地域の個性を生かしながら地域の社会課題を解決し、どこでも誰でも便利で快適に暮らせる社会にしたい。そう考えているKDDIでは、通信を軸としたデジタル技術を活用し、さまざまな地方自治体さまとともに地域の社会課題解決に取り組んでいます。
その一例が、研究学園都市として知られる茨城県つくば市との取り組みです。つくば市では内閣府の「スーパーシティ型国家戦略特別区域」に指定され、先端技術とサービスを社会実装することで、住民の多様な幸せをもたらす「つくばスーパーサイエンスシティ構想」の実現を目指しています。
KDDIは、都市と郊外の二極化の是正につながる「ドローンによる検体輸送」「ドローンや自動配送ロボットによるフードデリバリー」、住民の皆さまと先端技術とをつなぎ、理解を深めていただくための「ドローンの飛行経路(空の道)可視化」「XRを用いた都市連動型空間メディアの構築」「Web3.0教育プログラム」をテーマに調査事業に取り組みました。デジタルの力で地方を活性化し、地域格差を感じさせない社会をつくるために、KDDIは全力を尽くします。
.jpg)
かざすとスマートフォンの画面にドローンの飛行経路が表示される。
地域が抱えているさまざまな課題を解決したい
茨城県つくば市は2022年3月に内閣府から「スーパーシティ型国家戦略特別区域」に指定されました。これを受け内閣府が公募した「先端的サービスの開発・構築等に関する調査事業」にKDDIの提案が採択され、つくば市の協力の下でさまざまな実証実験を行っています。
「つくば市とは、2019年から『つくばスマートシティ協議会』に参画し、『つくば医療MaaS*1』の実証実験などを行い、同市におけるモビリティ分野を主軸とした取り組みを推進させて頂いておりました。今回、つくば市がスーパーシティ型国家戦略特別区域に指定されたことをきっかけに、モビリティ分野に問わず、当社が有するあらゆる先端的技術を用いて、つくば市の課題解決に取り組みたいと考えました」と話すのは、KDDI株式会社 事業創造本部 LX戦略部の杉本憲昭です。
*1 MaaS(Mobility as a Service):さまざまな公共交通機関をITでシームレスにつなぎ、人々が便利で効率よく使えるようにするシステム
.jpg)
「KDDIは通信という軸を持ちながら、多種多様な分野の先端的テクノロジーを有しています。加えて、スタートアップを始めとした多くのパートナー企業が持つ先端的テクノロジーを組み合わせることで、つくば市に限らず地域が抱えるさまざまな課題を解決することができる。日頃よりそんなこと考えながら、業務に取り組んでまいりました」
そうした杉本が、自身の主業務であるモビリティ分野問わず、KDDIが有する先端的テクノロジーを用いて提案できることはないかと社内を奔走し、調査事業として提案。採択されたのが、「ドローンによる検体輸送」「ドローンや自動配送ロボットによるフードデリバリー」「ドローンの飛行経路(空の道)可視化」「XRを用いた都市連動型空間メディアの構築」「Web3.0教育プログラム」の調査事業です。こうした幅広い事業を提案し、採択に至るまでのプロセスの中で杉本自身「KDDI社内やパートナー企業に、通信のみでなく、非通信の分野においても心強い多様なプロフェッショナルが存在することを改めて強く認識できました」と話します。
実証実験だけで終わらせず社会実装につなげる
KDDIの事業において「地域共創」は中期経営計戦略においても注力領域とする重要なテーマです。地域の個性を生かしながら、それぞれ異なるさまざまな課題に向き合い、格差を解消するための取り組みを自治体の皆さまと向き合いながら推進しています。
今回のような実証実験や調査事業を一過性の取り組みに終わらせず、社会実装につなげ、その地域で持続可能なモデルとして成立できるようにすることが、KDDIがめざす地域共創の姿です。
「つくば市を始めとした地域が抱える課題の解決につながる、当社ならではの先端性のある提案を引き続き行い、その地域の方々が豊かに、そして安心して暮らせる社会の実現につながる先端的サービスの実装に携わっていきたいと考えております。そのためには実際にどういった課題を抱えているか、それらを解決する新しい技術やサービスをどう受け入れていただけるか、という点を常に対話しながら、みなさまと共に実行に移していくことが、未来に向けたステップとして肝要だと強く感じています」
都市と住民をつなぐ都市型連動空間メディア
今回の実証実験は、物流領域とデジタル領域の大きく2つに分かれています。このうちデジタル領域では、「ドローンの飛行経路(空の道)の可視化」「XRを用いた都市連動型空間メディアの構築」「Web3.0教育プログラム」をテーマに調査事業を行いました。
「XRを用いた都市連動型空間メディアの構築」では、つくばセンター広場に50年後のつくば市をイメージしたARコンテンツを設置。スマートフォンをかざすと、その様子が見られるようにしました。
「都市のパブリックスペースにXR技術を使ってコンテンツを配置できるようにすることで、その場所の価値が高まるとともに、都市と住民の生活がつながっていくのに役立つと考えています。物理的な制限がない仮想的なレイヤーを実空間に重ね合わせるので、自治体や企業だけでなく、一般の市民が利用してもいいわけです。例えば、筑波大学には芸術系の学群もありますので、街中の空間を使ってXRのパブリックアートを作品づくりしてもいい。こうしたことが街の活性化にもつながればいいと思います。今回の実証では、スーパーシティでのパブリックスペースの新たな活用によりどういった課題が発生しうるのか、今後どのようなルールが必要となるのかなどの論点も整理しています」と話すのは、KDDI株式会社 事業創造本部Web3推進部の川本大功です。
