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尾瀬の山小屋にStarlinkを導入 国立公園の山岳地に“つながる安心”を届ける

群馬・福島・新潟・栃木の4県にまたがる「尾瀬国立公園」は、本州でも有数の広さを誇る高層湿原として知られています。ミズバショウやニッコウキスゲなど季節ごとに貴重な植物が彩りを添え、国内屈指の自然の宝庫です。国の特別天然記念物に指定され、世界的に価値ある湿地としてラムサール条約にも登録されています。

紅葉が湿原を彩る秋の尾瀬
紅葉が湿原を彩る秋の尾瀬
湿原を縫う木道のほとりに白いミズバショウが揺れる、夏の尾瀬の象徴的な風景
湿原を縫う木道のほとりに白いミズバショウが揺れる、夏の尾瀬の象徴的な風景

この豊かな自然を守るため、尾瀬では新しい建物や大きな設備をむやみに増やさない決まりがあります。その結果、長いあいだ尾瀬は「携帯電話の電波が届きにくい場所」でもありました。

こうした状況の中、KDDIは関係機関と調整を重ね、通信環境の整備を進めました。自然環境や景観に配慮するため、山小屋やビジターセンターなどの“建物の中およびその周辺”に範囲をしぼって電波を届け、2019年には尾瀬のすべての山小屋でauの携帯電話が利用可能に。これにより、来訪者の安心が高まるとともに、現地で働く方々の業務も大きく効率化されました。

auがつながることを示すステッカー
auがつながることを示すステッカー

尾瀬の通信環境は、新たなステージへ

そして2025年9月、尾瀬の通信環境はさらに前進しました。KDDIは、尾瀬国立公園内の5つの山小屋(温泉小屋、尾瀬小屋、燧小屋、弥四郎小屋、弥四郎小屋別館)に通信衛星サービスである「Starlink(スターリンク)」回線を活用した基地局を導入。これにより、尾瀬の山小屋の通信は新たな段階へと進化しました。

尾瀬の山小屋に設置されたStarlinkアンテナ
尾瀬の山小屋に設置されたStarlinkアンテナ

尾瀬は国立公園に指定されているため、機材や設備の搬入・設置には環境への細心の配慮が求められます。KDDIは、自然への影響を最小限に抑えるため、機材搬入にヘリコプターを使用。登山道や湿原を傷つけないよう、必要最小限の資材のみを運搬し、自治体や環境省と連携しながら最小限の負荷で設置作業を実施しました。

機材の搬入はヘリコプターを利用
機材の搬入はヘリコプターを利用
Starlinkアンテナの設置工事の様子
Starlinkアンテナの設置工事の様子

現在、KDDIは他の山小屋でも順次Starlink回線が使えるよう準備を進めており、通信環境のさらなる向上に向けた対策を続けています。尾瀬の自然を守りながら来訪者と関係者が安心して通信を利用できる環境づくりが進んでいます。

さらに、Starlink衛星とauスマートフォンの直接通信サービス*1である「au Starlink Direct」を利用することで、5G/4G LTE圏外でもSMSやインターネットを使った連絡や、現在地の共有なども可能になりました。

圏外でも空が見える環境であれば衛星モードに自動で切り替わり、ステータスバーの表示が「SpaceX – au 衛星」に
圏外でも空が見える環境であれば衛星モードに自動で切り替わり、ステータスバーの表示が「SpaceX – au 衛星」に

尾瀬で通信がつながる意義

尾瀬ヶ原の東の入口、見晴(みはらし)十字路近くに建つ歴史ある山小屋「弥四郎小屋」は、今回Starlink回線を導入した山小屋のひとつです。オーナーさまは、かつての尾瀬をこう振り返ります。

尾瀬の山小屋「弥四郎小屋」
尾瀬の山小屋「弥四郎小屋」

「以前の尾瀬は“圏外”が当たり前。緊急の連絡には無線を使っていました。2019年にKDDIさんの対策が進んでから携帯電話が使えるようになり、“つながる”こと自体が大きな変化でした」(弥四郎小屋 オーナーさま)

携帯電話がつながりやすくなったことで、現場の安全を守る動きが大きく変わりました。登山者から「途中で動けなくなった」と連絡が入れば、すぐに状況を把握し、救助に向けた初動を取れるようになったのです。

「“つながる安心”があることで、スタッフ同士の連絡もスムーズになり、仕事の進み方も良くなりました。以前は到着しないお客さまを探しに出るしかないこともありましたが、今は『ここで動けません』と連絡をもらえる。命に関わる事態を早い段階で防ぎやすくなったと思います」(弥四郎小屋 オーナーさま)

