2023.5.30

困難を乗り越えて電波が届くまで

  • サービスエリア拡大・品質向上

始発駅の宇奈月(うなづき)駅から終点の欅平(けやきだいら)駅まで、全長20.1kmを片道約1時間20分で結ぶ「黒部峡谷鉄道」。この鉄道の歴史は古く、敷設工事が始まったのは1923年のことでした。

もともと黒部峡谷鉄道は、黒部川電源開発の資材や作業員の運搬を行うためのものでした。しかし、秘境黒部峡谷の探勝を希望する声は絶えず、1953年に旅客営業運転をスタート。かつては人を寄せ付けない秘境の地だった黒部峡谷の絶景をひと目見たいと願う観光客から人気を集めてきました。

そんな観光スポットで「駅周辺以外でスマートフォンが使えない」という状態を変えたい——。黒部峡谷鉄道のそんな思いと、「この地域を訪れる多くの観光客に電波を届けたい」というKDDIの思いから2018年末にスタートしたのが、黒部峡谷鉄道の全沿線をauの通信エリアにするというプロジェクトでした。

これまでこの沿線をエリア化するのが難しかったのにはいくつかの理由があります。通信エリア対策を担当したKDDIエンジニアリングの嶋田直樹は、このプロジェクトにはさまざまな困難があったと言います。

1つは、このエリアが中部山岳国立公園に指定されていること。携帯電話の基地局など、新たな建造物を設置するには関係省庁の許可が必要になり、申請に時間がかかります。さらに景観を損なわない場所に設置しなければならないのも難しい点でした。

2つめは鉄道沿線に道路が通っておらず、機材が運びにくいこと。自動車を使えないので、基地局の設置に必要な無線機、電源、アンテナといった機材を電車で運搬しなければなりません。

3つめは、厳しい自然環境であること。曲がりくねったトンネル、深く切り立った峡谷は、電波が届きにくい場所が多く、安定した通信を行えるようにするには、さまざまな技術面での工夫が必要でした。

KDDIエンジニアリング株式会社 建設事業本部 モバイルプロセス本部 屋内センター 屋内設計グループ 嶋田直樹KDDIエンジニアリング株式会社 建設事業本部 モバイルプロセス本部 屋内センター 屋内設計グループ 嶋田直樹

「実際に現地の長いトンネルに8人の人力で電波実験機材を持ち込み、3日間、電波の浸透を測定したところ、想定より電波が飛びにくいことを把握しました。予定した基地局数では全線をカバーし切れず、計画は見直しに。最終的には当初予定の約2倍の基地局を設置することで、安定した通信が可能となりました」(嶋田)

プロジェクトのスタートから約4年の月日を経た2022年夏、ついに沿線全てのエリアでauの通信回線を使えるようになりました。

KDDIエンジニアリング株式会社 建設事業本部 モバイルプロセス本部 工程管理センター 執行管理4グループ 船本一弥KDDIエンジニアリング株式会社 建設事業本部 モバイルプロセス本部 工程管理センター 執行管理4グループ 船本一弥

「いまは日本全国どこでもスマホが使えて当たり前の時代。ここ黒部峡谷はつながらない時期が長く続きましたが、みんなで力をあわせ、工夫を重ねることで、ようやくつなげることができました」
この地で通信エリア対策を担当したKDDIエンジニアリング 船本一弥の心は、すでに次の「つながらない場所」へと向かっています。