2023.11.17

Starlinkで音楽フェスに新常識を。3者による通信課題の解決への歩み

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  • サービスエリア拡大・品質向上

Starlinkを扱うSpaceX社との窓口であり、KDDIの技術を組み合わせたソリューション開発を担当しているKDDI LX基盤推進部の大竹菜都乃は、社会やビジネスのDXが音楽フェスの“あり方”にまで影響していると知って、強い衝撃を受けたと振り返ります。

「コロナ禍は社会活動を停滞させましたが、一方で発展中だったデジタル技術やサービスの社会実装を急速に後押しした側面もあったように思います。コロナ禍を経て、キャッシュレス決済やさまざまなサービスでのアプリ導入といったICTの活用は拡大しました」

KDDI株式会社 事業創造本部 LX基盤推進部 大竹菜都乃KDDI株式会社 事業創造本部 LX基盤推進部 大竹菜都乃

「つながらない」―音楽フェスを襲った危機的状況

コロナ禍が明け、再開が進む大規模な音楽フェスは、ようやくフルキャパシティでの動員が始まりました。そして、QRコードによる入場手続きやキャッシュレス決済、アプリを通じたアーティスト情報、タイムスケジュールの配信など、スマートフォンを利用したサービスの導入も一気に進みました。しかしながら、1つの会場に数万人規模の人が集まり、来場者が一斉にスマートフォンを利用すると、あっという間に通信インフラが逼迫し、サービスが快適に利用できないといった課題が浮き彫りになり、「つながらない」ことによるストレスで溢れかえりました。

「通信が安定しない状況が起こると、電話やメールができず、『現地で友人と合流できない』、『SNSへの投稿もできない』といった来場者のお客さまからのご不満の声が生まれたり、グッズ・飲食販売ブースなどで使用するキャッシュレス決済端末が機能しないケースもあったと伺っています。このような通信によるトラブルは音楽フェスの運営において致命的です。公園などの野外空間は、一定の人の来場を見越したインフラの設計を行っており、来場者が集中する場合には、車載型の基地局などを追加配備し、携帯電話の通信トラフィック増加に対応しています。しかし、大規模な音楽フェスではそれが追い付かない状況にあります」(大竹)

これは日本の夏の風物詩とも言える音楽フェス「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」やゴールデンウイークの「JAPAN JAM」も同様です。これまでKDDIでは、野外イベントへ通信環境を提供するべく、全国において車載型基地局の出張や仮設の可搬型基地局の設置などの取り組みを行ってきました。ですが、コロナ禍を乗り越えた音楽フェスでは、スマートフォンの利用が来場者・運営側のどちらも重要な要素となり、さらなる安定した通信環境を構築するために、新しいアプローチによる解決策が求められるようになりました。

野外フェスこそStarlinkの出番。空でつなぐ、未来の通信環境

大竹はプロジェクト発足当初を次のように話します。

「ロッキング・オン・ジャパン(以下、ROJ)さまから通信環境についてのご相談を受けたのは、2022年の年末ごろでした。KDDIではROJさまの深刻な課題を理解し、Starlinkの活用により解決ができるのではないかと考えました。しかし前例はありませんので、来場者がどのくらい接続するのか、通信容量はどれくらいかなど、全てが想定ベースでのお話でした。会期中、日々の来場者数や動線も一定ではありません。設計においては、過去開催分のデータを持つROJさま、フリーWi-Fiの設営を担うWi2さま、KDDIの3者の経験や情報を総合して決めていきました」

大切なのは、お客さまに快適な通信環境をご提供し、音楽フェスを心から楽しんでいただくことです。そのため、トライアル的な位置付けとして、春に行われた「JAPAN JAM 2023」ではStarlinkを活用したフリーWi-Fiによる「フェスWi-Fi」の提供をおこなった結果、その存在感を発揮しました。

さらに規模の大きい8月開催の「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2023」でも同様に「フェスWi-Fi」は、快適な通信環境を提供することに成功しました。来場者や出店者のスマートフォンや決済端末によるサービスは問題なく機能し、運営スタッフ間で利用する4G LTEのトランシーバーも機能しました。「フェスWi-Fi」に通信トラフィック処理させることで、4G LTEの通信負荷が下がり、安定して利用でき続けることも証明できました。

「空さえ開けていれば、Starlinkはつながります。1日あたり数万人規模の来場者向けの公衆Wi-Fiの提供に成功しました。今後この「フェスWi-Fi」の取り組みは、大規模な屋外イベントのDXに必要とされるスタンダードな通信インフラとして、普及していくのではないかと期待しています」(大竹)