.jpg)
「Web3.0教育プログラム」は、筑波大学と共同で行われたものです。Web3.0とは、ブロックチェーン技術を生かした分散型のインターネットサービスのことで、インターネットの新たなかたちとしていま注目を集めています。
「先に触れた空間メディアとXRを利用した作品も、ブロックチェーンの技術を使うことで、展示した作品にNFTを付与し販売を行う、二次流通させるといったことができるようになります。私は、市民が新しいテクノロジーを使い、自らの手で都市をハックすることが都市の活性化につながると考えています。そのテクノロジーを理解し、使いこなしてもらうためのサポートをしたいという思いから行っているのが『Web3.0教育プログラム』です」
ドローンの飛行経路(空の道)の可視化
XR技術は、物流領域で実証している「ドローンによるPCR検体の輸送」でも活用されています。
「モノを運搬するドローンはサイズも音も大きく、住民の皆さまからするとドローンが自分の上を飛んでいたら、とても怖い存在だと感じてしまうこともあると思います。街中でドローンが飛んでいても、どんな目的で飛んでいて、どこからどこへ飛んでいくのかも分かりません。そこでXR技術を使って、スマートフォンをかざすことでドローンの飛行ルートを実空間に重ね合わせ、視覚的にわかるように空路を可視化しました。 “空の道”を可視化することで、ドローンの自動運転に対する住民の皆さまの安心感を高め、理解を深めてもらうことが大切だと考えています」
.jpg)
今回はドローンの実際の運行計画と連携してコンテンツが設計されている点が大きなポイントになっています。また、航路だけではなく、ドローン飛行時をお知らせする仕組みも搭載しました。
「具体的には、ドローンの通過時には標識が赤色に変わり注意を促します。ただ、ドローンの運航計画は当日の天候や条件によってコースなどが変更されることもありえるため、今後はそうした場合でもすぐにコンテンツに反映できるようにしたいと考えています。今回の実証実験から改めて街中で活用いただくために必要な着眼点を得ることで、社会実装に近づけていきたいと思っています」
技術はもちろんのこと、市民の皆さんが先端技術を自然に受け入れ、その恩恵を享受できる仕組みを考えていくことも、KDDIの大きな役割です。
都市と郊外の二極化を解決したい
1960年代から筑波研究学園都市として開発が進み、1987年に3町1村が合併して誕生した茨城県つくば市。筑波大学やJAXA(宇宙航空研究開発機構)といった国の研究・教育機関をはじめ、多数の民間の研究機関・企業等が立地し、2万人に迫る研究者を有する日本最大の研究学園都市です。
つくば市 政策イノベーション部 スマートシティ戦略課の中山秀之さんが、つくば市の課題について次のように話します。
.jpg)
「1つは、つくば市の住民の方々と、研究学園都市として有している科学技術とが結びついていないということです。多くの研究機関が設置されていますが、学生や研究者以外の一般市民には、 “地場産業”とも言える科学技術による恩恵があまりありませんでした。
そしてもう1つの課題が、公共交通機関が充実しておらず都市と郊外の二極化が起きていることです。茨城県は北海道に次いで道路の延長距離が長く、なかでもつくば市は茨城県で最も長く、完全な車社会になっています」
「2005年につくばエクスプレスが敷設されてからは沿線の各駅周辺の都市化が進み、商業施設も充実して、若年層の市民が増加しました。一方で、古くから郊外地域に住む市民にとっては、買い物も病院も自動車で移動しなければならないという不便さがあります。今後、高齢化が進むにつれて、免許の返納で自動車が運転できなくなる人が増えるのも懸念されます。こうした課題を解決するために最先端のテクノロジーを活用するにしても、まずは住民の方々の理解がないとなかなか進められません」
そのほか、外国人の住民が増えていることや、60年前からの都市建設によりインフラが老朽化していることなども課題に挙げられていると中山さんは話します。
すべてを相談できるパートナーとしてKDDIに期待
先述した2つの課題を含め多様な都市の課題を解決すべく、つくば市が策定したのが「つくばスーパーサイエンスシティ構想」です。これは、つくば市にある大学や研究機関が有するテクノロジーを活用し、住民も一緒になって地域の課題解決を目指しながら未来感のある街づくりを行うというもので、行政、移動、物流、医療・介護、防犯・防災・インフラの5つの領域で先端サービスを実装を目指しています。この構想により、つくば市は内閣府の「スーパーシティ型国家戦略特別区域」に指定されました。
つくばスーパーサイエンスシティ構想によってめざす社会
① 移動の自由と健康な自立を人々へ提供し、安心して暮らせるために都市と郊外の二極化を是正する。
② 人生の各段階を支える行政サービスを人々へ提供し、信頼ある行政が支える多文化共生の社会を実現する。
③ 安全で持続可能な都市空間を人々へ提供し、活力ある都市力を向上させる。
その後、KDDIが提案した調査事業が内閣府によって採択され、つくば市とKDDIが一体となって先述した実証実験が行われました。
.jpg)
「これからの街づくりに通信技術は欠かせません。しかし、今回の取り組みにおいてKDDIは単に通信事業者というよりも、すべてを相談できる心強いパートナーだと捉えています。突拍子もないことを相談しても真剣に受け止めてくれて、適した解決策を探してくださり献身的に関わってくれました。この調査事業を成功させ、さらに今後もともに取り組んでいくことが、つくばスーパーサイエンスシティの完成につながると確信しています」