KDDIと次世代モビリティのフロントランナー企業が描く、100年先のまちづくり―KDDI SUMMIT 2025

2025年10月28日から29日にかけて、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)の会場とオンラインのハイブリッド形式で、KDDIグループ最大級のビジネスイベント「KDDI SUMMIT 2025」を開催しました。

地域の交通課題が深刻化する中、自動運転技術は実証から社会実装のフェーズへと移行しつつあります。「KDDI SUMMIT 2025」におけるトークセッション「未来のモビリティ共創 ~自動運転時代の地域課題解決~」では、シェアリングエコノミー協会代表理事の石山アンジュ氏をモデレーターに迎え、3つのテーマの下でKDDI取締役執行役員常務の勝木朋彦が、自動運転に取り組むフロントランナー3社に自動運転の現状と今後の可能性を聞きました。

KDDI 取締役執行役員常務 CSO 兼 CDO経営戦略本部長 兼 オープンイノベーション推進本部長 勝木 朋彦
KDDI 取締役執行役員常務 CSO 兼 CDO経営戦略本部長 兼 オープンイノベーション推進本部長 勝木 朋彦

自動運転技術の現在地と可能性

セッションの最初のテーマは「地域の交通課題解決に向けた自動運転の可能性」。まず自動運転技術の現状について、自動運転レベル4の技術開発を行うティアフォーにおいて代表取締役 執行役員 CEOを務める加藤 真平氏が自社の取り組みを中心に説明しました。

同社が開発する自動運転ソフトウェア「Autoware(オートウェア)」は、誰でも無料でダウンロードや改良、使用ができるオープンソースプラットフォームです。ティアフォーではこのAutowareを使用して、ロボットタクシーや自動運転バスなどの社会実装を目指しています。その一環として、2025年に特定条件下で自動運転システムが全ての動的運転タスクを実施する「特定自動運行」の許可を取得しました。これに基づき長野県塩尻市で走行させるなど、商用化への取り組みを進めている最中です。

自動運転バスの運転席から見た風景。安全のために右左折は非常にゆっくりと行っている。
自動運転バスの運転席から見た風景。安全のために右左折は非常にゆっくりと行っている。過去の記事はこちら

「許可と言っても制約が厳しく、とくに右左折は本当にゆっくり走らないと安全を100%保証できません。なので、かなりゆっくり走っています」と加藤氏は説明します。

自動運転は人の移動だけでなく、物流分野への展開も広がっています。同社がヤマハ発動機と共同開発した工場内搬送ロボットは、すでに24時間365日の商用運航を実現し、全国の工場で導入されているのです。

エンタメ分野など多くの領域で活用が進みつつある自動運転について、加藤氏は「自動運転というテーマに取り組み始めると、本当にいろんなユースケースがあります。世界経済的に見てもかなりインパクトがあり、応用が広い技術です」と実感を述べました。

株式会社ティアフォー 代表取締役CEO 加藤 真平氏
株式会社ティアフォー 代表取締役CEO 加藤 真平氏

日本市場の特殊性と「勝ち筋」

加藤氏が特に強調したのが、オープンソース戦略の重要性です。

「ティアフォー1社でこれをやっても、資本力を持つ大手企業には勝てません。しかしオープンソースにすれば他の企業にも使っていただけます。エコシステムが広がることで大きなマーケットを取れるというのが、オープンソースのコンセプトです」

オープンソース化することによりエコシステムが成形され、巨大資本と並ぶほどのマーケットの実現を目指せるようになる。
オープンソース化することによりエコシステムが成形され、巨大資本と並ぶほどのマーケットの実現を目指せるようになる。

「より速く・より安く」自動運転システムを開発したいという顧客ニーズをオープンソースによって満たすことで、社会課題の解決とマーケットでの競争力強化を両立する。そのような方針を示した加藤氏に対し、モデレーターの石山氏が、日本全体における自動運転の現在地と、市場での「勝ち筋」について問いかけました。

一般社団法人シェアリングエコノミー協会 代表理事 石山 アンジュ氏
一般社団法人シェアリングエコノミー協会 代表理事 石山 アンジュ氏

加藤氏は高齢化に伴う人口減少を背景とした、自動運転のニーズと社会的受容性が非常に高い状態にあることを挙げ、「ティアフォーでは、全国1,700以上ある自治体の中で100ほどの市区町村で何らかの取り組みをこれまで行っており、現在進行形で進んでいる自治体が40から50あります」と答えます。

自動運転の取り組みが、一部都市圏だけでなく、全国各地で行われているのが日本の特徴だ。
自動運転の取り組みが、一部都市圏だけでなく、全国各地で行われているのが日本の特徴だ。

