KDDIは高知県日高村、株式会社チェンジと共に村のスマートフォン普及率100%を目標に掲げた「村まるごとデジタル化事業」に取り組んでいます。本事業では、住民のスマホの普及と利活用を促進することで、住民の皆さんが健やかで豊かに暮らすための地域のデジタル基盤を構築し、「誰ひとり取り残さない」デジタル社会の実現を目指しています。

日高村の高齢化率は約40%と全国平均の28%よりも高く、高齢者の方々のなかにはスマホを使うことに不安を感じている方もいらっしゃいます。それを払拭するためにこの事業では、auショップのスタッフが出張でスマホ教室を実施したり、日常で気軽に相談できる場所として、スマホに関するサポート拠点である「よろず相談所」を村内に開設したりするなど、住民の皆さんがスマホに馴染んでもらうための仕組みを日高村役場の協力を得て継続的に続けています。

さらに、この取り組みを全国に広げていくために日高村、株式会社チェンジと共に2023年8月、国内のデジタルデバイド解消とデジタル化を通じた地域住民の生活の質向上を支援する「一般社団法人まるごとデジタル」を設立しました。
これからも、「誰ひとり取り残さない」デジタル社会の実現をパートナー、自治体とともに推進していきます。
※この記事は2023年02月13日の記事を一部更新・再編集しました。
通信会社の使命は、豊かな暮らしの実現をお手伝いすること
多くの人が、昨日の生活の延長上に今日があり、明日も同じ日常を続けていけると思っています。しかし、同じような生活が将来にわたって永続することはありません。昨今は、デジタル技術などの進化によって、生活もビジネスもきわめて変化が激しい時代です。その中で、変化を“契機”と捉えられるかが大きな分かれ道となります。日本が深刻な人口減少の局面にあることを誰もが頭では理解しているでしょう。その課題とどう向き合っていくかを考えることが大切だと、KDDI 経営戦略本部 地域共創推進部の細川 穣は話します。
「社会を取り巻く問題点の存在に十分に気づいていない、見て見ぬふりをしてしまうことこそが、明るい未来への最大の障壁ではないでしょうか。人が減り、これまでと同じ仕事や生活を維持できなくなったときに慌てるのではなく、今向き合い、変化を起こしていくことが大切だと私たちは考えています。KDDIは通信会社の使命として、人々の新しい豊かさの実現に向けて真剣に取り組んでいます」

細川はこう話し、デジタル技術がそのための鍵となる存在だと言います。生活の場所を問わずに享受できる、高品質で安定した通信・情報サービスこそが、新しい暮らしのデザインには不可欠なのです。
届けたい人に、情報が届かない――。情報格差が最大の壁
日高村の高齢化率は約40%と全国平均の28%よりも高いという現実に直面しています。どのようにしたら地域の皆さんが、デジタル技術のメリットを存分に享受できるのでしょうか。
「スマートフォンを配るだけでは何の意味もありません。なぜなら、配布前の慣れた日常に、すぐに戻ってしまうからです」と細川は説明し、事業の初期の頃を次のように振り返ります。
「地域の方々にお会いすると『スマホどころか携帯電話も必要ない。使い方もわからない。余計なお金も払いたくない』といったお声がたくさん聞こえてきました。それらの声に対して日高村役場とKDDIでは、なぜこの取り組みが必要なのか、スマホが生活にどう役立つのか、対話を重ねました。それぞれの立場でしっかりと地域の皆さんの声に向き合い、この取り組みによって生活がどう変わり、豊かになるのかを伝えていく必要があると考え、スマホによるデジタルとの接点づくりの提案をしてきました」

