最新のデジタル技術とデータを使い、都市の課題やありたい姿を実現する─。そんな都市DX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みの一環として、KDDIは2022年5月、三井物産とのジョイントベンチャー、株式会社GEOTRA(ジオトラ)を設立しました。
GEOTRAが提供しているのは、「人の流れ(以下、人流)」をデジタルの世界で再現し、都市のデジタルツインを実現する「GEOTRA Activity Data」です。その提供を通じて、スマートシティの計画づくりや都市の防災計画、渋滞の解消、観光施策の立案、さらには社会インフラの建設・保守計画の策定などをより精緻に、かつ効率的にすることを目指しています。
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これまで、一人ひとりの人流の可視化は必要とされながらも「個人情報保護」の障壁によってなかなか進展を見せてきませんでした。GEOTRAでは、その障壁をクリアするべく、利用許諾を得たauスマホの位置情報を基軸に、交通ネットワークやPOI(Point of Interest:施設などの地図上の目標点)などの情報を組み合わせた「合成データ生成技術」によって人流の可視化と予測を可能にする手法を開発しました。「GEOTRA Activity Data」における精緻な人流シミュレーションにより、人に寄り添った街づくりを進めていきます。
GPSデータを、都市計画や防災計画に生かす
auの事業を通じてKDDIが取得し、保有する人流データ(GPSビッグデータ*1)は、高い精度ときめ細かさが特徴です。ところが従来は、個人情報保護の観点から、そうしたGPSビッグデータを詳細な状態で外部の自治体や企業に有効活用していただくことが難しい状況でした。
「そうした状況を変えたのが、GEOTRAが提供する『GEOTRA Activity Data』です」
そう語るのは、KDDI側から三井物産との共同開発プロジェクトに参加し、現在GEOTRAの代表取締役副社長を務める鈴木宙顕です。
*1 KDDI保有のGPSビッグデータ(人流データ)とは、KDDI がお客さまによる同意のもとで収集・取得している位置情報などのデータを指す。

「KDDIが保有するGPSビッグデータの価値を、プライバシーの問題をクリアしながら、自治体や企業の皆さまに有効活用していただきたいと考えました。GEOTRA Activity Dataを活用することで、都市計画をはじめ防災計画、渋滞緩和、観光、さらには道路や橋などの社会インフラの建設・保守の効率化に役立ちます。すでに公官庁や自治体、建設・不動産業界を中心に多くのお引き合いをいただき、詳細な人流データが、都市や街づくりにおいて求められていることを実感しています」
さらに鈴木は、こう付け加えます。
「KDDIの移動体通信網やスマートフォンは社会インフラの一つであり、その運営・運用を通じて取得されるデータは、KDDIの資産であると同時に社会的な資産でもあります。すべての自治体、企業、組織、個人にベネフィットをもたらす使い方を促進したいというのが、私たちの考えです。そうした社会的使命を果たすうえでも、GEOTRA Activity Dataは有効に機能しうると確信していますし、一層の普及を図ることが重要であると認識しています」

人流データと決済データの融合など、大きく広がる可能性
GEOTRAでは今後、データの融合、例えば人流データと決済データの融合によってGEOTRA Activity Dataで可視化/予測できる項目の幅を、人流に付随した“各所での消費の動き”へと拡大したり、GEOTRA Activity Dataの適用範囲をマーケティングのプランニングや店舗の出店計画、鉄道の運行計画などへと広げたりすることも検討しています。また、市場拡大に向けて、海外展開も計画しているとのことです。

GEOTRA Activity Dataを使った都市のデジタルツインの活用の幅は、都市計画や防災計画にとどまるものではありません。便利で快適な都市生活を目指して、多様なパートナーのみなさまとともに、GEOTRA Activity Data活用の新たな可能性を見つけていきたいと鈴木は意欲をみせます。
都市のデジタルツインを実現する「GEOTRA Activity Data」とは
GEOTRA Activity Dataは、単に個人の位置情報を地図上にマッピングした仕組みではありません。その最大の特徴といえるのは、一切の個人情報が扱われず、一人ひとりの人流を導線で表現できる点にあります。
その実現に向けて開発したのが、「ペルソナ(エージェント)」 を仮想的に一人ひとりつくり上げ、Web上で動きを再現する技術(Activity Based Modeling)です。この技術は、「秘匿化」されたKDDI保有の人流データや地図・交通データ、公的データ、POI(Point of Interest : 地図上の特定の地点)データなどの情報を基に、AI(人工知能)/機械学習を使った予測分析によってペルソナをつくり上げ、Web上の都市空間で人流を再現します。この仕組みによってつくり上げられたGEOTRA Activity Dataは、仮想の人物の動きであることから、個人情報保護のコンプライアンス上の問題が発生しないのが大きな特徴です。
統計データとAI/機械学習技術の掛け合わせで、人流を可視化する
GEOTRA Activity Dataは統計情報とAI/機械学習技術のかけ合わせによって生成される合成データです。個人が特定されることはなくプライバシーは完全に守られていますが、現実世界と同一の統計的特徴を有し、そのデータによって、さまざまな属性(年代・性別・勤務エリア・居住エリア、など)を持った生活者一人ひとりの移動履歴、ないしは導線を表現・再現することができます。そのためGEOTRA Activity Dataは、さまざまな切り口から人の移動の傾向をとらえ、可視化することが可能です。
例えば、GEOTRA Activity Dataを使うことで「大手町エリア(丸の内2丁目)」に勤務する人が、主としてどの地域に住んでいるかを即時的に分析して可視化することができます(画面1)。

