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「船乗りの命を守りたい」au Starlink Directがつなぐウェザーニューズ創業からの思い

2025年4月に提供を開始した「au Starlink Direct」は、空が見えれば圏外エリアでも通信ができる、Starlink衛星とauスマートフォンの直接通信サービス*1です。

サービス開始時には、テキストメッセージや位置情報の送受信、災害時の緊急速報メール受信に対応し、8月にはデータ通信も可能になりました。au Starlink Directのデータ通信に対応するようアプリを開発(衛星モード対応)することで、圏外でもさまざまなアプリで画像や各種データの送受信ができるようになったのです。

そんな中、いち早くau Starlink Directとの連携を図ったのがウェザーニューズ。8月に、同社の法人向け気象情報サービス「ウェザーニュース for business」をau Starlink Directのデータ通信に対応させ、リリースしました。

海上には、沖合を中心に電波が届きにくい区域が残っており、多くの船がそこで航行しています。本記事では、海上で燃料輸送を行う旭タンカーの協力のもと、au Starlink Directと連携したウェザーニュース for businessを体験。何が実現できるようになったのかを紹介します。

法人向け気象情報サービス「ウェザーニュース for business」。au Starlink Directに対応し、圏外エリアが残っている海上でも空が見える場所であれば、アプリを使用できるようになった
法人向け気象情報サービス「ウェザーニュース for business」。au Starlink Directに対応し、圏外エリアが残っている海上でも空が見える場所であれば、アプリを使用できるようになった

最新鋭EVタンカー「あさひ」でお話を聞いた

今回取材を行ったのは、旭タンカーのピュアバッテリー電気推進タンカー「あさひ」。港湾内を行き来し、大型船に重油などの燃料輸送を行うタンカーです。

「あさひ」は全長約60m、総トン数約490トン。世界初のEVタンカーとして2022年に竣工。川崎港をベースに、燃料を積んで横浜・千葉・横須賀などに停泊する大型船に補給
「あさひ」は全長約60m、総トン数約490トン。世界初のEVタンカーとして2022年に竣工。川崎港をベースに、横浜・千葉・横須賀などに停泊する大型船に燃料を補給

エネルギーの海上輸送を行う旭タンカーでは、保有管理する内航船およびグループ船団に対して、据え置き型のアンテナを使って衛星通信を可能にするStarlink Businessの導入を順次開始しています。現在、「あさひ」の通信を担うのは、屋根に設置された5Gアンテナ、Wi-Fi、衛星電話で、電波が届くエリアではクルーそれぞれのスマホも使うことができます。

そうした現状を踏まえて、「あさひ」の船長を務める藤本 旭さんは、船上での通信状況を次のように説明しました。

EVタンカー「あさひ」船長 藤本 旭さん
EVタンカー「あさひ」船長 藤本 旭さん

「天候の確認にウェザーニュース for businessは活用していますが、岸から数キロ離れたり、岸に近くても大きな船の影に入ったりすると、圏外になり天候の変化をリアルタイムで確認するのが難しくなっていました。

予報については、事前に事務所から情報をPDF化したものがLINEで送られてきますが、こちらも沖に出て圏外になるとアップデートできません。ですので、特に海が荒れてくると最新の気象情報が取れず、判断が遅れることがありました。船上だけ情報から“取り残される”感覚です」(藤本さん)

圏外時のコミュニケーションの基本はブリッジに備えられた衛星電話
圏外時のコミュニケーションの基本はブリッジに備えられた衛星電話

また、海上での通信によるコミュニケーション全般においては「圏外になるとブリッジにある衛星電話が頼りになりますが、別の場所で作業していると、都度ブリッジまで行き来しなくてはならず、時間差ができてしまうのが課題」と言います。

そうした現場の課題解決に貢献することになるのが、au Starlink Directとウェザーニュース for businessの連携です。

業態にあわせてカスタマイズされるウェザーニュース for business

利用者数No.1(2025年9月、ウェザーニューズ調べ)の天気予報アプリ「ウェザーニュース」と、その法人版である「ウェザーニュース for business」は、具体的にどのような点が違うのでしょうか。ウェザーニューズで内航海運向けのサービスを担当する佐藤 天音さんに聞きました。