しかし事業発足後は、精力的に情報を発信しても、デジタルデバイド(ICT技術の恩恵を受けられないことによる格差)の先にいる方々への周知はなかなか行き渡りませんでした。発信された情報が、自分に役立つ情報だと認識してもらえなかったのです。
そこで、日高村の82の自治会すべての会長さんと連携し、役場からの事業説明会を自治会単位で実施していくという地道な活動を続けました。それでも情報が届かないときは、会長さんが直接ドアノックをして事業説明をしてくれたこともありました。
「自治会長の方々だけではなく、多くの方々がこの事業の趣旨、必要性を理解して協力してくださいました。課題が見つかるたびに、プロジェクトに携わる関係者が増えていくことに、課題を解消すること以上の意味を感じました。例えば、コロナ禍でなかなか現地に入れなかった私たちの代わりに土佐市のauショップがスマホ先生を出張派遣して、スーパーマーケットの特設コーナーで住民の皆さんとコミュニケーションをとってくださいました。ここで伺った皆さんの声が、その後の『スマホよろず相談所』『スマ友ステーション(デジタル共助ステーション)』開設といったプロジェクトに生かされています」

「誰ひとり取り残さない」デジタル社会を共創していく
“地域のために”という志を同じくする日高村役場、チェンジ、そして住民の皆さんと一緒に取り組んでいる事業である「村まるごとデジタル化事業」は、住民の皆さんが健やかで豊かに暮らし続けるための地域のデジタル基盤として、今後さらに大きな役割を果たしていくとKDDIは確信しています。
人口が減少しているいまだからこそ、デジタル技術で人と人、人と情報がつながることが、より重要になってきています。KDDIは高品質で安定した通信を提供するだけでなく、本事業で実践しているように、地域の皆さんの声に耳を傾け、人と人とのつながりや対話を重視した人間味のあるデジタル化事業をパートナー様ととともに共創していきます。そうすることで、誰もがどこにいてもデジタルの恩恵を享受できる、「誰ひとり取り残さない」社会の実現を目指してまいります。
スマートフォンは、村まるごとデジタル化における「接点」
「DX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉が世の中を賑わせていた2019年の冬ごろ、私は司馬遼太郎の『竜馬がゆく』を読んでいました。坂本龍馬は船(軍艦)の重要性を考えていましたが、龍馬の危機感や問題意識を今の日本に置き換えて考えてみると、『船』に該当するのはスマートフォンだろうと感じたのです」

こう話すのは、高知県 日高村役場 企画課 主幹の安岡周総さんです。安岡さんは、デジタル技術が人々の生活をどう変えるのかについての議論が不十分な状態で、DXという言葉だけを唱える当時の風潮に疑問を感じていたと回想します。
「DXによって、あらゆる世代の住民の生活がどう変化するのか、その視点が抜け落ちているように感じていました。これが自治体全体のデジタル化と、接点として全住民にスマホが必要だという事業のアイデアの源泉になりました」
安岡さんは企画書を作り、日高村の課題解決にはスマホの普及が必要だと提唱します。課長などの上長や関連部署と議論を重ねながら、委託先の公募実施に漕ぎ着けました。そうした安岡さんの思いとKDDIの課題意識が一致して、今に至ります。
スマートフォンは、人々に「選択肢」を提供し、力を与えるツール
なぜスマホ普及率100%を目標としたのか。安岡さんは「大切なことは、人々が現状維持バイアスを乗り越え、自らの選択肢を持つことです」と強調します。スマホは単なるツールに過ぎません。選択肢の提供のためにどのようなサービスを展開するかが重要です。その必要性や意義をどう知ってもらうかを考え抜いた結果、日高村は生活支援に直結する4つのアプリを選定しました。
1つ目はコミュニケーションです。情報の伝達やユーザー同士の会話の促進として「LINE」が選ばれました。2つ目は高知県が開発した「高知防災アプリ」。高知県は南海トラフ地震や台風への備えを常に考えている防災意識の高い県なので、地域情報に強い防災アプリは必須でした。
次は健康アプリの「ポケットヘルスケア(※)」。個々人の健康管理や運動不足の解消に役立つことは、一人ひとりの生活の質の向上はもちろん、行政にとっても保健に関わる支出の抑制などに効果があります。適切なインセンティブを設定することで、住民の皆さんの健康意識の向上を目指しています。そして最後が経済活動に直結する地域通貨アプリの「chiica(チイカ)」です。健康増進でのポイント還元やスマホ利用に関する補助に経済性を組み込むことで、利用の定着を促しています。
(※)2022年秋に日高村でのサービスは終了。現在、新健康アプリ「まるけん」に移行を開始。
スマホを利用することで、自分の手のひらの上で、自分に必要な情報や手続きに簡単にアクセスできるようになります。住民の方々に「自分でスマホを操作し、自分に必要なことができた」という体験を積み重ねることで自尊心を高めていただきたい、つまりはエンパワーメント(力を与える)したいと考えています。
事業開始から約1年で、スマホの実質普及率は86%を超えました。村役場には、「おかげで使えるようになったよ。ありがとうね」という声も届いています。しかし、「頑張ったのは住民の皆さんです」と安岡さんは強調します。

