enhancing-power

Starlink衛星と直接通信も 自衛隊・消防局らと連携したKDDIの災害対策訓練

阪神・淡路大震災から30年が経ち、昨年は能登半島にて大地震や豪雨による甚大な被害が発生。さらに、南海トラフ沿いで異常な現象を観測された場合や地震発生の可能性が相対的に高まったとする「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」も初めて発表され、人々の災害への意識は高まっています。

災害対策訓練の模様

KDDIは、災害対策基本法の指定公共機関として、いかなる状況においても24時間365日「つなぐ」ことを使命としています。ここでは、2025年1月24日に神奈川県横浜市で実施した災害対策訓練の模様をレポートします。

● 道路が寸断された場合、関係機関と連携して被災地へ

災害発生後の初動時における通信の復旧には、機動力の高い「車載型基地局」が活躍します。被災地にいち早く駆けつけ、衛星回線を利用して臨時の基地局を設営し、利用者のスマートフォンに電波を届けます。

KDDIの車載型基地局

KDDIの車載型基地局KDDIの車載型基地局

今回の訓練は、被災地のシチュエーションとして、半島で大規模地震が発生し、土砂崩れ崩落などによって道路が寸断されて孤立集落が発生したと仮定して実施しました。これは能登半島地震での課題を踏まえたものです。

道路が寸断された状況では、車載型基地局の車両は被災地の孤立エリアに向かうことができません。能登半島地震では多くの道路が被災し、陥没や崩壊などによって通行止めや規制が相次ぎました。

そこで今回は、国土交通省および陸上自衛隊と連携し、悪路に強い陸上自衛隊の高機動車でStarlinkの機材を被災地へ運搬・設置する訓練を実施しました。

国土交通省による道路啓開の訓練国土交通省による道路啓開の訓練

まずは道路をふさぐ放置車両を除去するため、国土交通省の職員たちが「道路啓開(どうろけいかい)」を行います。道路啓開とは、緊急車両の通行のために放置車両の除去や瓦礫の処理などを行い、被災地への救援ルートを開けること。

放置車両を除去後、陸上自衛隊の高機動車で被災地へ。Starlinkの機材を設置し、被災地にインターネット環境を届けます。

Starlinkの機材を乗せた陸上自衛隊の高機動車Starlinkの機材を乗せた陸上自衛隊の高機動車

KDDIと自衛隊によるStarlink設置の協働訓練KDDIと自衛隊によるStarlink設置の協働訓練

Starlinkの機材は従来の衛星通信機材に比べて簡易に設置ができること、また高速な通信が提供できることからKDDIは能登半島地震においてStarlinkを活用し、被災地の避難所などでインターネットの提供に役立てました。

● アクセスが困難な沿岸部の通信を海から復旧

陸路ではアクセスが難しい沿岸地域で通信がつながらなくなった場合、海から復旧機材を運搬し復旧活動を図ります。

Starlinkの活用による携帯電話基地局の復旧訓練Starlinkの活用による携帯電話基地局の復旧訓練

今回は海上保安庁の巡視艇「はまなみ」からStarlinkを活用した携帯電話基地局復旧機材を搬送し、着岸した沿岸部にある基地局を復旧する想定で訓練を行いました。商用基地局を復旧させることで、車載型や可搬型の臨時基地局よりも安定した通信をお客様へ届けることができます。KDDIはこの手法を2023年より導入、Starlinkを活用することで小型・軽量化が図られたことで効率的に復旧活動を進めるようになりました。

さらに、陸からも海からもアクセスできない場合、船上に設置した基地局から電波を届けることも。

弓削商船高等専門学校の協力のもと、同校が保有する「弓削丸(ゆげまる)」が訓練に参加弓削商船高等専門学校の協力のもと、同校が保有する「弓削丸(ゆげまる)」が訓練に参加

舶型基地局用のStarlink衛星アンテナ舶型基地局用のStarlink衛星アンテナ

KDDIは昨年の能登半島地震において、NTTと協力し、NTTグループの船舶の甲板に基地局設備を搭載し、能登半島の沿岸部に海上から電波を届けました。

● ドローンで空から被災者を捜索

被災者の捜索や人命救助では、ドローンを活用。KDDIが被災地に通信環境を提供したことで、目視外飛行が可能になり、遠隔で要救助者の捜索ができるようになります。

要救助者捜索に利用したドローン(Skydio X10)要救助者捜索に利用したドローン(Skydio X10)

災害対策訓練の模様

今回の訓練では横浜市消防局とも連携。KDDIが捜索した被災者の情報をもとに、横浜市消防局が救出する訓練を行いました。

横浜市消防局による救助活動の訓練

横浜市消防局による救助活動の訓練横浜市消防局による救助活動の訓練

● Starlink衛星との直接通信で被災地とつなぐ

Starlinkを活用した災害対策の取り組みのひとつに、Starlink衛星とauスマートフォンの直接通信も。このサービスは、空が見える状況であれば、圏外エリアでもテキストメッセージの送受信が可能。2025年春に本格提供を開始予定です。

