2023.2.13
スマートフォンが、住民に「力」を与えてくれる
スマートフォンは、村まるごとデジタル化における「接点」
「DX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉が世の中を賑わせていた2019年の冬ごろ、私は司馬遼太郎の『竜馬がゆく』を読んでいました。坂本龍馬は船(軍艦)の重要性を考えていましたが、龍馬の危機感や問題意識を今の日本に置き換えて考えてみると、『船』に該当するのはスマートフォンだろうと感じたのです」
こう話すのは、高知県 日高村役場 企画課 主幹の安岡周総さんです。安岡さんは、デジタル技術が人々の生活をどう変えるのかについての議論が不十分な状態で、DXという言葉だけを唱える当時の風潮に疑問を感じていたと回想します。
「DXによって、あらゆる世代の住民の生活がどう変化するのか、その視点が抜け落ちているように感じていました。これが自治体全体のデジタル化と、接点として全住民にスマホが必要だという事業のアイデアの源泉になりました」
安岡さんは企画書を作り、日高村の課題解決にはスマホの普及が必要だと提唱します。課長などの上長や関連部署と議論を重ねながら、委託先の公募実施に漕ぎ着けました。そうした安岡さんの思いとKDDIの課題意識が一致して、今に至ります。
スマートフォンは、人々に「選択肢」を提供し、力を与えるツール
なぜスマホ普及率100%を目標としたのか。安岡さんは「大切なことは、人々が現状維持バイアスを乗り越え、自らの選択肢を持つことです」と強調します。スマホは単なるツールに過ぎません。選択肢の提供のためにどのようなサービスを展開するかが重要です。その必要性や意義をどう知ってもらうかを考え抜いた結果、日高村は生活支援に直結する4つのアプリを選定しました。
1つ目はコミュニケーションです。情報の伝達やユーザー同士の会話の促進として「LINE」が選ばれました。2つ目は高知県が開発した「高知防災アプリ」。高知県は南海トラフ地震や台風への備えを常に考えている防災意識の高い県なので、地域情報に強い防災アプリは必須でした。
次は健康アプリの「ポケットヘルスケア(※)」。個々人の健康管理や運動不足の解消に役立つことは、一人ひとりの生活の質の向上はもちろん、行政にとっても保健に関わる支出の抑制などに効果があります。適切なインセンティブを設定することで、住民の皆さんの健康意識の向上を目指しています。そして最後が経済活動に直結する地域通貨アプリの「chiica(チイカ)」です。健康増進でのポイント還元やスマホ利用に関する補助に経済性を組み込むことで、利用の定着を促しています。
(※)2022年秋に日高村でのサービスは終了。現在、新健康アプリ「まるけん」に移行を開始。
スマホを利用することで、自分の手のひらの上で、自分に必要な情報や手続きに簡単にアクセスできるようになります。住民の方々に「自分でスマホを操作し、自分に必要なことができた」という体験を積み重ねることで自尊心を高めていただきたい、つまりはエンパワーメント(力を与える)したいと考えています。
事業開始から約1年で、スマホの実質普及率は86%を超えました。村役場には、「おかげで使えるようになったよ。ありがとうね」という声も届いています。しかし、「頑張ったのは住民の皆さんです」と安岡さんは強調します。
「変わるという行動には、勇気や行動力が必要です。だからこの事業は、日高村の住民の皆さん自身の手によって実行されたと言えるのです。KDDIは、大義を持って取り組むことを組織のフィロソフィーにしていると感じますし、この事業では投資してまでサポート役に徹してくれており、とても感謝しています」