その上で「例えばアメリカは自動運転が進んでいるように見えますが、実際に導入されているのはサンフランシスコやテキサスくらい。ロサンゼルスやニューヨークで始まってもすぐに撤退することが多く、社会的重要性という意味では他国はまだまだです。だからこそ、日本のマーケットはブルーオーシャンで魅力的なのです」と、日本市場の特殊さに勝機があると加藤氏は強調しました。

「マーケットで勝つ鍵はAIにあります。運転中のAIは人間の常識をベースにさまざまな判断を行っていますが、このAI技術も各国との差があり、技術投資をしないと勝てないところです。社会実装に向けてはより細かいチューニングが求められますが、そのためにはデータの蓄積やGPUの問題など、さまざまな課題を解消しなければなりません」(加藤氏)

こうした中、ティアフォーとともに多くの自治体で実証走行を”伴走”した勝木から「自動運転の価値創出においてKDDIに期待することは何か」という質問が飛びました。

加藤氏はセンサーで人間の目や車載カメラ以上の情報を得る協調センシング技術を引き合いに出し、「人と人とは一心同体とはいかないが、通信ができる機械は別です。センシングできれば自分が把握している以上のものが見えてくるので、単体ではできないものを補完可能です。ここに通信の価値が出てきます」と回答し、通信技術の重要性を説きました。

革新的モビリティ群が変える都市の姿

続いてマイクを向けられたのは、JR東日本 常務執行役員の髙木 浩一氏です。

地域交通の不便さは都市部においても顕在化しており、会場となった高輪周辺地区も、南北方向の移動はしやすい一方、東西は坂も多く道も狭いという課題がありました。これに対しJR東日本は、AI予約制のオンデマンド乗り合いサービス「みなのり」をKDDIと共同で展開しました。

「みなのり」はワンボックスカーサイズの車両で、高輪ゲートウェイ駅から白金エリアまでを結び、病院や公共施設など地域住民が利用する場所を巡回するモビリティサービスです。KDDIの技術を活用し、AIがリアルタイムで道路状況やエリア内の移動ニーズを分析。利用者同士が効率的に相乗りできるよう、最適なルートを提供しています。

みなのりではAIを活用することで、効率的な相乗りを実現している。
みなのりではAIを活用することで、効率的な相乗りを実現している。過去の記事はこちら

「移動」から実現する地方創生

2つ目のテーマ「地域に根付いた新たな移動サービス」では、newmo代表取締役CEOの青柳 直樹氏の取り組みから地域の移動サービスについて議論が展開されました。同社はM&Aを通じて大阪にて1,000台以上のタクシー事業を展開しており、同時に自動運転タクシーの実現に向け取り組んでいます。

少子化や人口流出を背景とした地方のドライバー不足には歯止めがかからない状況ですが、青柳氏はこの解決策となる自動運転について「ティアフォー 加藤氏が中心となって進められてきた技術に加え、近年特に発展しているAIや通信技術を組み合わせることでだいぶ整ってきた」と感触を述べつつ「自治体との関係や地域住民の不安など、社会実装をしていくことの課題も感じています」と語ります。

労働人口の減少が各業界で叫ばれる中、地方のタクシー業界も例外ではない。
労働人口の減少が各業界で叫ばれる中、地方のタクシー業界も例外ではない。

そして、現在はティアフォーのAutowareを使いつつ、限定されたエリアで無人タクシーを走行させるテストを行っていると紹介。2025年度内には大阪の堺市で実証を開始する予定です。

加藤氏はnewmoに対して「地域をカラフルに、というビジョンが素敵。技術だけの連携では先細りになるが、共感できるものがあるとずっと一緒にやっていけるイメージがあります」と称賛し、利用者向けアプリの提供とタクシー事業者の運営を1つの会社で行うというnewmoの特性についても「社会実装という面では、他社と大きく差別化されています」と語りました。

アナログな手法が残る現場に対し、一つひとつデジタルのオペレーションを導入している。
アナログな手法が残る現場に対し、一つひとつデジタルのオペレーションを導入している。

勝木からも、KDDIで取り組んでいる高速道路における物流トラックの遠隔監視やMCC(モビリティコントロールセンター)が地域交通に与える影響についての質問が飛びます。

この点について青柳氏は「タクシーに限らず、バスやトラックも共通の形で遠隔管理できればと思っています。道路や天候の情報を一元化した運行管理を、今後は1人1台ではなく、1人n台でできる時代にしていかなければなりません。これができれば、これまでのサービスの限界を超えられるでしょう」と返答しました。

newmo株式会社 代表取締役CEO青柳 直樹氏
newmo株式会社 代表取締役CEO青柳 直樹氏

100年先の未来に向けた「広域品川圏」

最後のテーマである「モビリティと融合したこれからのまちづくり」では、JR東日本グループが取り組んでいる
TAKANAWA GATEWAY CITYでの実証実験を中心に、モビリティ時代の新たな都市構想について語られました。

