近年、生産年齢人口の減少や少子高齢化、さらには生産人口の都市集中といった流れの中で、地域の過疎化・高齢化が進行しています。総務省の調べによると、過疎地域に区分される市町村は、2021年時点で全国市町村の約半数(47.7%)にあたる820市町村に及んでいます*1。それに、トラックドライバー不足もあいまって、中山間地域では食料品などの生活必需品の入手も困難な「買い物弱者」も増加しつつあります。
こうした社会課題を解決し、地域の暮らしを守り快適にする一手として期待を集めているのが「ドローン」です。過疎化が進む中山間地域や島しょ地域への「物流」のみならず、「測量」「点検」「監視」など応用の幅は多岐にわたります。
特に「物流」においては、過疎地域での日用品の配達や災害時における物資配送などを効率化・合理化するソリューションとして自治体での実証実験が各地で進められています。一方で、ドローン配送に関する法整備も進展し、2022年12月にはレベル4(有人地帯・市街地での目視外飛行)が可能となり、ドローン配送は実証実験のフェーズから実用化の段階へと急速にシフトしています。
エアロネクストは日本発の物流専用ドローン「AirTruck」をACSLと共同開発し、量産化を成功させた注目の企業です。同社とKDDIスマートドローンは2023年3月までに14以上の自治体でドローン配送の実証実験を行い、将来的には500自治体にドローンを使った配送サービスを普及させる計画です。
これによりKDDIスマートドローンは、過疎地域が直面している物流や災害時の配送の問題を抜本的に解決するとともに、地域の暮らしの快適さを守り、過疎化の問題そのものの解決に挑戦しています。
*1 総務省 総地域力務省創造グループ過疎対策室「令和2年度版 過疎対策の現況)」(令和4年3月発表)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000807029.pdf

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中山間地域の快適な暮らしを叶えるために、ドローンを飛ばす

KDDIスマートドローンは、KDDIが2016年から推進しているドローン事業化の取り組みを2022年4月に事業継承しました。掲げるビジョンは「叶えるために、飛ぶ。」──。モバイル通信と運航管理システム、そして優れたドローン機体との融合によって、人や社会の思いを叶えることを目指しています。
例えば、過疎の問題を抱え、買い物弱者とされる高齢の方が多く住む地域の自治体の方は、より少ない労力で、誰のもとにも注文された荷物が届けられるようにしたいと願っているはずです。「そうした願いを、ドローンを遠隔制御で飛ばす仕組みによって叶えていくことが、KDDIスマートドローンの目標です」と代表取締役社長の博野雅文は語り、こう続けます。
「そもそも空を駆けるドローンには人を惹きつけ、わくわくさせる魅力があります。そのドローンが地域の人々のために飛び回ることで、地域が元気になり、さらに人口の社会増となることにより、過疎問題の抜本解決に貢献したいとも強く願っています」
地域へのドローン定着のカギを握る運航管理システム
地域貢献へのそうした思いを具体化させるうえで重要な役割を担うのが、ドローンの遠隔操作や映像のリアルタイム共有を可能とするKDDIスマートドローンの「運航管理システム」です。その最大のポイントは、ドローン操縦の熟達者でなくともドローンの運航が行える点にあります。
「過疎地域における物流の問題を解決するためにドローンを導入したとしても、運用のために特殊技能を持った技術者を雇用しなければならないとすれば、地域にドローンサービスを定着させることは困難です。当社の運航管理システムは、各地域が地域内の人材だけでドローン運航が行えるよう、使いやすさに徹底してこだわっています」と博野は明かします。
こうした設計上の工夫が奏功し、例えば、2020年8月に運用が開始された長野県伊那市におけるドローン配送サービス「ゆうあいマーケット」では、現地スタッフによって毎日のドローン運航を実現しています。
「いずれは、運航管理システムを通じて、熟練者でなくとも配送用の多数のドローンを同時並行で運用できるようにする計画です。それが実現することで、より少ない人数で、より多くの人にドローン配送サービスを提供できるようになります。また、運航管理システムには、飛行ルートを設定するだけで、国交省への飛行申請が自動で行える機能も搭載させる予定です」と博野は説明を加えます。

