時代が進化していても、子育てには手が掛かるもの。外出の際には子どもの食事や飲み物、着替えなどを持ち運び、さらに買い物した荷物が増えることもあります。ベビーカーで外出すると狭い場所や階段では利用しづらいことが多く、混雑する公共交通機関を避ける人も少なくありません。
子育て世代が気軽に外出できる社会の実現を目指し、KDDIとジェイアール東日本企画は、ベビーカーを必要なときに手軽にレンタルできるサービス「ベビカル」をご提供しています。
サービス実現のために、ベビーカーを管理するIoT端末の開発から、ネットワークの構築、利用者認証、予約承認、クレジットカード決済、お客様が利用するウェブサイトの仕組みづくりまで、シームレスなユーザー体験を目指して開発を進めたベビカル。その誕生の根底に、じつは「ママの思い」がありました。開発に込められた、発想と技術をご紹介します。
事前予約可能で持ち出しできる、ベビーカーレンタルサービスを
「新規事業の企画を考えているとき、子育て中の妻がベビーカーのレンタルサービスが必要だと訴えてきたんです」
そう楽しげに語るのは、株式会社ジェイアール東日本企画jeki-X 部長 森 祐介さんです。
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「子育て世帯は外出に多くの課題を抱えています。荷物が重かったり、エレベーターを探すのが大変だったり、身軽にお出かけしようと思っても途中で子供が寝てしまったり。商業施設でベビーカーを借りても、移動時には返さなければいけません。そこで、外出先で借りて、返すことが出来るベビーカーレンタルサービスが求められているのではと考えました」
森さんが企画を提出したJR東日本の新事業創造プログラム「ON1000 (オンセン) 」には1051件の応募があり、その中から3件が採択されました。そのひとつが駅を中心とした貸出箇所でベビーカーをレンタルできるサービス「ベビカル」です。
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ベビカルの特徴は、当日を含む14日前から予約ができ、施設の外でも利用できるところです。長期レンタルサービスのような煩わしい手続きはなく、基本的には外出先で受け取って、元の場所に返却するだけです。貸出期間も1時間から最長7日間まで可能なため、外出から旅行までカバーできます。
ベビカルは2019年度中に実証実験をして事業化する計画でしたが、コロナ禍で一時中断を余儀なくされました。2021年4月のサービス開始に向けてスピード感を持って実現する必要があり、流用できるシステムを数多く持っていたKDDIとの協業が決まりました。

通信回線からデバイス、ソフトウェアまで一括で提供可能
KDDI ソリューション事業本部 ビジネスデザイン本部IoT営業推進部の原は、学生時代から女性に関する社会問題に関心があり、テクノロジーで課題を解決したいとの思いがありました。
「ベビカルの事業計画を聞いたとき、ぜひ協業したいと思いました。女性だからこそ、保育関連の課題を身近に感じているのかもしれません。KDDIは通信事業者なので、回線の提供から係留ポートの開発、クラウド、アプリ構築まで、すべてご提供できます。ベビカルの取り組みは特にKDDIの強みを発揮していると思います」
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ベビカルのサービス実施までは何度もJR東日本グループとの話し合いやすり合わせを行いましたが、既存のシステムを組み合わせて構築したため、実質5か月という異例のスピードでのローンチを実現。現在ではJRの駅以外に、地下鉄や商業スポット、観光地など加盟店が全国に広がり、インバウンド需要にも応えるサービスになっています。
「サービスを開始してみると、お子さんの通院などにもよく利用されていることがわかりました。行楽でのご利用だけでなく、公共サービスとして無くてはならないお客さまもいらっしゃいます。今後はエリアマネジメントへの取組みや企業、自治体、観光協会との連携も行っていく予定です。誰もが移動をためらわないUniversal MaaS(ユニバーサル・マース)の実現を目指して行きます」(森さん)
社内のノウハウやパートナー企業の技術をフル活用
ベビーカーレンタルサービス「ベビカル」は、事前に予約が可能なサービスです。お客様は専用ウェブサイトで会員登録を行い、日時や場所を選択して予約します。予約画面の二次元コードをベビーカーの係留ポートにかざし、表示灯が点滅している場所にあるICキーを引き抜くとベビーカーが取り出せます。決済にはクレジットカードを利用します。無人の係留ポートだけではなく、有人の貸し出しスポットも提供しています。
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KDDIはこの仕組みを一括して請け負い、実質5か月間でサービスを提供、2021年4月のサービス開始に間に合わせました。係留ポートのデバイス開発、そして「会員登録」「予約・認証」「開錠」「決済」のシステム開発を迅速に進められた理由を、KDDI株式会社 ソリューション事業本部 DX推進本部DX・IoTソリューション部 國吉はこう説明します。
「以前からJR東日本様に対する他案件で同様な機能を有するシステムを提供しており、そちらで培ったノウハウを流用できました。ベビーカーを管理するICキーに関しては、我々のパートナー企業が持っていたカギ管理システムの技術を転用しています。ベビカルのために多岐にわたるカスタマイズは必要ですが、これらのノウハウを活かしスピード感を持ってご提供できました」
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ベビーカーに紐づくICキーが返却されなければ追加料金がかかるシステムにしたため、ベビーカーが確実に返却される仕組みを実現できました。また、ハードウェアに関してもKDDIの強みが活かされています。
「デバイスにモバイル通信端末をつけて、ネットワーク経由でサーバーにデータを上げる仕組みは他にも数多く開発しています。今回の係留ポートのデバイス開発に関しても、短時間で我々の要求に対応できるものを開発・製造できるパートナー企業と製作しました。ベンダーフリーであることは、KDDIの強みです」
ベビーカーだけでなく、最寄りで使える様々なサービスへ。
サービス開始後もお客様からのご要望にそって改善を続け、現在では満足の声をたくさんいただいています。
「今回は子育て世代のためのベビーカーを開発しましたが、今後少子高齢化が進むとシニアの方が増え、レンタル車椅子の需要も高まると思います。通信業界では最寄り局から家までをラストワンマイルというのですが、ベビカルや車椅子などの最寄り駅から会場・施設間で使えるサービスに我々のプラットフォームを利用していければ、可能性は無限大だと考えています」
DX・IoTへの発展を目指して、新たなチャレンジも視野に
また、今後の展望として、DX・IoTのDXの部分に関しても取り組みたいと國吉は語ります。「サーバーに集めたデータを分析してマーケティングや利便性の向上に繋がるようなサイクルが作れると、DX・IoTの実現になります。ベビカルに関しても、今後はDXの部分に取り組んでいきたいと考えています」
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