2023.08.31

自分が助かるだけではないスマホの使い方

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KDDIは通信事業者のサスティナビリティ活動のひとつとして、「スマホ de 防災リテラシー」という出張授業を2017年9月から行っています。対象は高校生で、これまで講座を68回開催し、累計受講者数は3,000名(2023年3月末時点)を超えています。

「スマホ de 防災リテラシー」では、大災害が起きたという想定で机上の地図を見ながら安全な避難経路や避難所、救助に向かう場所をリアルのコミュニケーションとスマホでの遠隔コミュニケーションを駆使しながら決定していくグループワークです。専用のチャットアプリを利用して、複数の班に分かれて行います。

「スマホ de 防災リテラシー」講座は、子ども達の情報リテラシーを高める上で「防災」というシーンが有効ではないかという発想で生まれました

なぜなら、情報伝達の正確さは、特に防災に関して重要だからです。正しい情報が正確に伝えられれば助かる命がたくさんあり、二次災害を抑えられる可能性があります。一方で、誤った情報が流れることはデマの元になり、誤った情報に基づいた避難行動により、命が失われてしまうかもしれません。防災用の学習ツールを開発することで、正しく情報を伝達する練習ができるのではないかと考え、スマホde防災の取り組みを始めました。

KDDI コーポレート統括本部 総務本部 総務部 CSR推進G 日野有子KDDI コーポレート統括本部 総務本部 総務部 CSR推進G 日野有子

いまの高校生はスマホの使い方に長けています。また、体格も大人と同様にしっかりしています。例えば、災害時に一人暮らしの高齢者や保育所の子ども達が動けなくなってしまったとき、高校生がスマホなどのツールを正しく使えるようになれば、正確な情報をもとにして安全に彼らと一緒に避難することも可能です。

「自分たちが人を助けられる力を持っていることを、高校生に気づいてもらいたいという思いもあります」と、三島教授は話します。

中部大学 現代教育学部長 現代教育学科教授 博士(心理学) 三島浩路さん中部大学 現代教育学部長 現代教育学科教授 博士(心理学) 三島浩路さん

対面とリアルのコミュニケーションで集めた情報をもとにミッションをクリア

「スマホ de 防災リテラシー」講座は、アメリカの社会心理学者アロンソン・エリオット氏が提唱するジグソー法をモデルに設計されています。ジグソー法とは、グループ内の一人ひとりがそれぞれ情報を得て、その情報をグループ内のメンバーに正しく伝達することで答えを導き出したり、アイディアを生み出したりする学習法です。

本講座では、「対面班」として生徒同士がグループに分かれ、地図など情報源となる紙の資料が配布されます。さらに、班の各メンバーがそれぞれ別の「SNSグループ(家族チャットという設定)」から情報を得られる状態で避難経路を探し、救助を行いながら、避難場所へ向かいます。

対面、SNSともに情報量が多く、ミッション達成には関係ない情報(デマ情報など)も含まれているため、必要な情報を取捨選択し、効率よく正確に伝えることが必要となります。

講座専用のスマホ端末とチャットアプリ講座専用のスマホ端末とチャットアプリ
グループワークのイメージグループワークのイメージ

スマホや資料を配布して講座を開始すると、はじめは対面でのコミュニケーションに戸惑う高校生もいるそうです。

「講座ではあまり話したことがない生徒同士でグループを組むことがあります。そうすると、中には話し出すきっかけを掴めない生徒さんもいらっしゃいます。でも、自分の中で情報をため込んでいると避難が難しいため、「みんなで話してみたら?」などとフォローすることがよくあります。この講座では、全員が均等に情報を出し合わなければ最適な避難場所や避難ルートを見つけることは難しく、スマホでのやり取りに加えて、対面での話し合いもとても重要です。
また講座後半では、全員で避難場所や避難ルート、救助の有無について答え合わせを行います。本当は通れないルートを選択してしまった、救助ができなかったなど、全てのミッションを全員が達成することは難関です。ですが、たとえ避難や救助に失敗してしまったとしても、なぜ失敗してしまったかを考えることが大切な学びになると思っています」(日野)

地図に関しては、汎用性のあるような地図であると同時に、道がY字路になっていたり、トンネルが2つあったりと、詳細な説明をしなければ避難できないように作っています。

ワークショップで使用する地図ワークショップで使用する地図

学習指導要領の改訂や東日本大震災が起きた後の教育などによって、講座開講時の2017年から現在までに子ども達の意識が変わってきていると日野は話します。

「最近の学校の授業では、自助、公助、共助、またガスや水道などのライフラインを担う事業者が災害時に事業継続するための取り組みなどを取り扱っています。子ども達は防災に対して、自分から遠い世界ではなく、身近なものに捉えられるようになってきていると感じています」(日野)