KDDIトビラ

AIと量子コンピューターが変えるビジネスの未来。次世代技術の最前線を語る―KDDI SUMMIT 2025

2025年10月28日から29日にかけて、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)の会場とオンラインのハイブリッド形式で開催された、KDDIグループ最大級のビジネスイベント「KDDI SUMMIT 2025」。KDDI 執行役員の藤井 彰人が、「AIで変える、ビジネスの"あたりまえ" ~AIから量子まで、テクノロジーから見える未来の選択肢~」と題したセッションに登壇。AIの急速な進化により、ビジネスの現場では従来の常識が覆されつつある状況を踏まえ、先端技術のキーパーソンたちとともに、AI活用の現状から、その先の量子コンピューティングの未来まで、幅広く議論しました。

KDDI 執行役員 先端技術統括本部長 兼 先端技術企画本部長 兼 先端プラットフォーム開発本部長 藤井 彰人
KDDI 執行役員 先端技術統括本部長 兼 先端技術企画本部長 兼 先端プラットフォーム開発本部長 藤井 彰人

AIが雇用に与える影響とソフトウェア開発現場の変化

セッションの冒頭で藤井は、AIが世界の労働市場を襲い、企業の雇用調整が進んでいることを指摘しました。

「米国では、特にソフトウェア開発者の若年層の雇用が奪われていると言われています。5年前には、『AIを学べばシリコンバレーで、年収2,000万円で働くことができる』と言われていましたが、今は就職さえ難しい状況になり、失業率も上昇しています」(藤井)

米国では特定分野で若年層雇用が縮小

続いて、KDDIが独自に行った日本国内での分析結果を紹介しました。これは、総務省や厚生労働省が公表している労働力調査を参照したものです。

2024年時点では、職種間の差はあるものの、20~50%ほどのタスクがAIで代替可能とされています。それが2030年には、物理的な作業以外のほとんどの職種で60%以上のタスクが代替可能になると予想されており、さらに2040年には80%以上に達する見込みです。

日本でも、2030年までに大半の業務がAIによる自動化の影響を受けると予測

藤井は「次の中期計画を立てる際には、どの職種がどう変わっていくのかを考えながら進めなければなりません。60~80%のホワイトカラーの仕事はAIで変わっていきます。また、AIの影響を受ける業種の筆頭が情報通信業、そして金融業です。私たちの産業が最も影響を受けるということを改めて認識しました」と強調。

ソフトウェア開発の現場ではグローバルに標準化が進んでおり、例としてアジャイル開発のプロセスでAIツールが登場している点に触れつつ、実例としてKDDI社内で使用しているAI開発支援ツールのデモンストレーションを披露しました。

デモンストレーションの様子

「AIの時代、データや通信のリアルな変革が起きており、KDDIはこれを推進していきます」と藤井は力強く語り、一例として、戦略的提携を発表したGoogle Cloudの技術を利用して、コンテンツの新しい提供方法を実現するAIサービスを提供する予定であることを発表しました。

コンテンツ還元サービスとAIエージェントの取り組み

続くセッションパートでは、KDDIでデータとAIを統括しているData&AIセンター長の木村 塁が登壇。藤井が触れたコンテンツ提供のためのAIサービスについて紹介しました。

木村は「人間が作り上げたアウトプットがAIに学習・利用され、それがサービスとして提供されているにもかかわらず、コンテンツ制作者に還元されていない」という現状への課題意識から、サービスを立ち上げようと思っ たと説明。「我々は一つのソリューションとして、コンテンツプロバイダーの方々に対価を支払い、コンテンツをお預かりし、それを加工してAIサービスとしてお客さまに提供します」と、サービスの概要について話しました。

KDDI 経営戦略本部 Data&AIセンター長 木村 塁
KDDI 経営戦略本部 Data&AIセンター長 木村 塁

併せて、既存のAIサービスではリーチできない、ペイウォール(課金や会員登録)の先にあるコンテンツも含めて、お客さまに信頼性のある独自性の高いコンテンツを届けることができると説明しました。

AIでコンテンツをお客さまに届けるサービス

その後、KDDI社内でのAI活用について紹介します。

「2023年から生成AIの導入を進めてきました。成果を出すためには、ユースケースを絞り込み、アプリケーションやAIエージェントを作り込む必要があります。しかし、数万単位である全社の業務に対し、1つずつ作っても間に合わず、考え方を変えていかなければなりません」(木村)

解決策として木村は、AIエージェントによるブラウザ操作を挙げます。社員が人に指示するのと同様にマニュアルや手順書を用意しておけば、AIエージェントが手順書に沿ってブラウザを操作し、コミュニケーションツールの確認や申請などを自動で行えるようになるのです。

「業務手順を整備することは、AIのためでもあるし、新しい部署へ転入した社員のためにもなります。両面に刺さる施策として、技術と地道な活動を組み合わせながら、業務変革に取り組んでいます」(木村)

