行政DXを加速させるために。DX人材を増やし組織全体へ広げてゆく。

東京都の面積の35%を占め、約1400万都民のうちの423万人が暮らす「東京都多摩地域」。この多摩26市の市長が任意で組織する団体である「東京都市長会」は、各市が連絡協調を行い、各市の行政の円滑な運営・向上を目指しつつ、地方自治の発展につなげることを目的に設立されました。

巨大な人口と経済規模をもつ東京都多摩地域ですが、全国の他の自治体と同様に人口減少社会を見据えており、「市民の利便性向上」と「市役所の業務効率化」が喫緊の課題となっています。デジタル技術の活用による社会変革は、これらの課題解決の決め手として期待されるものの、それを担う人材の確保や育成は簡単ではありません。

東京都市長会では、市民の生活をより豊かにするべく「多摩地域における行政のデジタル化」を掲げ、令和3年度(2021年)から行政手続きのデジタル化の促進や、職員が各立場でデジタル変革(以下DX)関連知識を習得すること、BPR(業務プロセス改革)*1のノウハウなどの支援に取り組んできました。KDDIは、東京都市長会や参加する多摩地域自治体のパートナーとして、この事業にさまざまな面で協力しています。

令和4年度には、本事業の一環として、八王子市「学童クラブ」(放課後の学童保育所)入所申請のオンライン化を行いました。この取り組みは、所管課の職員主導でのBPR実施というプロジェクトであったことに加え、申請件数2,200件以上(全申請件数の約35%) 、満足度4.4(5点満点)という具体的な成果を挙げています。 まさに行政DXにおける1つの成功モデルと言えるでしょう。

行政DXに対するKDDIの思いと、八王子市における取り組みの軌跡をご紹介します。

*1BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング):現在の業務プロセスを詳細に調査・分解し、どのような問題点があるかを徹底的に分析したのち、業務プロセスそのものの再構築を図ること

KDDIの持つ強みと自治体での経験を活かし、地域へ“新しい風”を

人口減少局面に入った日本では、人手に頼った従来の仕事の進め方が難しくなりつつあります。自治体職員の人数が限られる中で、現状のサービスを維持し、かつ市民サービスの質を向上するには、業務改善の継続が必要です。

自治体職員のモチベーションについても「より良い市民サービスを実現したい」「市民としっかり向き合いたい」といった、職員が志を維持できる環境が大切です。より良いまちづくりを実現するためにも、既存業務の効率が必要であり、行政DXに向けた取り組みは「待ったなし」の状況にあります。

「現状の業務も、手順や手法を見直し無駄を発見することで生産性の向上につなげることができます。そのために、As-Is(現状)の業務フローを起点とし、問題、原因、施策検討を実施するBPR(業務プロセス改革)が求められています」と話すのは、KDDI経営戦略本部 地域共創推進部 事業推進グループの利岡寛也です。

実は利岡は、元県庁職員という経歴の持ち主です。行政職員が抱える特有の事情や行政組織が持つ構造的な問題を熟知する地域共創のエキスパートと言えます。

「かつての県庁職員としての経験から、さまざまな業務を抱える職員の課題を解決するには、内部の取り組みだけでなく、“外部から変えるチカラと視点(外のモノサシ)”の支援が必要だと考え、働く場をKDDIへと移しました。自治体の事情や職員が抱える課題やジレンマを理解できる伴走者として、志のある行政職員に寄り添い、課題を一緒に解きほぐしながら、DXを推進するプロジェクトに携わりたい」と話します。

行政DXの主体は、あくまで行政の職員の方々です。KDDIは、各種ソリューションや幅広いパートナリング、組織と個人が積み重ねた経験といった強みを活かすことで、地域や自治体へ“新しい風”を吹き込むお手伝いしたいと考えています。

KDDI経営戦略本部 地域共創推進部 事業推進グループ チームリーダー 利岡寛也

行政DXの“きっかけ”を作り、成果創出まで伴走

KDDIは東京都市長会が令和3年度(2021年度)から実施している「多摩地域における行政のデジタル化」事業にて、職員へのDX教育やBPRを通じたDXツールの導入を支援しています。代表的な事例として、令和4年度(2022年度)に「妊娠の届出・妊婦面談のオンライン化」と「学童クラブ入所申請のオンライン化」について、複数自治体にてBPRを通じたDXツールの導入を実現しました。

「目的は市民の利便性向上と職員の業務効率化の両立です。KDDIでは職員の皆さまと対話しながら、As-Is(現状)とTo-Be(あるべき姿)を具体化し、さらにCan-Be(現実的な解)を一緒に求めていきます。これによって『省略可能な業務』や、『デジタル化またはオンライン化で効果を生む業務』などを、目的につながる形へ落とし込んでいきます。さらに、KDDIでは一歩進んで具体的なソリューションを活用した成果創出まで伴走しています」(利岡)

今後の取り組みとしては、得られたノウハウと成功モデルを他自治体へ横展開することや、さらなる成功事例創出に向け、市役所の窓口DX(窓口業務のワンスオンリー化)の実証実験を進めていく予定です。また、成功事例創出や事例の横展開を持続的な活動にするためにも、KDDIの新規ビジネスとして確立させることを目指しています。

