2024.04.25
KDDIと福島県が目指す、新たな地域共創モデル
「私が小学生だった1990年代、福島県の人口は約210万人でしたが、わずか四半世紀の間に30万人もの人口が減少しました。現在の人口は約180万人を切っており、寂しさと危機感を持っています」と話すのは、福島県 企画調整部 ふくしまぐらし推進課の藤田尚将さんです。
首都圏で働く方には「地域貢献がしたい」「いずれは故郷で働きたい」など、首都圏で培ったスキルを地方で生かしたいと考える方々が多くいます。一方で地方においては、既存の産業領域をはじめ、デジタル技術やDX(デジタルトランスフォーメーション)関連領域での担い手不足が顕在化しています。そこで福島県では、地方単独での解決が難しい領域を外部の方にサポートしてもらえるように、専門スキルを持つ都市部の人材と、課題を抱える企業・地域をマッチングする(出会う)プラットフォームとして「福島県副業人材マッチングサイト」を2020年5月に立ち上げました。
この事業では、自分の人生を豊かにするためのもう1つのキャリアを「パラレルキャリア」(パラキャリ)と定義し、「福島県と関わりたい。福島県の事業課題を一緒に解決したい」という強い意欲や情熱を持つ人材と、企業・地域を数多くマッチングしています。
「昨今、『移住』というワードはメディアでも注目される傾向にありますが、いかに移住後のミスマッチを防ぐことができるかを考えると、はじめに福島県との『つながり』を創出し、そこで育んだ関係性を持続させることが大切です。私たち福島県にとって『移住』と『関係人口』はセットだと考えています」(藤田さん)
特に藤田さんが意識しているのは、マッチングする企業・地域・人の要望やニーズに真摯に耳を傾けることです。
「福島県副業人材マッチングサイトを利用する方々は、都市部での生活とは別のキャリアを新たに構築し、人生をより豊かにしたいと希望する方が多くいらっしゃいます。お金だけではない付加価値を求めているからこそ、一度関わっていただくと福島県のファンになっていただける。そして県内の企業や人々も刺激を受ける。これこそが地域共創のモデルだと思います」(藤田さん)
関係人口創出の手段としての「KDDI×ふくしまチャレンジマッチング」
そうした地域共創の推進を部署名に掲げているのが、KDDI 経営戦略本部 地域共創推進部です。その中でサステナビリティ推進グループに所属する福士純子は、地域共創について次のように話します。
「地域の担い手不足や産業活性化を解決するビジネスを考えるのが私たちのミッションです。そのための有効な手段として関係人口創出に力を入れています。私たちがこの取り組みを始めるより前に、福島県さんはパラキャリ事業に着手されていました。全国的にも先進的な事業です。そこでKDDI側からコンタクトをとり、私たちの思いや取り組み内容を説明させていただいた上で、共同事業をご提案しました」(福士)
地域共創の取り組みを単発で終わらせることなく、より本質的な課題の解決まで昇華させるには、持続的に取り組むことが重要です。KDDIで同じサステナビリティ推進グループに所属する森脇悠登は、「継続性のある事業にするには、課題解決に持続的に関わる仕組みづくりが不可欠です。福島県さんへ私たちの構想をご説明したところ、福島県さんの『地方だけで解決が難しいところを外部の方にサポートして欲しい』という思いと、KDDIの『地域が抱える課題をビジネスで解決する』との思いが見事に一致していました」と話します。
藤田さんもKDDIから連絡があった時のことを鮮明に記憶しています。「私たちは地域と企業をマッチングしようと、福島県側から100を超える企業にコンタクトしてきましたが、企業側から連絡をくださったのはKDDIさんが初めてです。県として副業人材マッチングサイトを立ち上げて約3年が経過していましたが、KDDIの方に『このようなサイトを探していた』と言われて、それまでの地道な活動が評価されたようで嬉しかったですね。KDDIさんはすでに青森県や長野県でサポート事業の実績をお持ちでしたので、それぞれの知見を出し合い、対話を重ねながら、新規事業として『KDDI×ふくしまチャレンジマッチング』を具体化していきました」と振り返ります。
スキルとアイデアで地域課題の解決に挑む
KDDI×ふくしまチャレンジマッチングは、社内公募で集まったKDDI社員が複数名で地域課題と向き合う「チームプロジェクト型」と、KDDI社員が有するスキルを福島県内の事業者に公開してマッチングすることで課題解決に取り組む「スキルマッチング型」があります。
そして、チームプロジェクト型の取り組みである、あいづピーナッツを手がけるAPJ株式会社(以下、APJ)さまとのプロジェクトについて森脇は、「募集人数に対して5倍の応募がありました。応募者の所属部署や経験、スキルも千差万別で、KDDI社員の多様性に私たち自身が驚いたほどです。DXやマーケティングなど、様々な領域のスキルや経歴を持つメンバー同士でコミュニケーションしたことで新たな発想が生まれ、地域産業の可能性が膨らんでいくのをリアルタイムに体験しました。地域貢献への意欲をメンバー全員が持っていたので、具体的なアイデアがどんどん出てきました」と話します。
プロジェクトに立ち会った藤田さんは、何よりも嬉しかったこととしてプロジェクトに関わったKDDI社員の皆さんの生活サイクルに福島県が確かに存在していると実感できたことだと言います。
「メンバーの方々から『福島県のニュースがあると必ず見るようになりました』『家族に福島県の桃を贈りました』などの嬉しい言葉をいただきました。KDDIの皆さんのスキルに加え、地域社会のことを心から真剣に考えてくださるパーソナリティが、価値ある交流を実現できた成功ポイントだと思います」(藤田さん)
最後に福士は、この取り組みについて、「福島県さんとの共創プロジェクトによって、関係人口を創出し、地域課題解決に関するナレッジが培われました。福島県さんとはこの取り組みを継続して深化させていきつつ、さらに他の自治体へ横展開していくことで、地域共創を加速・拡大していきます」と語りました。