「TAKANAWA GATEWAY CITYは、100年先を見据えた実験場として位置づけています」と語るJR 東日本 髙木氏。現在運行中のみなのりや、東京と高輪ゲートウェイ駅の間を走る水素バスをはじめ、KDDIと合同でさまざまな実証実験を行っています。

特に注目すべきが、水素由来の電気を使って走る「iino(イイノ)」という独特な形のモビリティです。「南北1.6キロの高輪エリアを走行しており、誰でも気軽に乗ってそのまま移動できる手軽さ」と髙木氏は表現します。街の情報や商業施設のイベントを音声で流せるため広告媒体としても活用でき、時速5km/hという早歩き程度の速さで動くことから「移動をアトラクション的に楽しむ」こともできると紹介されました。

さらに、配達デリバリーロボットも実用段階に入っています。このロボットはAIが人流データを解析して混雑場所を避けるルート検索を行うもので、KDDI社内では自動でゲートを通過してコンビニの商品などを配送する姿が見られます。

高輪では、AIを用いたモビリティ革新の取り組みが数多く進められている。
高輪では、AIを用いたモビリティ革新の取り組みが数多く進められている。

こうした大規模な実証実験や取り組みの背景にあるのが、高輪を中心とした「広域品川圏」の構想です。大井町や浜松町も含めた品川エリアにおける鉄道の移動や決済を、マイナンバーカードや生体認証を連携させて、SuicaのIDひとつあれば、シームレスな移動や生活ができるようにすることを目指しています。

2026年春には高輪ゲートウェイ駅にウォークスルー改札を設置し、荷物を多く持っている外国人観光客も素通りできる改札を作る見込みです。加えて2027年春には品川駅や田町駅、浜松町駅にも導入し、ウォークスルー改札を広げていきます。

またモビリティについても髙木氏は「ラストワンマイルの補完として、観光資源にもなる水上交通や水素バス、2028年の商用化を目指す空飛ぶクルマや自動運転などを活用し、広域品川圏を新たなエリアとして楽しんでいただける場にしていきたいです」と意欲を示します。

大きな未来図を実現する道中ですが、ウォークスルー改札をはじめとする「移動と都市の共生」や「街との一体化」にはデータ統合の問題があったと振り返りました。

「もともとすべてのデータを一元管理できる環境になく、それぞれが独自の技術でやっていたため、ロボット同士がぶつかるようなことが起きていました。そこでKDDIさんと一緒にTAKANAWA INNOVATION PLATFORMを構築し、人流データや監視カメラ情報などすべてを一体化したデータ基盤を設けました。マネージメントは十分できあがってきているので、今後はどうサービスとして展開していくかをKDDIさんと一緒に目指しています」(髙木氏)

東日本旅客鉄道株式会社 マーケティング本部 常務執行役員 マーケティング本部 副本部長 髙木 浩一 氏
東日本旅客鉄道株式会社 マーケティング本部 常務執行役員 マーケティング本部 副本部長 髙木 浩一 氏

また加藤氏はiinoを動かすソフトウェアにAutowareが採用されていることにも触れ、「オープンソースだからこそ、こういう自由な連携ができます。海外で同じものを作ってくれたら、日本発のまちづくりが世界につながっていくでしょう」と、日本のまちづくりがオープンソースのコンセプトにマッチする点に言及。

勝木が「Autowareはいろんな形のものに入れられるのですね」と確認すると、加藤氏は「デリバリーロボットはほぼすべていけますし、空飛ぶクルマも根本的には同じです。船の自動運転も含め、基本的に動くものは全部同じ仕組みでAIを導入できると考えています」と応用の広さを説明しました。

高輪を中心とした地域を「広域品川圏」として、Suicaがあればシームレスな生活を実現できる環境を整備しようと動いている最中だ。
高輪を中心とした地域を「広域品川圏」として、Suicaがあればシームレスな生活を実現できる環境を整備しようと動いている最中だ。

フロントランナー3社が描くモビリティの未来

最後に勝木は、今後の展望とセッションの総括を語りました。

「KDDIの通信事業者としての役割はまだまだあると思っています。特に5Gのエリア通信品質、モビリティの監視制御機能は共創にふさわしいものです。都市OSも皆さんと共創して広げていければと感じた1時間でした」

そうして勝木は、KDDI VISION 2030で掲げる「つなぐチカラを進化させる」の実現に向かっていく姿勢を見せ、セッションは幕を閉じました。

オープンソースによる共創、通信技術との融合、そして100年先を見据えたまちづくり。各社が持つ技術と知見を結集し、世界に誇れる日本発のモビリティ革命が、TAKANAWA GATEWAY CITYから動き出しています。

KDDI SUMMIT 2025のマイページでは、本講演のアーカイブ動画をフルでご視聴いただけます。是非ご覧ください。

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