2023.7.31
必要なサービスを住民と企業と一緒に作り上げていく―春日井市の挑戦
地域が抱える課題にどう向き合うか
春日井市は名古屋市のベッドタウンとして発展してきた街で、書の三筆の一人である小野道風が生まれた地とも言われています。オンデマンド型自動運転送迎サービスを高蔵寺ニュータウン石尾台地区で進める、春日井市まちづくり推進部都市政策課 津田哲宏さんに話を伺いました。
高蔵寺ニュータウンは、春日井市の東部に位置し丘陵地を切り開いたところにあります。春日井市は2016年3月に「高蔵寺リ・ニュータウン計画」という行政計画を定め、高蔵寺ニュータウンを1つのモデル地区として、多様な施策を推進し、その成果を市全体へ横展開していくことを目指しています。一方で「名古屋大学COI」*2においてモビリティサービスを研究していた名古屋大学と、郊外団地型モデル(ニュータウンモデル)を作っていきたいという思いが合致します。そこで、名古屋大学が目指していた、ゴルフカートを使ったラストマイル自動運転サービスの実証実験が高蔵寺ニュータウンでスタートしました。
なぜ、石尾台地区だったのかというと、1つに、石尾台は高蔵寺ニュータウン全体より高齢化率が10%ほど高いエリアだという点です。また、丘陵地を切り開いたところで坂が厳しく、地区の中に生活に必要なスーパーや病院、薬局などあるものの、近い距離でも高齢者にとって移動が大変であるといった課題が顕在化しています。しかしその反面、住民の自治活動が活発で、自分たちで自主的に地域を盛り上げていくような活気のある方が多く住んでいると津田さんは言います。
「もともと住民の発意で外に出かけられない人たちを何とか外に連れ出したいと、近所のスーパーやクリニックなどにボランティアで送迎するということが行われていました。我々としても、せっかくの取り組みを終わらせたくない、名古屋大学と協力して技術を入れることによって、サービスとして持続可能なものにしていきたいという思いがありました」
オンデマンド型自動運転送迎サービスは現在、石尾台という700〜800m四方の狭いエリア内の移動に活用されています。住民からは、「買い物に行きやすくなった」「友達と一緒に集会に行けるようになった」「病院にも安心して行けるようになった」とうれしい反応があるそうです。
*2:センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム。文部科学省が採択する、10年後の目指すべき社会像を見据えたビジョン主導型のチャレンジング、ハイリスクな研究開発を最長で9年度支援するプログラム。
ワークショップ〜検討会〜準備会と、住民の意識変化
春日井市は、名古屋大学、株式会社エクセイド(以下、エクセイド)、KDDIと実証実験を進めながら、一方で名古屋大学の協力のもと、住民と地域の交通を考えるワークショップを重ねてきました。
そしてワークショップを数回重ねた上で、今度はサービスを考える検討会を立ち上げ、検討会を1年くらい続けてステップアップするような形で準備会に移行していきました。最後は、そこから今回のサービスを運営するNPO法人へなっていくわけですが、ここまでに3年以上かけています。
「まず、地域の移動を考えていこうということでワークショップをスタートしました。いま、サービスはどうだ、バスやタクシーはと。困っている人はどうだろうと。複数のグループに分けて、その中に地域の人もいれば、交通事業者もいれば、地域包括支援センターの職員に入ってもらったり、多様なステークホルダーが混ざったグループを作って話し合いをしてもらい、最終的にこの地域に何が必要か、をみんなで考えていきました」
並行して名古屋大学、エクセイド、KDDIらとの実証実験を行っていたため、住民の多くは、当初やはり「春日井市と大学、KDDIが何をしてくれるか」というような感じで話を聞いていたと言います。時間をかけて、ワークショップや検討会、と進めていくことで、「そうじゃない、自分たちでなんとかしないといけない」と住民の意識がより強く変化していったのです。それが今の活動につながっているということになります。
今、サービスの運営をNPO法人が担うことで、持続した運用ができるようになっています。一方で、NPO法人の幹部は平均75歳を過ぎており、層を厚くしていくことが次の課題だと津田さんは捉えています。
石尾台というモデル地区として、住民および行政それぞれの課題意識、大学のプロジェクト、そのつながりでKDDIとの接点もできたという形で、それらがうまく融合してオンデマンド型自動運転送迎サービスが形になったと言えます。ただ、サービスとしてスタートはしたものの、まだまだ過渡期で、大事なのは今後よりこのサービスを持続性のあるものに昇華していくことだと津田さんは言います。
KDDIのみなさんには、実証実験の段階から、ごく初期から地域に入ってくれているということは1つ大きいと感じています。その中で、徐々に地域との接点が大きくなってきているのではないかと感じています。地域の声をしっかり拾ってくださっている、地域、大学、KDDIでの話し合いの場を、連絡体制をしっかり敷いて、密にやらせていただいているので、いい関係は築けているのではないかと思います。ただ、サービス自体、仕組みとしてはまだ過渡期です。より便利に、より地域の人の負担が減るような形にできるよう、ぜひ一緒に走り続けてもらいたいと考えています」