいいのか。その新たな解としてKDDIが提供するのが、お客さまが「話して」困りごとを伝えられるサービスです。

既存の音声ガイダンスとキー操作によるお問い合わせの仕組みに、声を使った機能を追加するためのシステム構成を策定し、実装に向けた検証を担当したのがNRI(野村総合研究所) 通信・サービスソリューション事業本部の奥田剛士さんです。

野村総合研究所 通信・サービスソリューション事業本部 奥田剛士さん

音声によるお客さまのお問い合わせを正しく理解するために欠かせない、音声データのテキスト化と内容の認識、システム全体の精度を高めるためのチューニングなど、スムーズなお問い合わせ対応につながる仕組みづくりを手がけてきました。

「システム構築がスタートしてからは、テキスト化された問い合わせ内容の意図を解釈し、それがどのカテゴリーに分類されるかを判別してシステムに返すためのAIチャットボットの設定も担当しました」

お問い合わせ内容を正しく理解し、適切な担当者につなぐために

音声認識IVR(音声認識に対応する自動応答・案内システム)を構築する中で難しかったのは、受け取ったお問い合わせが実際の内容とは異なるところに分類されないよう調整することだったと奥田さんは振り返ります。

この領域ではAIチャットボットを使って振り分けを行っていますが、当初は意図しないところに振り分けられてしまうこともあったといいます。

「KDDIのCS部門から『このような意図で分類したい』という文例を400件くらいいただいたのですが、AIチャットボットベンダーが推奨するチューニングをしてもうまく振り分けられないことがありました」

そこで、「なぜ、AIが異なるお問い合わせを似ていると判断するのか」を探るために、さまざまなパターンの問い合わせをAIチャットボットに投げて試しながら細かいチューニングを重ねました。

「『au PAYカードの使い方を知りたい』というお問い合わせが『au PAYカードを解約したい』というところに振り分けられてしまうようなこともありました。これは冒頭の『au PAYカード』を特徴として判別するために同じ分類にまとめられていました」

そこで、お問い合わせのどこに特徴を持たせるかを工夫しながらチューニングを重ね、最終的には高い精度での振り分けが可能になりました。

AI時代のお客さまセンターの姿

AIや人工知能、音声認識が急速に進化する中、コンタクトセンターも進化し、効率化が進むと奥田さんは予測します。

「昨今、問いかけに対して自動でコンテンツを返してくれる生成系AIが注目されていますが、ここに音声認識技術を絡めると、お客さまサービスの中で現在、人がコミュニケーションしているところの多くの部分を自動化できると思っています」

また、お問い合わせ対応後にコミュニケーターが行っている顧客対応履歴の登録なども、音声認識でテキスト化し、AIで解釈してレポートを自動で生成できれば、その時間をお客さまのサポートに当てられると話します。

「技術による自動化と、人だからこそできるおもてなしの両立で、お客さまサポートはまだまだ進化すると考えています」

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