進化する「WAKONX」で次の競争力を。共創で、未来をひらく―KDDI SUMMIT 2025

2025年10月28日から29日にかけて、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)の会場とオンラインのハイブリッド形式で開催された、KDDIグループ最大級のビジネスイベント「KDDI SUMMIT 2025」。その2日目、KDDI代表取締役執行役員副社長の桑原 康明が、「共創でひらく未来~課題解決を次の競争力へ~」と題して、AI時代のビジネスプラットフォーム「WAKONX(ワコンクロス)」の進化について講演。日本特有の強みを活かした共創による社会課題解決をテーマに、都市と地域の課題への取り組み、AI時代のインフラ整備について説明しました。後半では、WAKONXの事業開発を担当する保科 康弘がスマートシティをテーマに、KDDI自身がTAKANAWA GATEWAY CITYで未来へ向けてどのような実験に取り組んでいるか、講演しました。

KDDI 代表取締役執行役員副社長 ビジネス事業本部長 桑原 康明
KDDI 代表取締役執行役員副社長 ビジネス事業本部長 桑原 康明

「和魂洋才」―WAKONXで描く協調と競争

桑原は冒頭で、10月13日に閉幕した大阪・関西万博で、日立製作所と共同で「未来の都市」パビリオンに出展し盛況を博したことを振り返り、「1970年の大阪万博から55年経っていますが、あの時はそこから高度経済成長に入りました。私は今回の万博も何か潮目の変化があると思っています」と、大阪・関西万博が日本の新たな発展の契機になることに期待を込めました。

KDDI 代表取締役執行役員副社長 ビジネス事業本部長 桑原 康明

WAKONX(ワコンクロス)は、KDDIが2024年に始動した「日本のデジタル化をスピードアップ」するためのAI時代のビジネスプラットフォームです。WAKONXの使命は「協調」と「競争」であると桑原は説明します。

「業界や業種で各社が同じものを使用できるものがあれば、それを皆さまで共有する形にすべきだと考えています。WAKONXの中でそうしたプラットフォームを構築し、自動車業界向けやスマートシティなど、業界別のプラットフォームをいくつか作って、皆さまにご提供していきます」(桑原)

WAKONXの使命

業界や業種で共通利用できるプラットフォームを提供することで、大企業から中小企業まで幅広く活用できる環境を提供できます。また、協調部分にかけていたコストを競争部分に振り向けることで差別化を図ることができます。

WAKONXの名称は「和魂洋才」が由来であり、「西洋の技術を取り入れ、それに和の心を活かしてより良いものにし、世界に発信・革新していくという考え方です。日本は1秒や1ミリといった最後のこだわりが非常に優れているため、社会実装していくところで日本の良さが最も発揮できると思っています」と説明しました。

WAKONX

生産人口減少による「都市への集中と地方の過疎化」を解決

WAKONXの次なる挑戦として桑原が掲げたのが、日本の社会課題解決です。日本が「社会課題先進国」と言われている現状を踏まえ、これをノウハウに変えて競争力にしていく必要性を強調しました。

<都市と共創、地方と共創>
桑原は、社会課題を大きく2つ挙げ、その1つは、生産人口減少による「都市への集中・地方の過疎化」だと説明します。

65歳以上の人口が30%を超えた日本と、他国の高齢化状況を比較し、日本より20年程度遅れてから、他の先進国が同様の高齢化を迎えるであろうと説明。「日本がその経験値を活かしていくための、時間的アドバンテージがあると捉えてもいい」と話します。

そこで、都市に対する部分と、地方に対する部分に分けて考え、都市を支援するソリューションとして、8月に開始した「KDDI Smart Space Design」サービスを紹介しました。これは通信、ロボット、AIを起点とした空間づくりを支援するもので、現在約9,000件の案件を持ち、58社のパートナーと共創してデジタル実装を行っています。

都市・街・オフィスを共創する

また地方においては、行政支援、生活支援、一次産業支援のつ3の切り口で取り組んでいます。行政支援では、地方自治体の人手不足とデジタル化の遅れに対応するため、現在8都市にKDDI社員がデジタル人財として出向し、支援を実施。生活支援では、コンビニエンスストアが重要な役割を果たすと考えています。

たとえば、TAKANAWA GATEWAY CITY内にオープンした「Real×Tech LAWSON(リアルテックローソン)」には、KDDIが運営する「よろず相談窓口」を設置し、健康相談や金融相談などに遠隔でも対応できる体制を整えました。さらに一次産業支援については、全国で200以上の地域共創プロジェクトが進行中で、そのうち20プロジェクトが農業・漁業分野です。たとえば、IoTを活用した温度管理などにより品質向上を図る取り組みが進んでいます。

3つの支援で地域の未来を共創する

さらに、働き方を支援するものとして、PCと通信を一体化させた「ConnectIN(コネクティン)」という仕組みについて言及。法人向けPCにeSIMを実装し、通信環境を意識せずに働けるノマド型働き方を支援します。au回線だけでなくNTTドコモ回線にも対応しているため、BCP用途で併用も可能です。

