親子が安心して暮らせるまちに。官民共創のまちづくり―東京都品川区の児童見守りケータイ「まもるっち」

東京都品川区では、地域で児童を見守り、万が一の場合は児童を保護する児童見守りシステム(まもるっち)を運用しています。品川区在住の小学生に児童見守りケータイ「まもるっち」を無償で配布し、児童が困ったときにはまもるっちのブザーを引くと、品川区役所に設置されている「まもるっちセンター」と通話ができるシステムです。
まもるっちセンターにはオペレータが待機しており、児童の話を聞いて状況を確認したり、必要に応じて保護者や学校に連絡を行い適切な対応を行います。

児童見守りシステム(まもるっち) 画像提供:品川区

KDDIは児童見守りシステム(まもるっち)に2012年から携わり、端末とシステムの開発・運用を担当しています。まもるっちは、KDDIのキッズ向け携帯「mamorino(マモリーノ)」をベースに独自開発し、現在約1万9000台を提供しています。

児童見守りケータイ「まもるっち」

品川区の児童達や保護者、地域の人々が安全・安心に暮らせるまちづくりのために、KDDIと品川区が行っている取り組みをご紹介します。

子どもたちの心のケアも兼ね備えたサポート体制―KDDIの思い

KDDIは、品川区の児童見守りシステム(まもるっち)において、2012年から「まもるっち」端末の提供、GPSによる位置情報の把握などを行うシステムの開発、児童の安全を見守るまもるっちセンターの運営を支援しています。端末はKDDIのキッズ向けケータイ「mamorino(マモリ―ノ)」をベースに品川区の仕様に沿い独自開発しました。

品川区を担当するKDDI 官公庁営業部 山本 純は、品川区で見かける子ども達がまもるっちを下げて歩いているのをよく見かけており、日頃からその重要性を感じていたと言います。

KDDI ソリューション事業本部 ビジネスデザイン本部 官公庁営業部 地域共創営業1グループ 山本 純

「品川区を歩いていると、小学生はみんなまもるっちを下げています。SNS上でも、”まもるっちを持たせているだけで安心する”というご意見が多く、ブザーを引くだけでオペレータと話せることが安心感に繋がっているのだと思います。品川区の担当者と話をするときも、自治体として子どもを見守っていく姿勢を会話の節々から感じます」

まもるっちは防犯ブザーを引くだけでオペレータと会話ができます。内容に応じて、保護者や学校の先生、区が募集した協力者、生活安全サポート隊、警察に連絡が行きます。

「保護者の方だけでなく地元の商店街の方も協力者として参加するなど、区の一体感をとても感じています。我々もそのお手伝いができていることを嬉しく思います」

KDDIが提供する有料オプションを保護者の方が契約すると、あらかじめ登録した相手との通話やショートメッセージ、保護者への電池残量の通知機能などを利用できるようになります。年々、この有料オプションの加入率も伸びてきています。

「おそらく保護者の方々の口コミで評判が広がり、加入者が増えているのだと思います。また、経済的な面でもお得なプランでご提供しているため、高評価をいただいているのだと思います。品川区は子育て政策に力を入れているで、働くママ・パパからのニーズの高まりも影響しているかもしれません」

児童の悩みや心の問題もサポート

まもるっちは防犯を主体としたシステムです。とはいえ、保護者から虐待を受けている、いじめにあっているなどの心の問題を抱えている子どもの相談も受けることがあります。そこで5年前、まもるっちのメニューに区の学校支援チーム「HEARTS(ハーツ)」と通話できる機能を導入しました。

「まもるっちの主旨とは異なる相談にはなるため、別の機能として用意しました。防犯と心の問題の両方に貢献できるサービスは他にないのではないかと思います」

山本は「うちの区でも導入してほしい」という声をSNSで見かけると話します。

「実際に他の自治体からも興味を持ってお声がけいただいております。児童と保護者が安全・安心に暮らせる街を自治体・住民の方々と一緒に創っていきたいと思いますので、しっかりと訴求して、他の自治体にも広げていけたらと思います。今後もKDDIのプロジェクトメンバー一体となって、自治体や住民の方のご要望に応えていきたいと思います」

児童見守りシステム(まもるっち)で子育てしやすいまちづくりを実現―品川区の思い

品川区の児童見守りシステム(まもるっち)の事業が開始されたのは、平成17年度(2005年)。それ以前から世間では子どもに対する犯罪が増えており、子どもの安全・安心を確保することが課題となっていました。

「子どもが助けを求められる子ども110番の家などの地域ボランティア活動はすでに動いていたのですが、もう一歩踏み込んで何かできないかと検討したときに、GPSを使って子どもを見守るという案が出たと聞いています」と話すのは、品川区地域振興部生活安全担当課長 河合伸彦さんです。

品川区地域振興部生活安全担当課長 河合伸彦さん

まもるっちは端末上部にある防犯ブザーを引いて、連絡を行います。どんな些細なことでも怖かったり不安になった時には、ブザーを引けばオペレータに話を聞いてもらえます。オペレータは月曜日から土曜日(日・祝日除く)の朝7時半から夜8時まで常時複数名が待機しています。

まもるっちセンターには1日300件もの連絡が来ますが、オペレータが優しく適切に対応をしています。誤ってブザーを引いてしまった時でも、名前と状況を必ず確認し、異常がないことを記録します。

