生活に身近な存在となった携帯電話。じつはこの小さな端末の中には、金や銀、パラジウムといったレアメタルなどの資源が眠っています。このような鉱物は、埋蔵量に限りがあるもの。使わなくなった携帯電話がゴミとして焼却されてしまうと、この希少な資源は失われてしまいます。
使用済み携帯電話の中にある資源を再利用するため、KDDIがリサイクルの取り組みをスタートさせたのは2005年のこと。これまでおよそ3,000万台の携帯電話を分解して素材に戻し、再び活躍の場を与えてきました。
.jpg)
KDDIの携帯電話リサイクルは、99.8%という高い再資源化率を実現しています。再資源化できていないのは、バッテリーなどに貼られた紙のシールのみ。それ以外の素材は全て、ほかのものに生まれ変わっています。
高い再資源化率のポイントは「手分解」にあります。携帯電話の分解は機械で行うのが一般的ですが、再資源化率は70~80%にとどまってしまうのです。
そんな手分解の主役は、細かい作業が得意で高い集中力を誇るスタッフたち。彼らの力で、ほぼ全ての素材をリサイクルできるようになったのです。
.jpg)
限りある資源を循環させ、環境にやさしい社会へ。KDDIの携帯電話リサイクルの挑戦は続きます。
携帯リサイクルに込めたKDDIの思い
レアメタルの宝庫、携帯電話を「ゴミ」から「資源」に——。使用済み携帯電話をリサイクルする取り組みは、2005年にスタートしました。
当時、携帯電話の普及率はほぼ7割に達し、店頭には次々と魅力的なニューモデルが登場。買い替えにより、使用済み携帯電話は増える一方で、回収とリサイクルが大きな課題となっていました。
徹底したリサイクルで環境保全に貢献
2005年、KDDIは会社を挙げて環境問題に取り組むことを発表し、その一環として携帯電話のリサイクルをスタートさせました。auのお店に、回収用のリサイクルボックスと、個人情報を取り出せないようにするための破砕機を設置。回収した携帯電話は手分解によって99.8%が新たな素材に生まれ変わっています。
「CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)活動の一環として始まった環境問題への取り組みですが、今では中期経営戦略の中でも重要な位置づけとなっています」こう話すのは、サステナビリティ経営推進本部の上岡悠太です。
.jpg)
限りある資源を再利用することで、レアメタル採掘や、機械で分解するために発生する二酸化炭素による環境破壊に歯止めをかけ、カーボンニュートラルの実現につなげたいと話します。
「家に眠る携帯電話」に新たな価値を
リサイクルが始まった2005年から、携帯電話を取り巻く環境は大きく変化しています。通信技術は3Gから4Gを経て、5Gの時代になり、端末は今や高い機能を備えたスマートフォンが主流となっています。フィーチャーフォンの時代に比べて、1台のスマートフォンを長く使う方が増えており、リサイクルに出てくる端末は減少傾向にあります。
そのため、これからは、家に眠っている携帯電話の発掘が課題だと上岡は話します。しかし、そこには難しい問題があります。
「携帯電話は、常に肌身離さず持っているものだけに、思い出とともに手元におきたいという人が少なくありません。また、KDDIの携帯電話は著名なデザイナーが手がけた端末も多く、モノとして持っておきたい人も多いのです」
.jpg)
リサイクルの活動に興味を持っていただくために、今後、上岡が検討しているのは、リサイクルされたあとの姿を知ってもらうための取り組みです。「持ち込んでいただいた携帯電話が、これまでどれくらい再資源化されたのか、どのような姿に生まれ変わったのか、どれだけCO2を削減できたのか、といったことをイメージできるようにしたいですね。携帯電話の新しい活躍の場を知っていただくことで、よりお客さまの心の中に思い出として残るのではないかと思うのです」
環境のために、大切な資源を新たな姿に生まれ変わらせるために、KDDIはこれからも携帯リサイクルに取り組んでいきます。
ほぼ100%の再資源化率を支える「手分解」の舞台裏
使用済み携帯電話の再資源化率、99.8%。この高い数値を可能にするのが、人の手を使った端末の分解です。
「機械で分解すると、再資源化率は70~80%にとどまってしまいます。環境に配慮した循環型社会を目指す私たちは、ほとんどの素材を再利用できる手分解にこだわってきました」KDDIチャレンジドの大屋瑞夫は、携帯電話のリサイクルを支える仕組みと技術について、このように話します。
.jpg)
携帯電話がバラバラの18種類のパーツに
1カ月に約5,000台という使用済み携帯電話の分解を担当しているのは、6人の分解担当者。繰り返しの作業を得意とし、高い集中力を持つ知的障がいのあるスタッフです。
