2024.04.25
ベンチャー農業法人とKDDIがマッチング―100年後も豊かな豆畑を残すために
松﨑健太郎さんが率いるAPJ株式会社(以下、APJ)は、福島県喜多方市でピーナッツ(落花生)の栽培、自社運営の加工センターでの商品製造、さらに直売所とカフェや、ネットショップを運営して小売を手がけるなど、ピーナッツを軸とする6次産業化に取り組んでいる企業です。約70軒の地域の生産者と提携してピーナッツを育てることで、地域の農家さんにとって安定した収益源となっているほか、農福連携(農業と社会福祉の連携)も行っているなど地域社会への貢献を重視する経営を実践しています。
会津地域でのピーナッツ栽培における課題は、大きく分けて2つあると松﨑さんは話します。
「1つ目は高齢化です。ご高齢になった農家さんが仕事を続けにくくなる理由として、収穫後の処理(一次加工)が重労働である点が挙げられます。2つ目は耕作放棄地の問題です。使われていない田んぼや畑は荒れた土地になってしまいます。前者の問題に対し、私たちは『あいづピーナッツセンター』という一次加工場を設立しました。収穫されたピーナッツをここに集めて作業することで、農家さんが栽培に集中していただけるよう工夫しました。また空き農地には、ピーナッツ栽培を提案させていただいております」(松﨑さん)
米に限らず農作物の取引価格は変動的です。毎年同じように手間をかけて栽培しても、収入は市場価格の相場に左右されてしまうことが農業経営者にとって悩みの種でした。ピーナッツを作ってもらい、APJが決まった値段で買い取る仕組みにすることで、ある程度収入の見込みが出来るため、他の農作物の価格が下落した年や不作の年でも収入の補填が可能になります。また「自ら加工して商品を作れば、値付けも自分で行えます。これなら相場の変動に悩まずに、サステナブルな商売が可能になります」と松﨑さんは話します。
そうした取り組みをさらに発展させたプランとして、松﨑さんは「あいづピーナッツ村構想」を掲げています。地域全域を「あいづピーナッツ村」と称して、畑での収穫体験や加工場の見学、カフェでの楽しいひとときなどの体験を提供したいという願いが込められています。
豆畑を100年先へ。APJ 松﨑さんとKDDI社員が交わした熱論。
2022年にAPJは、福島県 郡山駅の駅ビルでポップアップショップの開催を企画し、福島県の人材マッチングを活用しました。
「大勢の人が東京から来てくださいました。県の取り組みを通じて縁ができ、多くの方々と今もつながりが続いています。これがきっかけとなって、2023年の春に『KDDI×ふくしまチャレンジマッチング』の構想を紹介いただきました」(松﨑さん)
実際にこのプロジェクトに参画したKDDI グループ経営基盤サポート部の松田洋輝は、毎年のように福島県を旅行している「福島県ファン」です。
「KDDIには、お客さまに一番身近に感じてもらえる会社の実践として就業時間の1%をお客さまと接することや、お客さま目線が理解できる業務体験をすることに使う『業務の1%活動』というプログラムがあります。今回業務の1%活動でAPJさんのピーナッツ村構想をお手伝いするフィールドワークのメンバー募集を知り、地域の活性化に貢献したいという想いから、喜んで手を挙げました」(松田)
今回のプロジェクトにおいて、KDDIからは10名の社員が参加しました。畑や加工センター、販売所を訪問しながらピーナッツ村構想を松﨑さんからヒアリングした上で、メンバーは「どうやったら村人を増やせるか?」「魅力の伝え方は?」「PRには何が効果的か?」といったことをAPJの方々と熱く議論しました。
「最終成果物のようなプレゼン資料が初日からどんどん出てきて驚きました。KDDI社員の方々の地域貢献への熱い思い、そしてそれを実行していく多種多様なスキルや知識に、私たちも刺激されました。例えば、『検索したお店によって、どのような人がどのくらい滞在したのかなど、データを活用した地図を作るのはどうか』というように、地域活性化に大きく貢献できそうな事業展開など、新しい気付きも得ることができました。私の掲げるピーナッツ村構想は100年事業を目指しています。ここがまさに最初のフェーズです」(松﨑さん)
プロジェクトにおける具体的な成果のうちの1つが、SNSを使った宣伝です。キャンペーンを展開したところ、100人にも満たなかったフォロワーはあっという間に2,500人にまで増加。さらに都内で実施した物産展では松田も販売をお手伝いし、あいづピーナッツの魅力を力強く説明して完売に尽力しました。
「私も福島県の関係人口の1人であり、今回のプロジェクトで地元の方々とつながりをもつことができ、福島県は第2の故郷になりました。KDDIの『つなぐ力』で何ができるかを考え、具体的なプロジェクトに取り組みながら地域の課題解決に貢献することは、社会とKDDI、自分自身のつながりを見直すいい機会になります」(松田)
今回のプロジェクトを通して松﨑さんはKDDIに対する思いを、次のように話します。
「親しい知り合いが東京にいるというのは心強いことです。豪雪地帯の会津の冬はじっと過ごすしかありません。この時期に物産展を行ったことにより、冬は東京で営業したらいいというアイデアも出てきました。100年後も豊かな豆畑を地域に残したいと思っています。私たちは地方のベンチャー企業ですが、福島県とKDDIのおかげで、KDDI社員の方々と『つながり』を持つことができました。引き続きこの取り組みを続けていただけたら嬉しいです」(松﨑さん)
今回のプロジェクトでKDDIは、関係人口創出による、地域課題の解決に向けた事業を福島県さまやAPJさまと一緒に展開しました。KDDIは、このプロジェクトにより得られたノウハウやナレッジと地域の方との「つながり」、そして自社の持つアセットを活用し、都市部の企業人材が地域の課題解決と地域産業の活性化に貢献できる仕組みづくりを目指していきます。