多様性を尊重し誰もが活躍できる社会へ KDDI「障がい者向け長期インターンシップ」の現場から
経済産業省が推進する「ニューロダイバーシティ」を知っていますか? Neuro(脳・神経)とDiversity(多様性)のふたつを組み合わせたこの言葉は、脳や神経にまつわる個々の違いを「多様性」として捉えて相互に尊重し、社会のなかで生かしていこうという考え方です。少子高齢化や人口減によって就労人口の減少が社会課題となるなか、企業の新たな人材獲得戦略のひとつとして関心を集めています。
「ニューロダイバーシティ」はとくにIT業界において注目度が高く、発達障がいや自閉症といった神経疾患をもつ人が、その集中力や独創性を生かしてデジタル分野で活躍する可能性があることが研究で示されています。
● KDDIが障がい者向け長期インターンシップを開始
一方、障がい者の雇用や就労を取り巻く状況に目を向けると、十分とはいえない状況が続きます。障がいのあるなしに関わらず、誰もが活躍できる共生社会の実現を目指し、政府はかねてより障がい者の雇用対策を進めてきました。企業が雇用すべき障がい者の割合(法定雇用率)はこれまで約5年ごとに改正され、2024年3月時点の2.3%から2024年4月の改正で2.5%、2026年7月から2.7%と段階的に引き上げられます。しかしながら、障がい者の就職やスキルアップの機会は依然として不足しており、社会課題となっていることに変わりはありません。
そんななかKDDIは、障がい者向けの長期インターンシッププログラムを開始しました。このプログラムは、障がい者手帳を持つ学生や既卒者を対象とし、6カ月の長期にわたってIT基礎研修やDX研修、現場でのOJT(職場内訓練)、社会人としての基礎力研修を実施し、即戦力として育成するというもの。プログラムを修了し、KDDIへの就職を希望する参加者は、選考を経て本採用へと至ります。
第一期は2024年4月から6カ月にわたって実施され、選考後に8名を本採用。研修で得た知識や経験を生かし、さまざまな業務に就いています。
● 多様な人財の雇用や活躍推進への取り組みの一環
KDDIが障がい者の長期インターンシップの受け入れを開始した経緯と狙いについて、プログラムを企画したKDDI 人事本部 人事企画部の森野 修平は次のように話します。
「KDDIは、誰もが思いを実現できる社会の実現に向け、多様性の尊重に取り組み、多様な人財の雇用や活躍推進を続けています。障がい者雇用の面では、KDDIの特例子会社であるKDDIチャレンジドとともに、携帯端末の分解業務やカフェ運営業務など、障がい者の就労機会創出の取り組みを実施してきました。それらをより深化させるためには、KDDI本体でもより積極的に取り組むべきなのではないか。そういった考えのもと、障がい者向けの長期インターンシッププログラムの実施に至りました」(森野)
プログラムの企画で特に意識したのは、障がいのある人もない人も、同じフィールドで活躍できる仕組みづくりです。
「障がいのある人が働くうえでの配慮はそれぞれ異なりますし、まわりの理解も欠かせません。そこで、一定期間、インターンシップというかたちで研修を重ねていくのがベストだと考え、『長期』というかたちを取りました。6カ月という長い期間をかけることで、ご本人の障がいに対する周囲の配慮や理解が深まるため、双方にとってメリットのある方法だと考えています」(森野)
● インターンシップで障がい者を受け入れて感じたこと
障がい者のインターンシップの受け入れ部署であるKDDI コーポレートシェアード本部 シェアード高度化推進部の藤井 美帆は、「当初は不安がなかったわけではない」と振り返ります。
「私にとっても初めての経験なので、『どんな業務を任せたらいいのだろう』『どういったサポートが必要なのだろう』といった思いもありましたが、配属された障がいのある方は、仕事のスキルやコミュニケーション能力が高く、業務をスムーズにこなしてくれています。障がいのある方と働くことで、障がいに対する理解をより深めるきっかけにもなりました。一定の配慮やサポートを考慮したうえで、障がいのあるなしに関わらず、みんなが気持ちよく働ける環境づくりを部署全体で目指しています」(藤井)
人の性格が一人ひとり違うように、障がいも一人ひとり異なります。大切なのは、周囲がそれを理解し、配慮するよう努めること。そして、障がいのある方にとっては、どういった配慮が必要かを、周囲にきちんと開示することです。今回の取り組みではそのためのカリキュラムにも力を入れました。
「インターンシップ3rd stageの現場OJT初日に、グループメンバー全員で顔合わせをしました。そのとき、ご本人から、私はこういう障がいをもっていて、こういう配慮が必要です、といったことを自ら話してくれたのですが、それによってどのように接するべきかという戸惑いがなくなり、部署全体の空気が一気に和らぎました。その方は向上心が高く、入社後も責任感を持って仕事に取り組んでいただいており、部署内に良い影響を与えてくれていると感じます」(藤井)
● 長期インターンシップが課題解決に果たす役割とは
障がい者雇用にまつわる課題に対して、長期インターンシップが果たす役割とは?取り組みへの思いや今後の展望を、森野と藤井に聞きました。
「障がいのある方のなかには、働く意欲やスキルは高いものの、活躍の場を見いだせずにいる方が少なくありません。そういった方々に働く場所を提供することは、ご本人のキャリアアップやスキルアップはもとより、KDDIの事業成長にもつながると捉えています。また、それだけでなく、日本が抱えるさまざまな課題の解決にも役立つと考えています。経済産業省が推進する『ニューロダイバーシティ』の考え方にも私たちは共感しています。発達障がいなどの方がその集中力や独創性を生かし、ITやDXといったデジタルの分野で能力を発揮する事例が多く生まれていますし、デジタル分野はKDDIの強みであり、参加者のみなさまに私たちが期待している部分でもあります」(森野)
「他部署の人やグループ会社の人と話しているなかで、『障がい者雇用に割けるリソースは限られている』『どういった業務を任せたらいいのかわからない』といった声を聞くことがあります。障がい者雇用にまつわる課題は一筋縄ではいきません。私たちが今回の取り組みで得た知見や経験を、他の部署にも共有し、グループ会社にも横展開していくことで、課題解決に向けた一歩を踏み出すステップにつなげていきたいと考えています」(藤井)
● インターンシップを経て入社した社員の声
障がい者向け長期インターンシップの参加者は、どのような思いで応募したのでしょうか?そして研修中に学んだことや感じたこととは?インターンシップを経てKDDIに入社した社員は次のように語ります。
「金融業から異業種への転職を希望し、業務内容もデータ入力にとどまらない一般雇用に近い仕事をしたいと考え、インターンシップに応募しました。6カ月におよんだ研修では、ITやDXの基礎学習のほか、アジャイル開発や生成AIなどについて学習。生成AIは日常生活にも役立ちました。インターンシップで得たものは、ITやDXの知識だけではありません。支援してくれる方々のありがたさを肌身で感じ、”人の温かさ”に感動しました。今回のインターンシップを通じて、KDDIが多様性を大切にする企業であることを実感し、自分もこの会社で働きたいと思い、入社を決めました。今後は、自分の強みである計画性と実行力を生かし、業務をしっかりと遂行することで、会社に貢献していきたいです」
KDDIの障がい者向け長期インターンシップははじまったばかり。2024年4月から実施された第一期に続き、2024年11月から第二期のプログラムが実施されています。KDDIはこれからも、障がいのある人の就職やスキルアップの支援などさまざまな取り組みを通じて、誰もが活躍できる共生社会の実現を目指していきます。