限られた機会の中で積み重ねた、検証と工夫

取り組みの検討から導入までを担ったKDDI 品質管理部の鈴木 智晴は、Starlink回線導入の狙いをこう語ります。

KDDI オペレーション本部 品質管理部 鈴木 智晴(当時は、KDDIエンジニアリング 運用保守事業本部 東日本運用本部 北関東支社)
KDDI オペレーション本部 品質管理部 鈴木 智晴(当時は、KDDIエンジニアリング 運用保守事業本部 東日本運用本部 北関東支社)

「2019年以降の対策によって、『電話ができる・ネットも使える』段階には到達しました。ただ、当時の衛星回線を活用した対策では、利用が集中する時間や人が多い日などに、『表示が遅い』『重い』と感じられる場面もありました。尾瀬のような山の中まで、長距離で通信用のケーブルを引くのは現実的ではありません。そこで、ケーブル不要かつ、従来の衛星回線よりも高速通信が可能な、Starlink回線の活用という新たなアプローチを選びました」(鈴木)

Starlink回線の検討は、まだ社内でも経験が少ない段階から始まりました。「何ができるのか」「どんな条件が必要か」を一つひとつ確認し、国立公園ゆえのルールにも配慮しながら現地調査を重ねていきました。都心のように頻繁に往復できる場所ではないため、限られた機会で入念な検証と試行錯誤を行ったといいます。

「検討開始から約3年をかけ、2025年9月下旬に切り替え作業を終えて本格導入に至りました。Starlink回線の利用には空が開けていることが欠かせません。見通しの良い場所は有利ですが、山小屋の建物の壁や配置が妨げになることもある。そのため、設置の角度・高さ・向きまで細かく調整しました」(鈴木)

アンテナの角度や高さを細かく調整
アンテナの角度や高さを細かく調整

安定した通信が生む、確かな変化

Starlink回線の導入後、現場からは早くも変化の声が届いています。尾瀬を含む北関東エリアを担当するKDDIエンジニアリングの實近 一樹はこう語ります。

KDDIエンジニアリング 運用保守事業本部 東日本運用本部 北関東支社 實近 一樹
KDDIエンジニアリング 運用保守事業本部 東日本運用本部 北関東支社 實近 一樹

「山小屋の関係者や宿泊者の方々から、ウェブページの読み込みやアプリ画面の切り替えが速くなったという声を多くいただいています。混み合う時期でも通信が安定しており、通話の遅れも少なく、会話のタイミングがずれにくくなったと私自身も感じています」(實近)

通信の安定は、山小屋運営の効率化にも直結しています。予約メールや問い合わせ対応、天候・登山道情報の確認、SNS発信など、日々の業務がよりスムーズになりました。宿泊者からは「山の中とは思えない快適さ」という声も寄せられています。

弥四郎小屋のオーナーさまも、こう話します。

「auが安定してつながるという安心感は、山小屋の運営にも良い影響があります。若いスタッフも働きやすくなり、来訪者への情報提供も柔軟にできるようになりました。今後も安全と便利さを両立しながら、この環境を守り続けてほしいです」(弥四郎小屋 オーナーさま)

すべての来訪者に“つながる安心”を

スマートフォンの役割はこの数年で大きく広がりました。登山中の安全確認、変わりやすい天気の把握、宿泊予約、外国人旅行者への言語サポート、そしてワーケーションまで。通信のつながりやすさは、山での体験をより豊かにしています。

「通信環境が整備され、通信がつながりやすくなるほど、マナーや自然への配慮は欠かせません。尾瀬の静けさと美しさを守りながら、必要なときに確実につながる環境を整えることが重要です」(鈴木)

「混雑する日でもストレスなく使える状態を保ちたい。旅の“いま”を家族や友人と安心して共有できる──そんな当たり前を支えるのが、私たちの使命だと考えています」(實近)

2019年の「建物内でつながる」整備を皮切りに、2025年のStarlink回線導入で「混雑時でも快適に使える」環境へ。KDDIは、厳しい保全ルールの中で、尾瀬の環境と通信の両立を追求してきました。その結果、助けられる命が増え、現場の業務が円滑に進み、来訪者の体験もより豊かに変わりました。

“つながる安心”は、山を訪れるすべての人にとってのライフライン。KDDIはこれからも、「日常をつなぐ・非日常をつなぐ・空が見えればどこでもつながる」という思いのもと、環境や景観に配慮しながら「つなぐチカラ」の進化を加速させ、利用者に安心を届け続けていきます。

*1 対象機種要。メッセージアプリに加え一部アプリのデータ通信可。音声通話未対応 衛星捕捉時、留守電・着信転送等利用不可。利用環境により接続が制限される場合あり。サービスエリアは日本国内(領海を含む)のau 5G/4G LTEのエリア外。

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