2024.01.26
「5G+MEC」が可能にしたエネルギープラットフォームとは
分散型電源をリアルタイム・低コストで制御する「5G+MEC」
仮想発電所(バーチャルパワープラント/VPP)は、デジタル時代の今だからこそ実現した技術です。auエネルギーホールディングス傘下のauエネルギー&ライフ株式会社 浜口智洋は、「auエネルギー&ライフはお客さまに家庭用蓄電池等住宅機器に関連したエネルギー関連のマネジメントサービスを提供していきます。そのお客さまは、エナリスが運用するプラットフォーム(DERMS)を通してVPPに参画することになります」と両者の役割分担を説明します。
しかしVPPの効率化や合理化の実現には、解決すべき大きな課題が残されています。
「従来のVPPのボトルネックは、端末コストと通信遅延の2つです。つまり、1. 端末側でデータ処理をできるよう高性能IoT機器(ゲートウェイ)を使用するため、機材コストが高価になる。2. 端末とクラウド(データセンター)の通信および処理にLTE回線などの通信網を経由するため、遅延しやすい。具体的にはLTEは60秒周期、DERMS(分散型電源マネジメントシステム)の制御遅延に0.1秒を要していました」と、株式会社エナリス みらい研究所 所長 小林輝夫は説明します。
機器の高性能化だけが解決策なのかと日々思案していた小林は、KDDIがAmazon Web Services (以下、AWS)と5Gネットワークエッジで超低遅延を実現する「AWS Wavelength」の提供を開始するとのニュースを見て閃きます。
「『これだ!』と思いました。ゲートウェイとDERMSの一部機能をMEC(Multi-access Edge Computing)であるAWS Wavelengthへ移行させることで、平均0.05秒以下のリアルタイム制御が可能になります。さらにリソース(発電機や蓄電池など)につながる機器も安価な汎用5Gルーターに置き換えができます。スピードとコスト、両方の課題の一挙に解決できると期待しました。しかもAWSのこのサービスを提供するのは世界でたった4社のみ。そのうちの1社がKDDIであることにも驚き、すぐにKDDIへ検証協力を依頼しました」(小林)
そもそも、なぜこの仕組みが不可欠だったのでしょうか。浜口は次のように説明します。
「電力取引市場へ参加するには1メガワット(1,000キロワット)以上の発電が必要です。一方で、実際の家庭用蓄電池等の機器は数キロワット程度しかないため、数千、場合によっては数万世帯の電力を束ねる必要があります。また、電力の需要と供給のバランスをとるために必要な需給調整力として使うには、各ご家庭で電気の使い方が異なる中で、その束ねた電力を電力会社からの指示に対して±10%以内に抑え、制御し続けなければなりません。分散型電源をどのようにして制御して要件に合致させるかが技術的な難題でした。5G+MECの活用という解決策は、まさにエナリスとKDDIの相乗効果の結晶だと思います」(浜口)
ご家庭が電気を「つくる・使う・つなぐ」時代へ
小林は、重要な課題であった電力の周波数測定も、5G+MECが解決の糸口になったと話します。
「電力会社は発電所に周波数測定装置を設置しています。しかし高価な機器であり、例えば太陽光発電パネルを屋根に設置している家庭のすべてに周波数測定装置を置くわけにはいきません。ですが『代表点』を決めて測定し、その結果をMEC経由で他の拠点も制御する仕組みならばビジネスモデルとして成立します。発明と言っても良いこの仕組みを経済産業省や関係省庁へ提言しているところです」(小林)
この仕組みは太陽光発電だけでなく、電気自動車にも有効です。発電・蓄電の設備を持つすべての場所が発電所となって社会とつながる未来もそう遠くありません。
「これまでご家庭にとって電気は使うもの・消費するものでした。ご家庭が発電所になる近い将来は、自宅で発電した電気を自らマネジメントする時代へと変化します。そのとき、エナリスとauエネルギー&ライフが提供するプラットフォームに接続しておくだけで、お客さまは日常的な手間が何もかからず、最適な管理運用に加え、電気料金削減などのメリットを得られます」(浜口)
日本での太陽光や風力等再生可能エネルギーの発電割合は1割弱です。しかし、5G+MECを利用することで、電力の消費者が、電力需給の安定化に貢献できる時代が拓けてきます。ご家庭自らが「電気をつくる・使う・つなぐ」ことが社会の脱炭素化の一助となる―そんな社会を実現するために、KDDIグループはチャレンジを続けていきます。