2023.5.22

自律航行を行う水上ドローンの技術

  • カーボンニュートラル
  • スマートドローン
  • 地域共創

水上ドローンの大きさは全長2.5m、横幅1.5m、これは船舶の登録が必要のないサイズかつ、転覆しない程度の大きさが必要だということで設定されています。スマートフォンのアプリからコマンドを送ると、水上ドローンはそれを受信したコマンドに応じて動作するという仕組みです。一度の充電で約8時間稼働することができます。

操縦用の専用アプリ画面操縦用の専用アプリ画面

アプリ経由で進む、止まる、左右に舵を切るという操縦ができるほか、設定した目的地まで自律航行させることも可能です。波で流されてもGPSを使って目的地までたどり着くことができます。
カメラは昇降装置を上げ下げすることで水中カメラを必要な深さまで降ろし、水中で撮影した映像はリアルタイムでスマートフォンに送信されます。

水上ドローンの仕組み水上ドローンの仕組み

海の上は常に波が起きているため陸上とは全く環境が異なります。この波揺れの影響をいかに対処するかが非常に大きな課題でした。
実は、過去の実験で一度失敗していると言います。そのときのことを高橋はこう振り返ります。

KDDI総合研究所 共創部門 イノベーション推進グループ 高橋 幹KDDI総合研究所 共創部門 イノベーション推進グループ 高橋 幹

「陸上で実験したときは水中カメラの映像がスマートフォンに届いたのですが、海上に出ると映像が届かなくなりました。陸上で水上ドローンを揺すって動作確認してもスマートフォンに映像は届きます。海上での不具合を再現するため、水上ドローンを入れられる組み立てプールで動作確認したら、海上のときのように映像が切れました。陸上で人が揺するのと、海上の波で自然に揺れるのとでは揺れ方が違うので、陸上では不具合が起きなかったのです」(高橋)

カメラにつながるケーブル部分。実証実験の前に起きた不具合を受けて改良を行った。カメラにつながるケーブル部分。実証実験の前に起きた不具合を受けて改良を行った。

これが研究開発の難しいところで、特に海という自然を相手にした実験では、現場で起こり得る様々な可能性を検証する必要があります。鳥羽市で実証実験する前に、海水プールを持つ工場施設を借りて事前に何度も試験をしていたと言います。

研究を価値につなげる

KDDIは前身のKDD時代から海底ケーブルの敷設、運用を行ってきました。海底ケーブルの点検用に無人機を駆使して画像を撮影したり、あるいは海中の音響通信に詳しい者がいたりとノウハウもあって海洋DXに進出しやすかったと高橋は言います。
こうした話から見えてくるのは、技術的知見や研究成果をうまく社会につなぐ役割の重要性です。

「研究者はわかっていないことを明らかにしたいと研究をしています。しかし私たちは企業なので、それをうまくビジネスにつなげる仕組みを作っていきたい。今の時代は特に、研究を社会につなぐ役割が必要なのではないかと思います」(高橋)


このプロジェクトは「脱炭素社会の実現に貢献する水上ドローンの開発」として第31回地球環境大賞 総務大臣賞を受賞しています。また、総務省所管の公的研究機関に研究提案が採択され、外部資金を得ながらさらに多くの人が輪になって次の段階に進んでいます。

吉原は今後の展望について、横展開に向けた課題整理が必要だと言います。

KDDI総合研究所 シンクタンク部門渉外リサーチグループ 吉原貴仁KDDI総合研究所 シンクタンク部門渉外リサーチグループ 吉原貴仁


「まず、実際に現場に導入できるくらいのコストに抑える必要があります。同時に、安全性を益々向上させなければなりません。たとえば自動接岸機能や障害物の回避機能など、地元の人たちに受け入れてもらえるような安全性、操作性のよさ、かつ低コストなものにしていかないと続かないし、広がらない。そこが今後の一番の課題である継続性に大きくかかわってくると思っています」(吉原)