2023.5.30
日本一深いV字峡に電波を届ける——エリア化を実現した技術と工夫
「当初は全長20.1kmのうち、基地局の設置が済んでいたのは主要駅の4カ所のみ。事前の調査では線路上を何度も歩いて往復し、電波状況を確認したところ、沿線は圏外の場所がほとんどでした」
黒部峡谷鉄道のau通信エリア対策を担当したKDDIエンジニアリングの船本一弥は、プロジェクトが始まった時のことをこう振り返ります。
黒部峡谷鉄道には41ものトンネルがあり、いちばん長いものは約1kmという長さ。また普通の電車よりかなり小さいトロッコ電車が通れるサイズにつくられているためトンネルは狭く、きついカーブも多いのです。そのため、外から発射した電波が中まで届きづらく、どうすればトンネルの内部まで効率的に電波を届けられるのか、答えを探す日々が続きました。
この問題を解決したのが、指向性が高くパワーが強い「バズーカアンテナ」でした。トンネルの入り口付近に設置し、内部に向けて電波を発射することで、一般的なアンテナに比べてより遠くまで電波を届けることができるのです。
KDDIエンジニアリングの嶋田直樹によると、トンネル内には、このバズーカアンテナでも電波が届きにくい場所があったといいます。
「電波が届きにくい場合はトンネルの入り口に加え、トンネルの内部にも基地局を設置することで電波を届けました」(嶋田)
工期が限られる中、通信エリア対策工事をすこしでも前に進めるために冬季も現地へ足を運び、電波調査を行ったこともあったと船本は話します。
「この地域は世界有数の豪雪地帯で、冬季はトロッコ電車が運休しています。自力で現地に行くしかなかったのですが、想像以上に雪が深く、現地にたどり着くだけでもひと苦労でした」(船本)
通信のエリア化が困難な場所で、力をあわせ、技術を駆使し、さまざまな工夫を重ねた経験を次の現場で生かしていく——。KDDIの「つながらない場所をなくす」挑戦は続きます。