地域課題解決のパートナー、エアロネクストに膨らむ期待
KDDIスマートドローンは、全国自治体へのドローン配送サービスを浸透させるパートナーとして、エアロネクストと協業・共創の取り組みを推進しています。
KDDIスマートドローンは、2022年3月に新潟県阿賀町で展開されたエアロネクストとセイノーホールディングスのスマート物流プラットフォーム「SkyHub」*1の実証実験を支援したのを皮切りに、2022年6月にはエアロネクストの物流専用ドローン「AirTruck」とKDDIスマートドローンの「スマートドローンツールズ」*2とを組み合わせたドローン配送パッケージ「AirTruck Starter Pack」の提供も開始。10月にはAirTruck Starter Packを使ったSkyHubサービスを福井県敦賀市でスタートさせました。この試みではドローンを使い最短30分で物品を届けるオンデマンド配送や買物代行などのサービスが地域住人に向けて提供しています。
「エアロネクストは、提供するAirTruckの性能が非常に高いうえに、同社が展開するSkyHubはドローン配送と陸送とを巧みに組み合わせ、地域の課題に対応していく実効性の高いソリューションです。エアロネクストとの共創・協業によって、多くの地域の課題を解決し、その願いを叶えていくことができると確信しています」(博野)
*1 SkyHub:エアロネクストとセイノーホールディングが共同で推進するドローン配送と陸上輸送を融合したスマート物流プラットフォーム
*2 スマートドローンツールズ:モバイル通信、運航管理システムと、クラウド、その他オプションから構成されるKDDIスマートドローンのサービス
ドローンの安全運航に欠かせないKDDIスマートドローンの技術
ドローンは旧来、通常のラジコン飛行機と同じように、操縦者がドローンの動きを目視で観察しながら、手元のコントローラーで操作するものでした。
そうしたドローンとモバイル通信、そして運航管理システムを組み合わせ、ドローンの目視外飛行(遠隔監視制御による長距離自律飛行)を可能にしたのが、KDDIスマートドローンの技術です。モバイル通信を使ったドローンの遠隔制御には、「飛行エリアの拡大」「運用コストの削減」「即時的でスピーディーな活用」という3つのベネフィットがユーザーにもたらされます。

また従来は、中山間部や島しょ地域といった一部エリアではモバイル通信の電波が届かず、ドローンの遠隔操作が行えない場合がありました。しかし、衛星ブロードバンドインターネット「Starlink」を活用することで、モバイル通信環境が整備されていないエリアでも遠隔目視制御による自律飛行を可能とします。
KDDIスマートドローンのノウハウを生かし、安定したドローンの運航を実現
KDDIスマートドローンは、ドローンの目視外飛行の社会実装を効率的、かつ効果的に進展させるものとして「スマートドローンツールズ」を提供しています。
これは、「モバイル通信」と「運航管理システム」、そしてデータ保管用の「クラウド (クラウドストレージ)」の3つを基本パッケージとして提供するサービスです。オプションで「高精度測位」「上空電波測定」「小型気象センサー」といった機能が用意されているほか「ドローン機体」も提供されます。
このうち運航管理システムは、ドローンのソフトウェア制御や自動運行を実現する仕組みであり、KDDIスマートドローンが提供するサービスの中核です。
このシステムでは、3D地図と上空気象予測にもとづいて飛行ルートを作成する機能をはじめ「ドローンのフライト開始、一時停止、カメラの遠隔操作・制御」「リアルタイムのドローン映像の共有」といった機能を提供するほか、ドローン遠隔飛行中の事故を補償する「賠償責任保険」を自動的に付帯する仕組みも備えています。

さらに、KDDIは2022年8月から、日本航空と共同で「1人の操縦者が複数のドローンを運航する1対多運航を実現する技術」の開発に共同で取り組んでいます。その成果はもちろんKDDIスマートドローンの運航管理システムに取り込まれます。
加えて、ドローンを構成する制御部分は通信を阻害する干渉ノイズの発生原因の一つとなっています。そこでKDDIスマートドローンはノイズへの耐性を備えたドローン専用通信モジュールを独自に開発し、スマートドローンツールズのオプションとして提供するドローン機体に搭載させています。これにより、ドローン機体と運航管理システム間で安定した通信が確立され、遠隔監視制御による飛行の安定性も確保されます。
KDDIスマートドローンのソリューションは、優れたドローンの機体があって初めて成立するものですが、運航管理システムやドローン専用通信制御モジュールは、通信事業やドローン事業で培ってきたKDDIの知見とノウハウがフルに生かされています。これからも、数々の実証実験から得られた成果をもとに、これらのシステムや技術に一層の磨きをかけていきます。
物流専用ドローン「AirTruck」に託す、エアロネクスト社の思い、とは