現場で業務アプリを自動生成する「ELYZA Works」を展開

木村と同じセッションに登壇した、KDDIグループのELYZA 代表取締役 CEO 曽根岡 侑也は、「我々は国内で、グローバルプレイヤーが作るようなLLMに遜色ないモデルを作っていこうと活動しています」と述べ、2019年から6年にわたるLLM研究開発の実績を紹介しました。

株式会社ELYZA 代表取締役 CEO 曽根岡 侑也
株式会社ELYZA 代表取締役 CEO 曽根岡 侑也

直近の取り組みとして、曽根岡は9月にリリースした「ELYZA Works」を紹介。これは、自然言語でAIに相談するだけで業務アプリを作成できるツールで、要件を一文入力するだけで、AIがプロトタイプを作成し、プロンプトやワークフローまでを自動生成します。

「PLにインパクトのある使い方をするには、業務に特化したAI搭載アプリケーションをカスタマイズして作っていく必要性があります。SIerさんに多額の費用をかけてカスタマイズをお願いしなくても、AIに相談して市民開発的アプリを作ることができるのがELYZA Worksです」と解説しました。

実際の活用事例として、経理部門での経費申請の突合作業、人事部門での36協定違反チェック、営業部門でのデータ分析など、多くの成果が報告されており、KDDIでも現場主導でのAI活用が加速しています。

トークセッションの様子

量子コンピューティングも実用化の時代へ

ここからのテーマは量子コンピューティングです。藤井は「AIは冬の時代をいくつも乗り越えて、今、実用化に花開いています。量子もブレイクスルーの種になるのではないかという期待と、冬の時代を何度か経験していますが、ようやく誤り訂正などの技術が登場し、大きな注目を浴びています」と説明しました。

AIは期待と挫折を乗り越えて実用化へ、量子もその軌跡をたどるのかたどるのか

また、ハイパースケーラーが量子の研究を進めていることに触れました。Googleは誤り訂正のブレイクスルーを起こした量子プロセッサを発表し、その流れの中でMicrosoftをはじめとしたいくつもの企業が量子に取り組んでいます。次世代のネットワーク、GPU、AIの先にある連携基盤を考えながら量子分野に踏み込んでおり、今後の社会インフラとして機能する未来が見え始めているのです。

ただし、両技術の関係性について「AIが量子に置き換わるイメージを持たないでいただきたいです。それぞれに得意分野があり、両方が融合して初めて本当の価値が生まれるのではないかと思います。リアルな世界の課題を、AIが得意とする課題発見や予測機能で把握し、課題を量子側で最適化してリアルな世界に返すサイクルを回していくことが重要です」と強調しました。

AIと量子をつなぐ

さらに、KDDIにおける量子活用事例として、LTE/5G基地局の大規模パラメーター最適化プロジェクトを紹介しました。

「LTE/5Gの基地局のパラメーター設定は、我々の通信品質に影響を与え、事業の根幹を支えています。基地局のパラメーターは、セルに対して3つあり、3つのパラメーターをどう設定すれば最も効率よく通信品質が確保できるかを考える必要があります」(藤井)

KDDI 執行役員 先端技術統括本部長 兼 先端技術企画本部長 兼 先端プラットフォーム開発本部長 藤井 彰人

1,120局の基地局に対してセル1個単位で3つのパラメーターを最適化すると、約3.3×10の871乗というパターン数になり、従来の技術で解読に1ヶ月半を要します。それを量子コンピューターであれば60分で実行可能です。このパラメーター設定で通信品質が上がり、お客さまにサービスを届けることができます。

量子の取り組み事例

量子ソフトウェアスタートアップJijが語る日本の立ち位置

後半のセッションのゲストとして、KDDIが出資するJij CEOの山城 悠氏と、KDDI 先端技術研究本部長の宮地 悟史、KDDI総合研究所 AI部門の斉藤 和広が登壇しました。

トークセッションの様子

山城氏はJijについて「量子技術を使って複雑な問題を解くことに特化しており、特に量子コンピューターをどのように実際のアプリケーションとして作っていくかというアルゴリズムの部分に特化した、ソフトウェアのスタートアップです」と紹介。現在約40名の規模で、東京とイギリスの2拠点で活動しています。

株式会社Jij 代表取締役 CEO 山城 悠氏
株式会社Jij 代表取締役 CEO 山城 悠氏

Jijは2018年末にJSTのSTARTという研究プロジェクトから始まり、その後Microsoftや日本の大手電機メーカーなどとパートナーシップを組み、彼らのハードウェアの上で動く量子コンピューター向けのソフトウェアを開発してきました。

藤井から「AIはLLMで日本が出遅れた印象があるが、量子技術において日本は世界でどのような状況にあるのでしょうか」と問われた山城氏は、各国の政府機関の投資計画を紹介し、日本の強みについて言及しました。