株式会社ウェザーニューズ 航海気象事業部 佐藤 天音さん
株式会社ウェザーニューズ 航海気象事業部 佐藤 天音さん

「『ウェザーニュース for business』は、一般のお客さま向けのお天気アプリを“そのまま業務に使える形”で拡張した法人向けサービスです。最大の特徴は、企業ごと・現場ごとに必要な気象情報をピンポイントで提供できること。工場、建設現場、港湾、農業、ドローンなど、業態によって必要な情報は大きく異なるため、各社のニーズを丁寧にヒアリングし、必要な気象コンテンツをカスタマイズして提供しています」(佐藤さん)

とりわけ、同社の船舶の安全への思いは強いと言います。

「私たちウェザーニューズの原点は、『船乗りの命を守りたい』という思いにあります。1970年に福島県の小名浜沖で起きた爆弾低気圧による海難事故では、多くの船員の方が被害に遭われました。創業者はその出来事をきっかけに、“船乗りのための専門的な気象情報が必要”と、会社を立ち上げました。創業以来、この精神は変わらず、外航・内航を問わず船の安全運航を支えることを最重要使命としています」(佐藤さん)

ウェザーニュース for businessとau Starlink Directの連携

au Starlink Directは、対応できるアプリを広げ、その用途をどんどん広げています。KDDIでこうしたサービス開発を担当する日比野 健太郎は、「ウェザーニュース for business」との連携を振り返ります。

KDDI ビジネス事業本部 プロダクト本部 モバイルサービス企画部 日比野 健太郎
KDDI ビジネス事業本部 プロダクト本部 モバイルサービス企画部 日比野 健太郎

「au Starlink Directは、当初から『非常時の連絡手段』と『山・海など圏外が多い現場での業務支援』という2つのケースを軸に構想されていました。その中でも、特に海上は電波が途切れやすく課題が大きい領域で、気象情報が命に直結する現場でもありました。そうした課題解決に寄与するには最適なパートナーと考えて、ウェザーニューズさんにお声がけをしました」(日比野)

au Starlink Directの通信でスマホアプリを使用するには、アプリ側で衛星モードに対する改修が必要となります。

「Androidの場合はGoogle、iPhoneだとAppleが定める仕様があり、それらを踏まえた技術的要件があります。ウェザーニューズさんとも、この技術的要件をベースに調整を進めていきました。au Starlink Directの衛星通信でアプリを快適に使えるよう、実装の方向性を細かく擦り合わせてきました。衛星の仕組みをどう生かせば、海上のお客さまがストレスなく気象情報を得られるのかという観点で密に連携し、スムーズに開発を進めることができました」(日比野)

au Starlink Direct×ウェザーニュース for businessの3つのポイント

こうして、圏外でもau Starlink Directで「ウェザーニュース for business」が快適に使用できるよう、特に3つのポイントに力を入れて開発が行われました。「あさひ」の船上で、実際にこれらの機能が活用される現場を見ていきます。

「あさひ」の甲板で、「ウェザーニュース for business」を使用してみるKDDI 日比野とウェザーニューズ 佐藤さん
「あさひ」の甲板で、「ウェザーニュース for business」を使用してみるKDDI 日比野とウェザーニューズ 佐藤さん

①ウェザーニューズの1kmメッシュの独自ピンポイント予報

波・風の1時間ごとの予測をピンポイントで確認
波・風の1時間ごとの予測をピンポイントで確認

ウェザーニューズでは、港湾や洋上における地形効果や吹走(すいそう)距離、吹続(すいぞく)時間などを反映した独自の予測モデルを用いて、港湾や洋上の風・波を1kmメッシュのピンポイントで予測しています。

「海上では風や波、台風などが運航に直結するため、これまでよりも細かい精度で“その場所の未来”を見られることが大きな特徴です。au Starlink Directの通信環境に合わせて、必要な気象データをコンパクトにまとめて衛星モードでも読み込めるよう最適化しました」(佐藤さん)