「変わるという行動には、勇気や行動力が必要です。だからこの事業は、日高村の住民の皆さん自身の手によって実行されたと言えるのです。KDDIは、大義を持って取り組むことを組織のフィロソフィーにしていると感じますし、この事業では投資してまでサポート役に徹してくれており、とても感謝しています」
日高村のデジタル化事業における「立役者」
Change Peopleで人材育成を成し遂げ、Change Businessで企業を世界で戦えるように鍛え、Change Japanで日本そのものを劇的に変えていく――。そうしたビジョンを創業時から貫いているチェンジは、日高村の「村まるごとデジタル化事業」における、クルマのシャフト(車軸)と言えます。
日高村とKDDIを車輪とするならば、チェンジは両者のつなぎ役。一見すると黒子のようなチェンジこそが、この事業の推進における立役者でもあります。チェンジ NEW-IT ユニット シニアマネジャーの尾形正則さんは、「チェンジ内でもこの事業は注目されていて、多くの社員から応援されています。実は自治体向けの取り組みでは初めてとなる、KDDIと当社の共創プロジェクトです」と話します。

「行政業務でもデジタル技術を活用しているのが当たり前の状態にしたいと考えています。住民もデジタルツールを自然に使いこなしていけば、その先には高い生産性を取り戻した日本の未来の姿が描けます。そういった観点で、日高村の取り組みは、実は日本で最先端の事業だと確信しています」
事業主体である日高村による確かなリードに加え、日高村・チェンジ・KDDIの三者の意見やアイデア、行動が組織の垣根を越えて混ざり合い、積極的な活動となっている点が本事業の特徴です。三者がそれぞれ人材やリソースを持ち寄り、サポートし合う関係性が築かれています。
「毎週の定例会議で問題が山のように持ち込まれ、常に試行錯誤してきました。しかし本事業のゴールは何かという意識統一がされていたため、ブレることはありませんでした。それは、日高村が『デジタルへと舵を切る』という大英断をされたからにほかなりません」
「chiica」が実現する、地域経済の新しい循環モデル
チェンジの持つサービスやソリューションの特徴は、地域に根差したものとしてデザインされている点です。もし行政が住民にポイントなどを提供したとしても、その使い道が全国規模の大手チェーン店に吸収されるようなものでは地域経済にお金が循環しません。チェンジの提供している地域通貨プラットフォームの「chiica(チイカ)」は、こうした課題を解決する手段として本事業で採択されました。

自治体のデジタル化事業においては、アプリ間連携によって地域通貨が生活や経済の一部になることが理想です。住民の日々の健康活動が住民にちゃんと還元されれば、スマホを持ち歩く理由や動機づけになります。アプリ間連携の柔軟性が高いchiicaは、健康と経済がアプリを介して連携するモデルに最適なソリューションだったのです。
.jpg)
「何かの形でインセンティブがなければ人は動きませんし、新しい習慣が根付くこともありません。だからこそ、きちんと実利を組み込んでいくことが大切です」と尾形さんは強調します。日高村では、歩き、運動し、健康情報を登録するとポイントが付与され、地域内での買い物に利用できます。まさに住民・行政・地域企業にとっての“三方よし”の施策だと言えるでしょう。

「この事業でスマートフォンに馴染んだご高齢の方々が『気になっていることを、自らスマホで調べて解決できるのが普通』になるのが理想です。そうした光景を見ることが、ごく日常的なことになるよう、住民の皆さんと私たちは一歩一歩前進していると思います。近い将来、日高村はデジタルデバイドが自然解消した日本で最初の自治体になるかもしれません」