KDDIスマートドローンのパートナーとして、地域でのドローン配送サービスの普及に力を注ぐエアロネクストは、次世代ドローン技術のスタートアップ企業です。設立は2017年。ドローンによる新市場の創出を目指しての起業だったと、創業者で代表取締役CEOの田路圭輔さんは振り返ります。
「多くの人と同じく、私にも空への憧れがありました。また、ドローンには人の能力・機能を拡張する技術としての魅力を感じています。そのことが、ドローンを使って新市場を創出したいという願いにつながり、その願いが、モノの『移動』にフォーカスを絞ったドローン技術を作り上げ、新しい物流の仕組みと市場を創出したいという思いにつながりました」(田路さん)
田路さんの熱意は、機体重心を最適化することで産業用ドローンの安定性、効率性、機動性を向上させる、独自の構造設計技術「4D GRAVITY」として実を結びました。それをACSL社にライセンスすることで物流専用ドローン「AirTruck」の開発・量産化に成功したのです。AirTruckは、4D GRAVITYの重心制御で荷物の揺れを抑えつつ安定した飛行を実現するほか「空力の最適化による高い飛行性能」や「ドローン上部から簡単に荷物が搭載できるなど、利用者の扱いやすさを考慮したUX(ユーザー体験)設計」などを特徴としています。
過疎地の物流にドローン配送が最適な理由
AirTruckの開発・量産化と並行して田路さんは、物流専用ドローン、ドローン配送の市場性を探るべく、700人弱の村に住み込み、毎日のように住人に向けた荷物のドローン配送を展開しました。結果として田路さんが至った結論は次のようなことです。
「人口が減少し、トラックドライバーも人手不足の中、ドローンを使った新しい物流市場は確実に存在しています。しかし、ドローン配送単独で事業化するのは難しく、地域の皆さんのニーズに応えることはできません。トラックを使った既存の物流とドローン配送を組み合わせ、いつでも、どこでもモノが届くようにする必要があると考えました」
この考えが、セイノーホールディングスとの次世代型物流プラットフォーム「SkyHub」の共同展開につながったと田路さんは話します。
「ドローン配送と陸上輸送を融合したスマート物流プラットフォームSkyHubを使うことで、SkyHubアプリをベースにした配達代行やオンデマンド配送、医薬品配送、異なる物流会社の荷物を一括して配送する共同配送など、地域の課題やニーズに合わせたサービスを展開、提供することが可能になります」(田路さん)
過疎地の常識や状況を、ドローンを使った新たな物流で変える
エアロネクストとKDDIスマートドローンとの協業は、新潟県阿賀町におけるSkyHubの実証実験をKDDIスマートドローンが支援したのが始まりです。
「この始まりは、非常に大きな出来事でした。というのも、ドローンは通信システムそのものであり、その市場を創り、拡大させるキープレイヤーはKDDIのようなキャリア以外にないと考えていたからです。KDDIグループの協業、共創の輪に加われたことで、エアロネクストだけではカバーし切れないような数の地域に対して、ドローン配送の価値を届け、それぞれの課題解決やイノベーションを実現できるようになったことは嬉しいかぎりです。KDDIグループとの協業によって、500自治体へのドローン配送の普及を実現するとの目標を立てましたが、それは十分に実現可能な数字です」と田路さんは語り、こう締めくくります。
「例えば過疎地では、日々の生活必需品を手に入れるために貴重な時間の多くを費やすのが当たり前というのが常識になっています。また、過疎地に住む高齢の方のために自治体が財源を削って赤字のバスを走らせたり、地域の誰かが自分の身を削って車を走らせて買い物をサポートしたりしています。私の願いは、こうした過疎地の常識や状況を、ドローンを使った新たな物流によって一変させ、各地のサステナビリティを高めることです。その願いを、KDDIスマートドローンとの協業を通じて叶えていきます」