また、画面2は徒歩という「移動手段」で日比谷公園周辺から日比谷公園へと向かう人を「時間(18時ごろ)」「性別(女性)」「年代(20代)」によってフィルタをかけた結果です。

ご覧のとおり、18時ごろに銀座から日比谷公園へ徒歩で向かう20代女性が相当数いることがわかります。
これまでは、「20代女性の多くが、18時ごろに徒歩で銀座から日比谷公園に向かっているという事実」を突き止めるには、カメラなどで撮影したデータを画像分析する、カウンターで人数を計測するなど、かなりの労力がかかっていました。GEOTRA Activity Dataを使えば、そうした負荷の高い作業が簡単にこなせるのです。
このような年代・性別などのセグメントに分けた人流の可視化は、さまざまなことに役立てることができます。
都市計画や防災計画に役立つ、人流の予測/シミュレート
GEOTRA Activity Dataは、人の所在や人流の可視化だけではなく、人流の予測/シミュレートも行えます。つまり、建物や道路、公共交通などの変更、変化、あるいは破壊、遮断、まひといった都市で発生しうるさまざまな事象に対して人流がどのように変化するかを予測/シミュレートできるということです。これにより、公官庁や自治体、建設・不動産デベロッパーは、スマートシティづくりなどの都市計画や防災計画の効率化に役立てることができます。
また、鉄道会社はGEOTRA Activity Dataによる分析をダイヤ(列車運行)の最適化に生かせるほか、特定の駅で下車した人が主としてどこに向かうかを可視化し、“駅ナカ”のサイネージを最適化するといったことも可能になります。さらに、小売業や飲食業であれは、出店計画の最適化に活用できます。
今後GEOTRAでは、人流を立体的に可視化できるにすることも視野に入れています。今日のスマートフォンには気圧センサーが装備されており、そのデータから人の上下位置をとらえられる技術の開発(MBS)が進んでいます。そのデータを使いながら、人流を立体的に可視化、シミュレートできないか検討しています。これが実現されれば、ビルや商業施設などでの導線の最適化にもGEOTRA Activity Dataが活用できるようになります。
GEOTRA Activity Dataの開発に終わりはなく、日々進化を続けていくことで新たな可能性を広げているのです。

三井物産とKDDIが描く、人流の可視化による社会課題解決のビジョン
近年、都市生活をデジタル技術で豊かにするスマートシティ事業への期待が高まっています。政府が掲げる「Society 5.0」の実現に向けて企業や自治体は、都市づくり・街づくりにおいてもDXの取り組みを推進しています。
そうした中で、人流の把握や将来予測は重要な役割を果たします。それにいち早く着目したのが、三井物産でスマートシティ関連の事業に携わり、現在はGEOTRA代表取締役社長CEOの任にあたっている陣内寛大さんです。

「三井物産でスマートシティ事業に携わる中で、以前から人流データをうまく活用すれば、街づくりのプランニングがより精緻に、かつ高度になると考え、そこに事業化のチャンスがあると見ていました。その考えをもってKDDIにGEOTRA Activity Dataの共同開発・事業検討の提案をしたことが、GEOTRAの設立につながりました」
GEOTRA設立以前のプロジェクトの段階から特に力を注いだのが、個人情報を一切使わずに人流の可視化とシミュレートを可能にする技術の開発です。秘匿化されたKDDI保有のGPSビッグデータなどを用いながら、統計情報とAI(人工知能)/機械学習技術のかけ合わせによって「架空の人」を合成する技術を開発し、GEOTRA Activity Dataをつくり上げたのです。陣内さんが携わってきた三井物産の都市開発・都市計画に関する造詣の深さ、KDDIのGPSビッグデータを中心とする技術。両社の持ち味を生かすことでGEOTRA Activity Dataは生まれたのです。
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GEOTRA Activity Dataで広範な社会課題の解決へ
GEOTRA Activity Dataは、すでに大手不動産デベロッパーや自治体からの注目を集め、導入やGEOTRAとの共創の取り組みが活発に行われています。それに加えて、全国的に深刻化する橋梁・道路・トンネルなど、社会インフラの老朽化問題にも取り組んでいると、陣内さんは言います。
「数万にも及ぶ日本の社会インフラが老朽化し、修繕や建て直しが必要とされていますが、日本の建設業界は人手不足や資材の高騰などに苦しめられ、すべてを一挙に進めることは実質的に不可能な状況にあります。そこで、社会インフラごとにそれが壊れた場合の周辺地域への影響度合いをGEOTRA Activity Dataで分析・可視化し、修繕・建て直しの優先順位づけや計画の適正化に貢献していく考えです。また、新規社会インフラの建設時には、その社会的価値を科学的に割り出すツールの一つとして活用していくことも検討しています」

それと併せて、スマートシティの実質的な牽引役である建設・不動産事業者の新たな街づくりや環境づくりに関わる課題への理解を深めながら、現場で真に役立つ人流データとは何か、人流分析とは何かを徹底的に突き詰めていき、GEOTRAの成長・発展につなげていきたいと、陣内さんは意欲を示します。
今後も三井物産とKDDIは、「GEOTRA Activity Data」をより発展させ、人々が快適に暮らすことのできる都市づくりを目指していきます。