②リアルタイムで確認できる雨雲レーダー

空が見える場所で、雨雲レーダーを確認
空が見える場所で、雨雲レーダーを確認
ウェザーニュースアプリでもおなじみの雨雲レーダー。データが重いため軽量化を行った
ウェザーニュースアプリでもおなじみの雨雲レーダー。データが重いため軽量化を行った

「Starlink Businessやau Starlink Directが無い状況では、事前に入手した気象情報を持ち運んでいただくしかありませんでしたが、ウェザーニュース for businessとau Starlink Directとの連携で、リアルタイムの気象情報をご覧いただくことができるようになりました。安全確保のために、予測と実際のズレを埋める雨雲レーダーはとても重要なコンテンツだと考えています」(日比野)

「雨雲レーダーは地図データが重いので、au Starlink Directに対応させるため、地図の軽量化や表示の高速化を行って、迅速に読み込めるように開発しています」(佐藤)

船乗りの命を守るサービスが、つなぐチカラの進化でより強靱に

「あさひ」の船長である藤本さんは、au Starlink Direct×ウェザーニュース for businessへの期待を語りました。

左:KDDI 日比野 健太郎、右:「あさひ」船長 藤本 旭さん
左:KDDI 日比野 健太郎、右:「あさひ」船長 藤本 旭さん

「1日の航海は、事前にPDFなどでもらう予報をもとに判断していましたが、au Starlink Directに対応したウェザーニュース for businessなら、アプリを使って衛星経由でリアルタイムの情報が得られるようになり、欲しい情報が欲しい瞬間に手に入ります。これは船で働くスタッフにとってはとても大きな安心感につながります」(藤本さん)

ウェザーニューズ佐藤さんとKDDI日比野は、今後の展望について次のように期待を込めます。

「当社では生成AIが天気や防災などの質問に答えるお天気エージェントを提供していますが、今後は内航船や港湾、海上工事のお客さまに特化したお天気エージェントを開発したいと考えています。これまで40年ほど蓄積してきた膨大な運航データやリスクコミュニケーションの知見をAIに組み込んで、『風はどのくらい危険?』『波は何時ごろ高まる?』といった運航や作業に関する気象の質問に、自然な文章で回答できるといいと思っています。海上や山岳など、圏外になりそうな場所のリスクに十分回答できるよう、チューニングを加えて、衛星通信に合わせた必要なデータを簡潔に提示できるようにしたいです」(佐藤さん)

「お天気エージェント」は、質問すると、蓄積された気象データと予測モデルをもとに、状況に応じた天気の解釈や注意点を自然な文章でAIが答えてくれる
「お天気エージェント」は、質問すると、蓄積された気象データと予測モデルをもとに、状況に応じた天気の解釈や注意点を自然な文章でAIが答えてくれる

「au Starlink Directは特定業種向けアプリとの相性が非常に良いと感じています。海事、建設、鉄道、林業など、圏外が課題になる現場から、“このアプリを衛星対応してほしい”という声を多くいただいています。KDDIでは、より多くのアプリがau Starlink Directに対応できるよう、衛星モードに必要な技術要件や最適化のポイントを公開し、事業者のみなさんが開発を進めやすい環境を整備しています。さらにはスマートフォンにとどまらないIoTとの連携も進めていきます」(日比野)

au Starlink Directは、これからさらに発展していきます。「日常をつなぐ」「非日常をつなぐ」「空が見えればどこでもつながる」という思いのもと、KDDIはつなぐチカラを進化させ、パートナー企業との連携を深めることで、社会課題解決や、産業の発展に貢献していきます。

*1:対象機種要。メッセージアプリに加え一部アプリのデータ通信可。音声通話未対応 衛星捕捉時、留守電・着信転送等利用不可。利用環境により接続が制限される場合あり。サービスエリアは日本国内(領海を含む)のau 5G/4G LTEのエリア外。

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