作業場ではスタッフが、慣れた手つきで手際よくパーツを外していきます。驚きの速さで外されたパーツは机の上のケースに分別され、ある程度まとまったところで大箱に運びこまれます。使用済み携帯電話は最終的にネジやカメラ、スピーカーなどの18種類のパーツに分けられ、リサイクル業者に渡されます。
.jpg)
「分解を始めた当初は、リサイクル業者の協力を得てマニュアルを作成し、わからないところは教えてもらいながら分解を進めていました」大屋はこの事業が始まった時のことを、こう振り返ります。
他キャリアの端末も含め、携帯電話は多種多様なため、個別の分解マニュアルはありません。新人はベースとなる端末のマニュアルを見ながら分解の基本を覚え、あとはベテランスタッフに教えてもらいながら、複雑な端末の分解を覚えていきます。
ちなみに、分解が難しいのは、au携帯電話の中でもファンの多い「G'zOne」シリーズ、通称G-SHOCK携帯。「防水仕様でつくりも頑丈なため、部品を外すのには特に技術が必要です」(大屋)
作業の工程は大きく3つに分かれています。最初はネジを隠すカバーやシールを外す「仕分け」という作業。次は電動ドリルをつかってネジを外します。最後にバラバラにして18種類のパーツに分別して終了。
.jpg)
それぞれの工程を6人のスタッフが一斉に行い、次のステップに進むという形で効率よく分解しているのだとKDDIチャレンジドの堀内定幸は話します。
.jpg)
KDDIは手分解の携帯電話リサイクルを通じて、より多くの素材を再資源化することで、地球にやさしいリサイクル社会への取り組みを進めていきます。
リチウムイオン電池のリサイクル——エマルションフローテクノロジーズの挑戦
「2025年、リチウムイオン電池に含まれるレアメタルが供給不足に陥る可能性があります」こう話すのは、レアメタルのリサイクルに取り組むベンチャー企業、エマルションフローテクノロジーズ(以下、EFT)の代表取締役社長を務める鈴木裕士さんです。
.jpg)
リチウムイオン電池は、携帯電話や電気自動車の充電池として使われており、今後、2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量が差し引きゼロの状態を作ること)の実現や、パリ協定に基づくCO2排出量削減目標の達成を目指すために需要が拡大すると予想されています。
一方で、リチウムイオン電池をつくるのに欠かせないコバルトやニッケル、リチウムは他の国々でも需要が高まることから、確保が困難になるとみられています。
そもそもレアメタルの採掘にはさまざまな問題があると鈴木さんは指摘します。「採掘に伴う環境破壊やCO2排出問題、児童就労の問題、そして資源が原因で紛争が起こることも少なくありません」
劣化した使用済み充電池が「新品の充電池」に生まれ変わる
こうした中、EFTが提案するのが「リチウムイオン電池のリサイクル」です。何度も充電しているうちに劣化して使えなくなった使用済み電池から、希少な資源であるコバルトやニッケル、リチウムを取り出し、再び電池の材料として使おうというのです。
使用済みリチウムイオン電池に含まれるレアメタルを、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構が開発した「エマルションフロー」という溶媒抽出技術を使って抽出します。
「使用済みの充電池をこなごなに粉砕し、粉になったものを硫酸や塩酸に溶かします。その液にイオンとして溶け込んでいるレアメタルを抽出剤を使って取り出していきます」
.jpg)
これまで金属の精錬には大規模な装置を使う必要があり、多大なコストや人手が必要でした。エマルションフローは装置を小型化することで、レアメタルリサイクルのハードルを下げ、レアメタルリサイクルの裾野を広げることを目指しています。
.jpg)
「私たちの目標は、車や携帯電話など、製品にリチウムイオン電池を使う企業の生産工程の中に、レアメタルリサイクルが組み込まれる“水平リサイクル”を増やしていくことです」
KDDIは2022年9月、EFTに出資したことを発表しました。鈴木さんはKDDIに期待することとして、「使用済み携帯電話リサイクルの啓蒙」を挙げています。
というのも、レアメタルのリサイクルは、携帯電話ユーザーの方々のご協力なしには実現が難しいのです。
.jpg)
「家に眠っている使用済み携帯電話やスマートフォンの回収が進まないと、この事業は成り立ちません。そのためにも、使用済み携帯電話を持ち込むことで、どれだけ環境保護に貢献できるのか、持ち込んだ携帯電話がどんなふうに生まれ変わるのか、ということを消費者のみなさんにお伝えすることがとても重要です。こうした取り組みをする上では、携帯電話の販売を通じて消費者とつながっている、KDDIさんの協力が欠かせません」
いつか充電池のリサイクルがペットボトルと同じくらい、あたりまえになるように——。KDDIはエマルションフローテクノロジーズと手を携えて、レアメタルリサイクルに取り組んでいきます。