通報のほとんどの場合は誤報や子どもたち同士のトラブル等なのですが、子どもが危険な目にあったときの体制もしっかりと整えられています。

「子どもの安全確保で大切なことは、迅速で正確な事実確認です。保護者や学校の先生には、業務中などで直接対応することが難しい時間帯があります。そこで区が主導して、まもるっちセンターで連絡を受けて事実確認をし、子どもの安全確保にすぐ動けるようにしました。元警察官で構成されている生活安全サポート隊も常勤しており、必要に応じて警察との連携も行います。その際にはGPS情報などを警察に共有します」(河合さん)

セーフティ教室やパンフレットで子どもたちが安心してブザーを引けるように啓発

品川区では子どもの安全を守るための「セーフティ教室」が警察の主導のもとに定期的に開催されています。区もまもるっちの使い方を啓発する機会として参画しています。実際にまもるっちのブザーを引き、オペレータに繋がる様子を見せることで、子どもたちが安心して相談できるようになります。

品川区地域振興部地域活動課生活安全担当 杉村佳音さんは、まもるっちの初代利用者でもありました。

「私が小学生のときに初めてまもるっちが配布され、実際に使っていました。当時から誰かに守られているという安心感がありました。自分も利用者だったので、児童と保護者の気持ちに寄り添って安全・安心なまちを作っていきたいと考えています。ブザーを引くことに抵抗があるお子さんもいると思うのですが、怖いと思ったら迷わずに引いてほしいと伝えています」(杉村さん)

品川区地域振興部地域活動課生活安全担当 杉村佳音さん

品川区は現在、児童見守りシステム(まもるっち)のDX推進にも積極的に取り組んでいます。

「まもるっちにおける各種届出をオンライン化し、いつでもどこでも保護者の方が利用しやすい環境づくりを整備していきたいと考えています」(杉村さん)

森澤恭子品川区長が掲げる品川区の重点施策の一つに、「一人ひとりをささえ、伸ばす 子育て・教育で選ばれる しながわ」があります。地域と行政が力を合わせて、子どもの安全・安心の確保とともに、保護者の方が安心して仕事に集中できるような子育て支援を行っていくとのこと。KDDIも品川区とともに児童が安全・安心に暮らせるまちづくりの実現に尽力していきます。

児童の見守りに特化したまもるっちの機能―KDDIの技術

KDDIのキッズ向けケータイ「mamorino(マモリーノ)」をカスタマイズした「まもるっち」は、防犯ブザーを引くだけでオペレーターと会話ができる端末です。手軽に連絡ができる一方で、誤報が多くなるという側面もあります。

「誤報が多くなると、本当に困っている人がオペレーターに繋がらない可能性が出てきます。でもブザーを抜きづらくしてしまうと、防犯の意味がなくなります。そこでまもるっちは、ブザーを抜いて3秒以内に戻せばオペレーターに繋がらないようにするなど、今まで複数のカスタマイズを行ってきました」

KDDIソリューション事業本部 ソリューション推進本部 官公庁ソリューション部 5グループ 桑名峻也

まもるっちは、品川区の「遊びを提供するものではなく、あくまで安全を見守る端末としたい」という想いを実現するため、mamorinoから必要最低限の機能に絞るようにカスタマイズしています。

システム開発はDXについてもご提案

まもるっち端末の開発だけでなく、ブザーが引かれたときに子どもの位置情報をGPSで測位してオペレーターの端末に表示するといったシステムの開発もKDDIが請け負っています。システムのレスポンスの速度や使い勝手をオペレーターからヒアリングし、改善を進めています。

また2024年度から運用開始予定の次期児童見守りシステムにおいては、故障時に代替端末の手配・申し込みが行えるウェブサイトを構築するなど、保護者の方が利用しやすい環境づくりをDXで推進していく予定です。

プロジェクト全体のマネジメントは官公庁ソリューション部が行っていますが、システム開発に関しては、DX推進本部のシステム開発部、まもるっちセンターのオペレーターに関しては、KDDIエボルバが運営するなど、KDDIグループの様々な技術を結集し、品川区の目指す児童見守りシステムを実現しています。

「それぞれの担当者たちからは専門的なサポートをしてもらうだけでなく、一人の保護者としての目線でアイデアをもらうこともあります。また児童見守りシステムにおいては、直接児童と接するまもるっちセンターのオペレーターだけではなく、保護者への端末操作サポートや故障時の端末手配などのサポート業務を行うオペレーターもいます。関係部署が非常に多いため、調整事項も多くなり、とても大変ではありますが、児童の安全を確保するという目標に向かって全員が力を合わせて進めることができているので、関係者の方々にはとても感謝しています」

KDDIが持つ技術力を活かして発展させていきたい

児童の見守りという大事な事業を10年継続して受託できていることに「やりがいを感じる」と桑名は話します。

「品川区にシステムを提供して10年がたち、数々のアップデートを重ねてきていますが、位置情報データの活用や教育分野との連携など、KDDIグループがもつ様々な技術やアイデアを組み合わせることで、さらなる児童の安全確保や付加価値の提供を行うことができるのではと考えています。また、児童見守りシステムは他の自治体からも興味を持っていただいているので、今まで培ってきた経験を活かして、各自治体に適したご提案をしていきたいと考えています」

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