「どこで働いても会社と同じパフォーマンスで働くことができる環境にしていく必要があります。法人のPCにeSIMを実装し、通信回線、通信料金、容量を完全にバンドルすることで、利用者が通信環境を意識せずに使える仕組みを構築しています。このように、都市と地方の『デジタル×リアル』を共創で支えていきたいと考えています」(桑原)

デジタル活用に必須となる「AI時代のインフラ整備」への取り組み

もう1つの社会課題は、AI時代のインフラ整備です。これを解決するためKDDIは、セキュリティを重視し閉域網での利用を可能にするデータセンターを、2026年1月から大阪府堺市で稼働させます。また、既存の小山や多摩のデータセンターも拡張予定です。

AIデータセンターの取り組み

<同業のパートナーとの共創>
今後、AI推論処理の需要拡大により、ユーザーに近いエッジ側での処理需要が加速することが予測されます。桑原は、それに対応すべく、NVIDIAの最新チップ「GB200」を採用した「KDDI GPU Cloud」の展開と、さくらインターネット、ハイレゾとの「GPUアライアンス」について説明しました。

「GPUにはさまざまなスペックがあります。用途に応じて使い分けていただくことで、日本の計算資源をみんなで活用していこうという考え方です。計算資源は限られているため、それを効率的に使うためのアライアンスを構築しています」(桑原)

2つの取組みでAI開発とAIサービス創出がより一層加速

さらに、KDDIのデータセンターブランドである「Telehouse(テレハウス)」ブランドは、30年以上グローバル展開をしており、現在51サイトでデータセンターを運営していることを紹介しました。桑原はTelehouseの特長を以下のように説明します。

「特長は、主要クラウドと低遅延でセキュアに接続できることです。さらに、さまざまな事業者が相互に接続できることが特長で、これをコネクティビティと呼んでいます。ロンドンでは世界No.1、カナダ、フランス、タイでは国内No.1*1のコネクティビティを有しています」(桑原)

世界に広がるデータセンター“Telehouse”(KDDIのデータセンターブランド)

<世界各国の地域社会との共創>
Telehouseは環境や地域への配慮も重視しており、ドイツ・フランクフルトでは、とある地区の1,000戸以上の住宅や保育園、レストランに暖房を提供するデータセンターからの排熱利用システムを稼働させています。また、フランス・パリでは屋上菜園を設置し、地域住民とともに野菜や果物を栽培するほか、ICT教育による若年層の雇用創出にも取り組んでいます。

屋上菜園やICT教育、雇用創出を通じて地域に貢献

講演の最後に桑原は、「WAKONXを通じて、お客さま・パートナーさまとの共創で、課題“経験”先進国から課題“解決”先進国へ変わる必要があります。そして、この共創を次の力、日本の競争力にしていきたいと考えています」と、社会課題解決への強い意気込みを語りました。

TAKANAWA GATEWAY CITYは社会課題解決の実験場

続く、「都市のイノベーションを地域へ~スマートシティが導く新しい社会~」と題したセッションでは、WAKONXの事業開発を担当する保科より、KDDIが、TAKANAWA GATEWAY CITYを実験の場として、どのような未来へチャレンジし、社会課題解決に取り組んでいるかを講演しました。

KDDI ビジネス事業本部 ビジネスイノベーション本部 ビジネスイノベーション推進2部長 保科 康弘
KDDI ビジネス事業本部 ビジネスイノベーション本部 ビジネスイノベーション推進2部長 保科 康弘

保科は、「街に訪れる人に、街がおもてなしの心をもって接する『ハイパー・パーソナル体験』と、街で働く人の能力を引き出し、人の能力を拡張させる『ハイパー・パフォーマンス体験』。この2つを通じて、さまざまな社会課題解決を実現することにチャレンジしています」と話し、こう続けます。

「高輪は日本で初めて鉄道が海の上を走ったイノベーションの地であり、TAKANAWA GATEWAY CITYはJR東日本さんが開発した100年先の心豊かな暮らしのための実験場です。多様なパートナーや産官学、住民を含めた共創によるまちづくりを推進しています」(保科)

訪れる人へ 街が気づく、働く人へ 街と築く

また、日本の課題として、多様性の進展による従来型マーケティングの限界と、労働人口減少により人による“おもてなし”が困難になることを指摘しました。

この課題解決のため、KDDIは高輪でデジタルツイン・プラットフォームを構築。これは、センサーやスマートフォンなどで取得する情報をサイバー空間でAI分析し、その結果をフィジカル空間へ、5Gなどを使って高速にフィードバックする仕組みです。

「街も人も生きており、日々進化しています。街を理解し、街が自分自身を理解してくれるようにするためには、さまざまな街のデータを収集しリアルタイムに収集し、それを分析して皆さんの体験価値にフィードバックするといった取り組みが必要です」(保科)

このプラットフォームは高輪だけでなく、他の都市でも使用可能な設計となっており、日本全国、さらには世界全体での都市データ連携を目指しています。セキュリティや災害対応のため、ローカルのサーバーとパブリックのクラウドサーバーを組み合わせた構成により、スケーラビリティとBCP対応を両立させています。