Starlink衛星とauスマートフォンの直接通信のデモンストレーションStarlink衛星とauスマートフォンの直接通信のデモンストレーション

今回は、横浜と石川県七尾市にある別所岳をつなぐデモンストレーションを実施。別所岳側のスマートフォンはStarlink衛星と直接通信を行い、横浜側のスマートフォンとのメッセージのやり取りを行いました。

● 災害対応システムのDX化を推進

Starlinkやドローンといったハード面はもちろん、ソフト面でも新たな取り組みを進めています。その代表例が、AI・データを活用した災害対応システムのDX化です。

auの災害復旧支援ツール(デモ環境)auの災害復旧支援ツール(デモ環境)

上の画面はauの災害復旧支援ツール。災害で影響を受けた基地局の数やその周辺情報をリアルタイムで集約したものです。1枚の背景地図の上にさまざまな情報を重ねて表示できるハイパーレイヤリング方式をはじめ、KDDIが開発した先進のWeb技術が用いられています。情報が一元的に可視化されることで、現場の状況の共有や把握がしやすくなり、迅速な復旧判断に役立ちます。災害が激甚化するなか、KDDIは自社の強みである技術を活用し、災害対応をDX化することで、さまざまな課題解決につなげます。

● さまざまな取り組みを共同で行うローソンと連携

今回の災害対策訓練の会場には、ローソンの移動販売車が参加しました。

ローソンの移動販売車ローソンの移動販売車

KDDIは、能登半島地震や奥能登豪雨の教訓から石川県と包括連携協定を締結し、同県の地域活性化および「創造的復興」を推進しており、ローソンとも災害対策のためのさまざまな取り組みを実施。ドローンで物資配送する訓練や、ローソン店舗の屋根に設置したAIドローンを捜索や事故時の初動対応などに活用する「地域防災コンビニ」の実証などを共同で行っています。

● 災害発生時における「つなぐ」ことの大切さ

「災害発生時、一刻も早く通信を復旧するにはどうすればいいのか。そのための対策をハード面とソフト面の両面で日々検討し、訓練を行っています」

そう語るのは、今回の災害対策訓練を統括したKDDI コア技術統括本部 エンジニアリング推進本部 エンジニアリング企画部の鈴木崇之。

KDDI コア技術統括本部 エンジニアリング推進本部 エンジニアリング企画部 鈴木崇之KDDI コア技術統括本部 エンジニアリング推進本部 エンジニアリング企画部 鈴木崇之

今回の災害対策訓練では2023年に実施した訓練と比較し、ハード面とソフト面の両面で大きな進化がありました。ハード面での進化は、Starlinkの活用の拡大です。

「これまでの訓練では、通信の復旧のために車載型基地局や可搬型基地局にStarlinkを活用していましたが、今回の訓練ではさらに船舶型基地局や商用携帯電話基地局の復旧手段としてStarlinkを取り入れ、活用方法を拡大しています。また、Starlink衛星とスマートフォンの直接通信のデモを初めて公開し、災害時の通信手段の一つとして大きく貢献することが実証されました。これまでの復旧手段に『宇宙』の活用を拡大させていくことで、災害対策の可能性が大きく広がったと思います」

ソフト面での進化として、鈴木は「関係機関との連携を一層強化したこと」を第一に挙げます。

「従来からの横浜市、自衛隊、海上保安庁に加え、今回は新たに国土交通省およびローソンと連携し、訓練にも参加していただきました。災害時には、通信だけでなく、お客さまや被災者への配慮を含めた広範囲な連携が重要だと考えていますので、さまざまなパートナーとお互いの顔が見える関係を構築するためにも、ともに訓練を実施できたのは非常に意義のあることだと考えています」

鈴木自身、東日本大震災や能登半島地震をきっかけに、通信の重要性やつながらないことの不便さを実感。その後の取り組みとして、災害時に「つなぐ」ことを自らの使命と感じているといいます。

KDDI コア技術統括本部 エンジニアリング推進本部 エンジニアリング企画部 鈴木崇之

「『つなぐ』という言葉はいろんな意味を含んでいると私は捉えていて。それは単にスマートフォン同士をつないでいるだけでなく、国と自治体、企業と省庁、人と人など、あらゆるもの同士が通信を媒介にしてつながり、それをつなぎ続けるという重要な役割を果たすために、私たちは使命感を持って日々の仕事に取り組んでいます。災害対策に終わりはありません。どれだけ準備しても予測できない事態に対応するためには、国や自治体などの関係機関との連携はもちろん、社会全体の支援や通信事業者同士の協力が不可欠。今後も業界全体で情報やリソースを共有し、さまざまな災害に対応できる強固な体制を築いていきたいです」(鈴木)

いつどこで起こるかわからない自然災害。KDDIはあらゆる状況を想定し、日ごろから関係省庁や自治体、パートナー企業などと連携し、強みである災害対応力を活かして迅速に通信を復旧できるよう備えています。今後も最新技術を取り入れ、人々の命、心、暮らしをつなぐ取り組みを推進していきます。

KDDIトビラの記事カテゴリ

  • X
  • facebook
  • youtube