「KDDIは、引き続き東京都市長会のパートナーとして、多摩地域における行政のデジタル化推進のお手伝いしていきたいと考えています。また、外のモノサシとして、自治体の職員の皆さまがDXを推進する“きっかけ”を作ることができたら、これ以上にうれしいことはありません」(利岡)

学童クラブの入所申請のBPRとDXを実施

東京都市長会では、令和3年度(2021年)から5カ年計画で多摩地域における行政のデジタル化を推進し、「市民の利便性向上」と「市役所の業務効率化」に取り組んでいます。その具体的な取り組みとして令和3、4年度に実施した事業が「行政手続きのオンライン化」です。

東京都市長会事務局 企画政策室 主査の川田剛士さんは、次のように話します。

「私は市役所からの派遣ですが、市役所勤務の頃は業務課題をなんとか解決したいと考えても、日々の業務の中ではデジタル技術に関する学びを深める時間の確保が難しいのが実情でした。東京都市長会のDX担当となり、行政DXの取り組みを間近で見たことで、ようやく行政の業務とデジタルがどう結びつくのか、はっきりと理解できるようになり、各自治体の皆さまとDXを通じて多摩地域をより良くしていきたいという気持ちが高まりました」
その具体例の1つで、すでに大きな成果をあげているのが、令和4年度に実施した八王子市の「学童クラブ(放課後の学童保育)の入所申請オンライン化」のためのBPRです。

八王子市教育委員会 生涯学習スポーツ部 放課後児童支援課 主査の小濱英明さんと、八王子市 デジタル推進室 主任の大谷勇介さんは、この取り組みの主担当としてプロジェクト発足当時の課題をこう振り返ります。

「学童クラブを利用するのは、共働きなどで平日は留守にされているご家庭です。一方で市役所の開庁時間は基本的に平日の昼間。学童クラブは保護者の就労支援を役割の1つとしていながら、利用(入所)を申し込むには仕事を休まなければならず、兄弟姉妹がいる場合には同じ書類を複数枚書く必要があるなど、制度上の不便さを抱えていました。サービス品質水準を落とさず、24時間受付可能な新しい仕組みを実現したいと考えていたのです」(小濱さん)

「デジタル推進室は、各所管課のデジタルツール活用のサポートや市民の利便性向上を推進する部署です。八王子市のデジタル化を進めるとともに、伴走型支援として何ができるかを模索するため、このプロジェクトに参加しました」 (大谷さん)

八王子市教育委員会 生涯学習スポーツ部 放課後児童支援課 主査 小濱英明さん

学童クラブの全申請数のうち約35%がオンライン申請を利用

小濱さんと大谷さんは、以前同じ部署にいたこともあり旧知の間柄でした。その二人が中心となり、学童クラブ入所申請のオンライン化が進められることになりました。

「デジタル推進室は、二人三脚のように寄り添って伴走するイメージで、放課後児童支援課が主管するこのプロジェクトをサポートしました。両部署が上手く役割分担や連携ができたことが結果的に成功に寄与したと考えています」(大谷さん)

KDDIも初期段階からプロジェクトに参加し、外部の視点からさまざまな意見を交換しました。

八王子市 デジタル推進室 主任 大谷勇介さん

今回のプロジェクトでポイントになったのは、申請フォームの利用マニュアルを充実させたことです。オンライン申請は閉庁時間帯に利用される想定であるため、申請者が操作に迷わず、不明点があっても自己解決できるようにするためです。

「文字での説明は最小限にし、視覚的なわかりやすさを重視しました。また、申請フォームの項目を精査して最小限の入力ですむようにしたり、兄弟姉妹がいる場合の申請では既に入力した内容を再利用できるようにするなど、使いやすさを工夫することが利用率の向上につながりました」

結果として、学童クラブの全申請数のうち約35%以上がオンライン申請を利用し、満足度4.4(5点満点)という具体的な成果を挙げました。また庁内報でも紹介され、さまざまな部署から問い合わせがあったといいます。

DX経験のある人が各課に分散することで全体を底上げ

小濱さんは、自治体におけるDXの取り組み方について、次のように話します。

「DXの取り組みでは、利用ツールについてシステムベンダーの説明や指導を受けつつも、職員自らが『こうすれば自分たちの手で実現できる』という実践経験を積んでいくことが大切だと思います。しかもDXのスキルは、異動先の部署でも活かすことができます」

一般的に、自治体職員の異動は“転職”のようなもので、1からのスタートになりがちだと言われていますが、DXやデジタルツールの経験に関しては、一度得た実践的な知識やスキルを異動先の部署で活かせるのです。

大谷さんも、「DXを進めていくには、行政業務を改革した事例を庁内で増やすと同時に、デジタルツールを使いこなす人財を育成していくことが大切だと思います。DXを経験した人財が市役所の各課に分散して所属することで、市役所全体のDXへの機運を高めていくことができるのではないでしょうか」と、DX経験者が市役所内に広がることが大切だと話します。

また、川田さんが所属する東京都市長会へは、多摩地域のデジタル化の推進について、今後に大きな期待が寄せられています。

「東京都市長会で共有された課題を討議し、解決方法や改善策の実証を経て成功事例を多摩地域で展開するのが私たちの役割です。人材育成とDXの同時進行による好循環を実現するべく、東京都市長会は多摩地域の自治体のニーズを踏まえた支援を行っていきたいと考えています。DXに関してさまざまな知見を持つKDDIのサポートに期待しています」(川田さん)

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