AI、ロボティクス、通信などの先進技術を融合させ、人に寄りそう

次に、JR東日本と共同開発した「TAKANAWA GATEWAY CITYアプリ」を紹介。これは、駅の改札やオフィスのセキュリティゲートと連動し、利用者の行動に合わせてレコメンドを行うサービスです。たとえば、コーヒーを毎日購入する人が駅の改札を通った際に、コーヒーの割引クーポンが表示される仕組みや、帰宅時、オフィスのゲートを通った際に、帰路での電車トラブル情報とともに、近隣の飲食店で楽しみながら過ごすことなどを提案できるようになります。つまり、「街が気づいて、適切に情報提供する仕組み」です。

これについて保科は、「ちょうど良いタイミングで提供されることがポイントです」と話し、実証の結果、一般的なアプリのバナー広告と比較して約4倍以上の情報閲覧効果があったことを示しました。

あなたの“今”に寄り添うレコメンド

街の運営という面では、デジタルツイン上でイベントや防災のシミュレーションを実施しています。性別、年齢、歩行速度、肩幅などといった人の属性を考慮してシミュレーションすることで、街の運営の最適化を図ります。日々、街の人流変化を可視化し、さまざまな気候や街の状況に関するデータを蓄積することで、シミュレーション精度の向上を進めています。

まちの未来を予測するビヨンドダッシュボード

街だけでなく、店舗でもタイミングの良いおもてなしを提供しています。TAKANAWA GATEWAY CITYにできた未来のコンビニエンスストア「Real×Tech LAWSON」の1号店では、商品を手に取ったタイミングで、AIが商品に合ったほかの商品や、その人に合った商品を推奨してくれます。適切なタイミングで紹介されることで、お客さま自身の欲求の発見や満足度の向上につながっています。

「惣菜が揚がったタイミングで、店舗内のサイネージが一斉に案内します。店員の方からは『最高のタイミングで商品をお届けできることで、幸せな気持ちになる』という声が届いています」(保科)

おもてなし接客するAIサイネージ

KDDI新本社では、ローソンの商品をロボットが各フロアへ配達しています。同じ規模のフロアでも売上が大きく異なったことから、場所や時間、その人の状態に応じて欲しいものが異なるという仮説が具体化しました。たとえば、チームでの打ち合わせが多いフロアではコーヒーを重点提供し、コミュニケーション活性化を図る取り組みなども考えられます。

あなたの”欲しい”をお届けするロボット

さらに保科は、「たとえば、オーダーが多い時にはデリバリーロボットとして動き、少しオーダーが少ない時間帯には回遊販売や広告活動を行い、有事の際には案内役として対応する。街の状態をデータで把握することによって、ロボットに指示することができるのではないでしょうか」と、1台のロボットが複数の役割を担うことを構想しています。

複数業務をカバーするロボット

近年災害は、地震や豪雨などほぼ日常化しており、規模も小さくありません。事前の対策にもお金、人手、時間がかかり、災害が発生したときの振り返りや対策にもコストがかかります。

この課題に対して、「街のデータを毎日毎時間リアルタイムに収集して、それをデジタルツイン上でAIが学習できる状態にしてあります。これにより、定期的にシミュレーションができ、安心安全な街づくりが可能になると思っています」と話し、TAKANAWA GATEWAY CITYで、人の属性や行動パターンを考慮したシミュレーションを実施したところ、避難場所が避難物資運搬ルートと重複する問題を事前に発見できたというエピソードを紹介しました。

まちぐるみでの対策

取り組みを地域へ拡大する「4つのつなぐ」

保科は、「高輪でやってきた取り組みを他の地域にフィットさせることで、きっと地域の役に立てる」と話し、先端技術・文化・観光・生活の「4つのつなぐ」を示しました。「先端技術をつなぐ」は、スタジアムやアリーナでのロボットによるデリバリーや混雑回避案内。「文化をつなぐ」は、お祭り、教育などを臨場感のあるシステムを使って体験共有。「観光をつなぐ」は、インバウンド観光客に隠れた観光資源をタイミング良く案内するシステム。「生活をつなぐ」は、人口減少地域におけるロボットやドローンなどを活用したモビリティです。

最後に、「高輪での取り組みを他のエリアに展開し、他のエリアで実施したものをまた高輪にフィードバックする。このループを日本全国各地で継続的に高速に行っていくことで、社会課題“解決”先進国・日本、そして世界を元気にしていく、こんなことをしていきたいと思っています」と熱い思いを語り、こう締めくくりました。

「今回TAKANAWA GATEWAY CITYの取組みで、通信・デジタルの力だけではなく、リアルの力を持った皆さまと一緒にやることが、いかに大きな価値を生むか、身をもって体験できました。ぜひ皆さまのお力をお貸しいただければと思います」(保科)

KDDI ビジネス事業本部 ビジネスイノベーション本部 ビジネスイノベーション推進2部長 保科 康弘

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*1 ロンドン、カナダ、フランス、タイいずれもPeering DB 2025年10月時点

 

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