量子技術の世界の動向

「日本はQ-STARという産業団体を通じて、企業側が量子コンピューターのユースケース開発に積極的です。海外と比較しても、日本は面白いユースケースを多く生み出しています。また、ユースケースを支えるアルゴリズムといったソフトウェアレイヤーも含めて、強い立ち位置にいます」(山城氏)

各国の量子コンピューターのハードウェアメーカーが日本に注目しているのは、日本の技術者が量子をうまく活用し、技術を発展させてくれるからだと山城氏は説明し、日本が世界から期待されている状況を明らかにしました。

KDDIが描く量子通信の未来

続いて宮地が、KDDIが目指す量子基盤のビジョンについて発表しました。

KDDI 先端技術研究本部長 宮地 悟史
KDDI 先端技術研究本部長 宮地 悟史

「まずはAIと量子が同居する計算基盤を作っていきます。また、量子計算機が普及すると、通信のレイヤーも量子のまま通信する、いわゆる『量子通信』が必要になります。まだ基礎研究の段階ですが、取り組みを始めています」(宮地)

目指す姿

量子基盤の活用イメージは、物流最適化から医薬品開発まで多岐にわたります。たとえば、医薬品開発では、現在年間約3億匹に行われている動物実験を、量子コンピューターによるシミュレーションで削減できる可能性があると言います。また、量子計算機をめぐる現状の課題について言及しました。

「量子計算機への期待は大きいと思いますが、日々の進化が早く、全体で見ればアーリーステージにあると思います。今すぐ何億円も投じて量子計算機を購入したとしても、来年には陳腐化するリスクもあるのです」(宮地)

宮地は、この課題に対して通信基盤を例にとり、「インターネットが登場した当初、物理レイヤーはアナログ電話回線を使ったダイヤルアップ接続でした。その後、ISDN、ADSL、光ファイバーと進化しましたが、基本的なアプリケーションが使用しているプロトコルは、40年前に実用化されたTCP/IPで共通化されており、世代を問わず使い続けられています」と説明し、AI・量子においても共通基盤を構築することで、2つのメリットが得られると続けます。

「1点目は、量子計算機の世代が新しくなっても、利用者は投資回収の心配を最小限に、安心して使用できるプラットフォームを提供できる点です。2点目は、数式化の支援です。量子計算機が得意とする領域は数式で表せる世界です。ただし、社会課題を数式化する部分が難しいため、お客さまにとって使いやすくする意味での中間層を提供します。2つの価値を備えたミドルウェアを開発すべく、プロジェクトを推進しています」(宮地)

KDDIの狙い

量子コンピューターの実用化に向けて―NEDO開発事業の取り組み

続いて斉藤が、量子コンピューターのユースケースについて解説しました。

「量子コンピューターの重要な特徴は、計算スピードが飛躍的に向上することです。なので、計算量に課題があり、スピードを速めたいものが基本的にはユースケースの対象となります」(斉藤)

KDDI総合研究所 AI部門 斉藤 和広
KDDI総合研究所 AI部門 斉藤 和広

特に効果を期待できるものとして最適化と化学計算の領域を挙げました。

「最適化は、膨大な組み合わせの中から最適解を探す、非常に計算量が多くなる問題に適用効果が見込めます。KDDIでは、通信領域で発生する最適化問題に量子を適用する取り組みを進めています。他にも物流経路で、倉庫から複数拠点にモノを運ぶときのルート選びに活用できます」(斉藤)

化学計算の材料開発に関しても、さまざまな分子の組み合わせで結晶構造を作っていく過程で量子コンピューターを活用可能です。

「材料に求められる強度や柔軟性、耐久性をより良くする分子の組み合わせを、分子レベルでシミュレーションし、材料の特性を分析することも考えられるでしょう」(斉藤)

トークセッションの様子

続けて、KDDIでは、実際に量子コンピューターをユーザーに体験いただける基盤の開発を「NEDO開発事業」というプロジェクトとして進めていることを紹介しました。

プロジェクトには3つの特徴があります。第一に、利用者と開発者を分離し、専門知識がなくてもアプリケーションを実行できる仕組みを構築すること。第二に、GPUと量子コンピューターのどちらで計算すべきかを自動判定し、将来的に高性能な量子コンピューターが登場したら自動的に切り替わる仕組みを実装すること。第三に、計算機の状態をリアルタイムに把握し、量子コンピューターの安定稼働を実現することです。

AI・量子共通基盤の開発

プロジェクトには、Jijを含め、産業技術総合研究所、大阪大学、早稲田大学、芝浦工業大学、QUNASYS、セック、慶應義塾など、多くの研究機関と企業が参画しています。

最後に、藤井は全体を総括し、「本日はAIからデータを基盤としたAIの活用法、その先のAIと量子で全体を最適化させていくところまで、お話しをさせていただきました。私たちがフォーカスしたい領域は、本当にリアルな現場、実社会、実生活で活用できるAIや量子を試行しています。皆さまとともに実現できればと考えています」と、今後の展望を語りました。

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